宝石には、人を引き付ける独特の魅力があります。原石にも秘めた力がありますが、加工した石ならば、身に着けた人をさらにきらびやかに飾り立ててくれます。しかし全ての宝石が、所有者に幸せをもたらしてくれるわけではありません。中には、所有者とその親類家族を不幸にしていく呪いの宝石も存在しています。
今回は『パワーストーン』(草野巧 著)を参考に、呪いのダイヤモンドとして知られる「ホープ」についてお話します。
目次
呪いのダイヤモンド ケース①-マリー・アントワネット
呪いのダイヤモンドであるホープは、さまざまな所有者の手に渡っています。中でも歴史的に最も有名な所有者は、ルイ16世およびその妻マリー・アントワネットでしょう。この当時はまだ「ホープ」という名前は付いておらず、ただの青いダイヤモンドでした。
マリー・アントワネットは、直接この青いダイヤモンドを買い取ったわけではありません。ルイ14世が治世を行っていた時代、フランス王家がジャン・バティスト・タヴェルニエというダイヤモンド商人から買い取ったものです。しかしルイ14世が天然痘で他界したため、ダイヤモンドはルイ16世とマリー・アントワネットへ受け継がれることになりました。
この2人がフランス革命により悲劇的な最期を遂げたことは、皆さんご存知でしょう。これが呪いの力によるものかは分かりませんが、青いダイヤモンドを所有していたルイ16世とマリー・アントワネットを不幸な出来事が襲ったのは事実です。
そして青いダイヤモンドも、新政府に没収されることとなったのです。
呪いのダイヤモンド ケース②-ホープ
青いダイヤモンドがホープと呼ばれるようになったのは、1830年ごろになってからです。当時ロンドンで行われた競売会で、銀行家であるヘンリー・フィリップ・ホープが競り落としたため、所有者の名前にちなんで「ホープ」と名付けられたのです。
ホープは宝石収集家としても有名で、この青いダイヤモンドに18,000ポンド出しています。この価格は、当時のダイヤモンドの相場では安価でした。というのも、競売会に参加していた誰ひとりとして青いダイヤモンドの素性が分かっておらず、値が上がらなかったのです。
実は青いダイヤモンドは、2度大きく姿を変えています。ルイ14世が買い取った時には古いインド風のカットがされており、重さは112.50カラットでした。ルイ14世はこれを加工しなおし、69.03カラットのハート型のダイヤモンドにしました。ルイ16世とマリー・アントワネットが手にしたのも、このハート型のダイヤモンドです。
先ほどお話したとおり、フランス革命を経て青いダイヤモンドは新政府が保管することになります。しかし、1792年に泥棒の手によって盗み出されてしまいました。そして出所を分からなくするために、楕円形に近い形へと研磨されたのです。このような経緯もあり、青いダイヤモンドの正体を即座に判断できなかったのでしょう。
さて、呪いのダイヤモンドを手にしたヘンリー・フィリップ・ホープですが、マリー・アントワネットほど壮絶な死を迎えたわけではありません。しかし一生独身で過ごし、ホープの死後は彼の甥がダイヤモンドを受け継ぎました。その甥は54歳という若さでこの世を去り、ほどなくしてホープ家も破産する結末を迎えました。
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呪いのダイヤモンド ケース③-ハリー・ウィンストン
ホープは数々の所有者を不幸にしてきましたが、所有者全員が不幸になったわけではありません。唯一の例外ともいえる存在が、ニューヨークの宝石商ハリー・ウィンストンです。ハリー・ウィンストンに呪いがかからなかったと思われる理由は、2つあります。彼自身が呪いを信じていなかったこと、そして自分ひとりで独占したのではなく、全国各地で慈善ショーを開催し、一般公開していたことです。
とはいえ、ハリーが所有していたころには既に、「ホープ」の呪いは世間に広まっていました。そのため、ハリーより周りの人々の方が呪いを恐れていたという逸話があります。
ハリーが妻とリスボンへと旅行した帰り、妻は金曜の夜の飛行機に、彼自身は翌日の飛行機に乗りました。当時の飛行機は、給油の関係から休憩なしに長距離飛行はできません。リスボンとニューヨーク間の飛行も途中給油が必要であり、ハリーの乗った飛行機はサンタ・マリアに立ち寄ったのです。
サンタ・マリア到着後、彼は休憩を兼ねて、一度飛行機の外に出ます。そして休憩を終えて戻ってくると、これまで空席だったはずの彼の隣の席に、ひとりの男が座っていました。
男は飛行機に乗った理由を、ハリーに話し始めます。男もハリーと同様に、リスボンからニューヨークに向かっていました。しかし本来なら、前日にニューヨークに到着する予定だったといいます。
1日遅れてしまった理由について、男はこう説明しました。
前日に乗っていた飛行機でちょっとしたエンジントラブルが発生し、呪いのダイヤモンド「ホープ」の持ち主の妻が飛行機に同乗していることを知り、急きょ翌日の便へと変更したということです。
この男は、迷信などまったく信じていないとハリーに話しています。
しかし 、ダイヤモンドの呪いを恐れるばかりに本当の所有者の隣席になってしまったのは、信じる者ほど引き寄せられるということなのかもしれませんね。
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