突然ですが、古代エジプト人と一緒にナイル川を下って冥界へ旅してみませんか? 心配はいりません、天国がどんな場所なのかちょっと覗いてみるだけなのですから。
『図解 天国と地獄』(草野巧 著)では、古今東西の様々な宗教に登場する死後の世界について、文章と図解で紹介しています。今回は本書を参考に、古代エジプトの冥界がどんな場所だったのかご案内します。
目次
天国は2種類ある! 古代エジプトの天国の歴史
古代エジプト人は現世を幸福なものと感じ、人が死ぬと魂は天国で復活し、現世にいたときと同じように幸福に暮らせると信じていた。 『図解 天国と地獄』p.18古代エジプト人の信じる天国は、主に2種類あったといわれています。
ひとつは太陽神ラーの
もうひとつの天国は冥界神オシリスの治める天国で、セヘト・イアル(イグサの野)、セヘト・ヘテペト(平和の野)と呼ばれています。中王国時代(紀元前2130年~紀元前1570年頃)になるとオシリス信仰が盛んになり、ファラオや貴族だけでなく民間人も天国へ行けると考えられるようになりました。
ナイル川を進め! 古代エジプトの冥界の旅
古代エジプト人は亡くなると、自分のカー(生命力。生まれながらに人間に備わったパーソナリティのようなもの)とバー(魂) とを太陽神ラーの船に乗り込ませ、冥界への旅に出たといわれています。その旅では昼間は天空のナイル川を西へと渡り、夜になると冥界ドゥアトを流れるナイル川を下りました。ドゥアトは西方か、原初の水ヌンの下にあるとされましたが、やがてその入口はエジプト中部にある古代都市アドビス付近の山々にあると考えられるようになります。
太陽が沈む西方の「マヌの山」の割れ目からドゥアトの中に入ると、南北に延びる渓谷があり、そこにはナイル川が流れています。
川に沿って船を進めていくと、ドゥアトが12の州に分かれていることに気付くでしょう。
12の州はそれぞれ夜の12時間に対応しており、入口である第1州は日没直後のように明るいですが、奥へと進むにつれてだんだん辺りは暗くなっていきます。州境の門には門番がいて、通過するには呪文を唱えなければなりません。そこで死者たちは呪文の書かれた『死者の書』をあらかじめ持参することにしていました。
さらにドゥアトには様々な怪物や悪霊も棲んでおり、川の両側から死者の魂や心臓を狙っています。古代エジプトの死者たちは護符を持参することで、怪物や悪霊から魂を守ろうとしました。
さて、ドゥアトを流れるナイル川をどんどん進んでいきましょう。第2、第3州は死神ケンティ・アメンティウ、第4、第5州は死神セケルの王国になっています。
続く第6~第9州は冥界神オシリスの王国で、オシリスの信者はここで下船し、オシリスの審判を受けて天国セヘト・イアルへとたどり着くことができました。セヘト・イアルの様子については後ほど詳しくご紹介します。またオシリスの審判の詳細については関連記事「死と再生を司る宇宙のような宝石 ラピスラズリの物語」をご参照ください。
では太陽神ラーの信者はどこへ向かえばよいのでしょう? 心配は不要です。彼らはさらにドゥアトの中を旅し、ケプリ神の支配する第10、第11州を通過すると、ドゥアトの出口である第12州へと到着します。
第12州は夜明け前の明るさに包まれた場所で、ここで太陽神ラーは完全に若返り、新しい昼の旅へと出発しました。ラーの信者たちもここから、ラーの天国へと到達することができたのです。
毎日農業ざんまい 古代エジプトのオシリスの天国
最後に、オシリス神の天国セヘト・イアルがどんな場所かご紹介しましょう。セヘト・イアル(イグサの野)は別名セヘト・ヘテペト(平和の野)とも呼ばれ、テーベ近郊からヘリオポリスあたりにかけてのナイル川沿いにある大きな冥界の一部だったと考えられています。
セヘト・イアルは小麦や大麦が豊かに実る理想郷とされていました。そこには何本もの清流や池があり、不死鳥ベンヌも住んでいます。古代エジプトの人々は死後も現世と同じ暮らしが続くことを望んでいたため、死者はこのセヘト・イアルでも刈り取った麦を干したり、牛を使って畑を耕すなどの農作業にいそしんでいました。
セヘト・イアルには一般人だけでなく、王侯や貴族、金持ちなども暮らしています。彼らは生前、労働を好まなかったため、亡くなるとウシャブチという人形と一緒に埋葬されました。セヘト・イアルに王侯や貴族たちが到着した後はこの人形が彼らの代わりに働き、身の回りの世話をするのです。
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