数々のアニメやゲームのモチーフとして使われている、アーサー王伝説。物語の中でアーサー王と円卓の騎士たちは聖杯探索に出掛けますが、結局聖杯を見つけることはできたのでしょうか?
『英雄列伝』(鏡たか子 著)では、ヨーロッパに伝わる数多くの英雄たちの活躍を紹介しています。今回はその中から、円卓の騎士パーシヴァルの聖杯探索の旅についてご紹介します。
目次
円卓の騎士パーシヴァル、ギャラハッドと出会う
パーシヴァルの生い立ちには様々な説があり、たとえばサー・トーマス・マロリーの『アーサー王の死』ではアーサー王に敵対したペリノア王の息子ということになっています。また他の説では、パーシヴァルはアリマタヤのヨセフの血を受け継いでいるとされます。アリマタヤのヨセフはエルサレムの有力者で、十字架に架けられたイエスの亡骸を墓に葬った人物です。彼がイエスの血を受けた杯を聖杯と呼び、この聖杯は後にヨーロッパへともたらされることになりました。このような経緯から、アリマタヤのヨセフの血をひくパーシヴァルは聖杯を見つけ出すことのできる運命の騎士とされました。
さて成長したパーシヴァルは騎士となり、円卓の騎士の一員としてアーサー王に仕えることになります。
ある年、円卓の騎士たちは聖杯を求め冒険の旅に出ることとなりました。パーシヴァルもキャメロットの城を出立し聖杯探索に出掛けますが、その日の昼近くになった頃、突然20人もの騎士に襲われてしまいます。パーシヴァルが馬を倒されてしまい、もはやこれまでかというその時、どこからか赤い十字の紋章の付いた白い楯を持つ騎士が現れ、彼を助け起こしました。騎士はたったひとりで次々と20人の敵を追い払うと、逃げる敵の後を追って森の中へと駆けていってしまいます。パーシヴァルは馬を失っていたため、ただその背中を見送るしかありませんでした。
彼を救った白い楯の騎士は、円卓の騎士のひとり、ギャラハッド卿でした。ふたりは後に再会することになります。
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パーシヴァル、2度も悪魔の誘惑にあう
馬を失ったパーシヴァルは途方に暮れたまま夜中まで眠ってしまいました。ふと目を覚ますと目の前には美しい夫人が立っていて、パーシヴァルに「私が望む時に私の願いを叶えていただけるなら、馬を貸しましょう」と申し出ます。パーシヴァルが喜んで承諾すると、夫人はどこからか漆黒に輝く美しい馬を連れてきました。パーシヴァルが馬に飛び乗ると馬は勢いよく走り出し、1時間で4日分もの距離を進みました。そうして激流へとやって来ると、そのまま流れの中に入って行こうとするではありませんか。パーシヴァルは川の流れの激しさに躊躇し、思わず十字を切りました。すると馬は彼を振り落とし、いななきながら激流の中へと飛びこんでしまいました。
パーシヴァルは気づきました。彼は悪魔に誘惑され、もう少しで命を落とすところだったのです。そこでパーシヴァルは夜を徹して神に祈りを捧げました。
さてその後、パーシヴァルは1度ならず2度までも悪魔の誘惑にあってしまいます。
2度目の誘惑は次の朝すぐのことでした。朝になるとあたりの様子が変わっており、彼はいつの間にか自分が海に近い荒地にいることに気づきます。やがて海の方から一艘の船がこちらに向かってやって来るのが見えました。船の上にはこの上なく美しい婦人が乗っており、船から降りるとパーシヴァルに力を貸してほしいと頼みます。
パーシヴァルが頷くと、婦人は彼の武具を外させ、彼を誘惑しました。美しい婦人の様子にすっかり心を奪われてしまったパーシヴァルは、婦人に「一命をかけても婦人の望みを叶える」と誓ってしまいます。
その時、パーシヴァルの剣が鞘からするりと地面に落ちました。剣の柄の先にはキリストの像がついていて、それを目にしたパーシヴァルは思わず十字を切ります。すると、婦人は恐ろしい叫び声をあげて船に乗り、逃げ去ってしまいました。婦人が去った後の海は逆巻き、波は焔となって燃えあがりました。パーシヴァルは自分がまたしても悪魔に誘惑されたのだと悟り、再び一晩中神に祈りを捧げます。
パーシヴァルと仲間たち、ついに聖杯を発見す
夜が明けると、パーシヴァルはいつの間にか見知らぬ海岸に立っていました。そこへ、彼と同じく聖杯の探求を続けていたボールス卿とギャラハッド卿、ギャラハッド卿と行動を共にしていたパーシヴァルの妹が現れます。4人は再会を喜びあい、船に乗って海を沖へと進むことにしました。数日後、一行は大きな渦潮に行き当たりました。渦潮の近くに浮かんでいた船に4人が乗り移ってみると、船には銀の卓があり、その上に紅い布に包まれた聖杯が置かれているではありませんか。4人が聖杯の前にひれ伏すとどこからともなく風が吹き、彼らを海の向こうのサラス市へと運んでいきました。
サラス市では王が死に、新しい王を決めるために人々が集まっているところでした。すると天から声が響き、「今この地に着いた騎士のうち、いちばん年下の者を王に選べ」と告げます。そこで人々はお告げに従い、一行の中で最も若い騎士であるギャラハッド卿をサラス市の新しい王とすることに決めました。
残る3人もサラス市にとどまり、聖杯に祈りを捧げながら暮らしはじめます。
しかし1年あまりが過ぎた頃、ギャラハッド卿は天に召されていきました。彼の死とともに聖杯も姿を消してしまいます。
大切な友を失ったパーシヴァルは僧となり、城外に庵を結びました。けれども、パーシヴァルとその妹もやがてこの世を去ることとなります。残されたボールス卿はふたりをギャラハッド卿の墓のそばに葬ると、アーサー王の待つキャメロットへと旅立ちました。
こうして聖杯探索の旅は終わりを告げたのです。
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ライターからひとこと
今回ご紹介したパーシヴァルの聖杯探索譚にはいくつかのパターンがあり、異説もあるようです。ご興味のある方は、時代によって変遷していくアーサー王伝説について調べてみるのも面白いのではないでしょうか。本書はその入口として、きっと役に立つことと思います。◎この記事の参考ページを読む
【タダ読み】パーシヴァル、二度も悪魔に誑かされる-『英雄列伝』