江戸時代の人々はどのような服装をしていたのでしょう? 実は当時の人々は、一言で「和服」や「着物」とはまとめられないくらい、身分や職業などによって全く異なる格好をしていました。
『図解 日本の装束』(池上良太 著)では、時代小説などのいわゆる「歴史もの」には欠かせない「和服」の知識を図解でわかりやすく解説しています。今回はその中から、江戸時代の武家の男性の服装がどのようなものだったのかご紹介します。
目次
武家の男性は小袖の着流し姿だった でも小袖って?
武家の人々の服装は、公の場では厳しい服制(衣服について定めた制度)によって、着物の色や烏帽子(えぼし)の折り方まで指定されていました。しかし日常生活では比較的自由な服装をすることができたといいます。武家の男性が小袖(いわゆる現代の「きもの」)の着流し姿に足袋を履き、扇を持つ姿を時代劇などで見たことがあるという方は多いのではないでしょうか。
いわゆる「きもの」といっても、江戸時代初期頃までの小袖の形状は私たちが知る「きもの」とは少々異なります。身幅は現在のものよりも広く、襟先は膝まであるとても長いものでした。一方で袖丈は六分袖と短く、袖口も狭くなっています。袖と脇とは完全に縫い付けられており、開いた部分はありません。
小袖の形状は時代が進むにつれて変化し、江戸時代後期頃に現在の私たちが知る「きもの」の形になりました。小袖の柄や模様も時代によって流行がありましたが、全般的に好まれた模様には、町人を中心とした縦縞模様や、武家で使われた熨斗目(のしめ)があります。熨斗目は武家の人々が正装する時に身につけた模様で、腰の部分にだけ縞模様があるという柄です。
足袋は殿中などでは履けませんでしたが、日常生活では履くことができ、白色の足袋の他、菖蒲模様や小桜模様といった季節に合わせた柄物や、野外用の紺足袋などがありました。
家庭内では、武士の象徴である大小の刀を差さないことも多くありましたが、護身用など様々な役割を持つ扇は常に携帯しています。
このような小袖の着流し姿の他、武家の子息などは家庭内にいる時も、もう少し改まった服装である小袖袴姿に脇差を指していました。さらに、上から羽織を羽織ることもあります。羽織は黒や茶色の縮緬(ちりめん)でできており、日常では模様や紋の入っていないものが用いられました。
髪型は時代により流行がありますが、一般的には町人に比べて髷(まげ)が太いことが特徴でした。襟足の上の髱(たぼ=後頭部の部分)はぴったりとしていることが多いものの、時代によって少し異なるようです。
身分によって違っていた 武家奉公人たちの服装
それでは、武家に雇われていた人々はどのような服装をしていたのでしょうか?江戸時代、武家に雇われていた人々は武家奉公人と呼ばれ、武家に次ぐ身分として苗字を名乗ることも許されていました。彼らは武家が幕府から与えられている土地から雇われますが、江戸に住む武家の場合、口入屋(くちいれや=一種の職業案内所)を利用して雇われることも多かったといわれています。
武家奉公人たちの服装は、身分によって違いがみられます。まずは比較的身分高い上級な奉公人から、仕事内容とともにご紹介しましょう。
・用人……屋敷内の財務管理や奉公人の管理、対外的なことへの対処などが主な仕事内容です。
・給人……主人の補佐や世話を行います。
・中小姓……文書作成や屋敷内の庶務的な仕事を担当します。
用人、給人、中小姓はいずれも武家の次男や三男といった武家出身者が就く職業でした。彼らは羽二重(はぶたえ)などの絹織物の小袖に羽織袴を着け、腰には大小の刀を差しています。
・若党……町人や農民出身の若者たちが就いた仕事で、主人の警備やお供を務めます。用人や給人、中小姓とは服装に差があり、小袖や羽織袴を着ることはできましたが、刀は
大刀しか差すことができませんでした。そのため、他の奉公人とはすぐに見分けがついたといいます。
続いて下級の奉公人についてもみていきましょう。
・中間(ちゅうげん)、小者(小人)……出身は町人や農民など様々で、槍持ちや草履(ぞうり)取り、馬の口取りから屋敷の掃除、畑仕事まで、雑務全般を担当します。
中間は主人の家紋の入った麻の六尺半被(はっぴ)に梵天帯を締め、裸足の上に直接草履を履くか、脚絆をつけています。時には白色や藍染めなどの股引(ももひき)をはくこともありました。背中には真鍮や銀で鍍金された木刀を差しています。
小者は小袖の着流し姿で、こちらも仕事をしやすい簡単な服装が好まれました。
ひとくちに「武家に関わる人々の服装」といっても、身分や仕事内容によって全く異なっていたことがおわかりいただけたでしょうか。当時の人々が着ていた「きもの」・「和服」は、現代の私たちが着たことのある「きもの」とは異なり、様々な種類に分かれていたのです。
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ライターからひとこと
ただでさえややこしい「和服」・「着物」の名称やつくり。時代や身分、職業によっても着こなし方も異なるのですから、調べるのは大変ですよね。本書ではイラスト入りで簡潔にまとめられていますのでわかりやすく、手元に置いて事典のように使いたくなる一冊です。歴史ものの創作をしている方は必携ですよ!☆この記事の参考ページを読む
【タダ読み】江戸時代の武家の服装-『図解 日本の装束』