弱きを助け強きをくじく正義の味方・騎士。騎士が登場する物語に憧れたことのある方は多いのではないでしょうか。
『図解 中世の生活』(池上正太 著)では、ファンタジーでおなじみの騎士や司祭、修道士、吟遊詩人といった人々のリアルな生活を解説しています。今回はその中から、中世の騎士についてご紹介します。
目次
騎士階級はいつから存在したの?
まず、そもそも騎士階級と呼ばれる人々はいつから存在したのでしょう?戦闘を専門とする戦士階級は、少なくとも古代ギリシア・ローマ時代には存在していました。しかし、彼らの存在がそのまま騎士階級へと発展したわけではありません。中世ヨーロッパにおける騎士階級の源流は、ノルマン人やフランク王国の従士たちにあったとされています。彼らは王や族長に仕える戦闘集団で、彼らが誓った忠誠や奉仕の精神はやがてレーエン制(領主に忠誠を示した戦士に封土や徴税特権を与え、代わりに軍役などの義務を果たさせる制度)へと発展していきました。
この従士たちは、やがてその役割から、古英語で僕(しもべ)に由来する「knight」、フランス語では騎乗を意味する「Chevalier(シュヴァリエ)」、ドイツ語では同じく騎乗という意味の「Ritter(リッター)」などと呼ばれるようになりました。これが騎士のはじまりです。
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騎士になるにはどんな訓練を積めばいいの?
騎士の仕事は主の城で奉仕と軍役の義務を果たすことです。また自分の領土を持っている場合は荘園にある館で領土の経営を行ったり、主の招集に応じて駆けつけることが求められていました。では、そんな騎士にはどうやったらなれるのでしょうか?
騎士の家に生まれた子供や平民の中から取り立てられた優秀な子供たちは、7歳頃から他家の小姓となり、騎士たちへの給仕や身の回りの世話を行いながら騎士としてのマナーや知識を身につけていきます。
14歳頃になると従卒となり、馬の世話や武具の手入れといった仕事の合間に乗馬や武器の扱い方、格闘術、水泳、マラソンなどの修練を積むようになりました。
こうして心身を鍛錬した従卒は、騎士叙任式を経て正規の騎士になります。騎士への抜擢は騎士の息子だけでなく、有能な従卒に対しても行われました。しかし騎士叙任式には多額の費用がかかるため、貧しさから騎士叙任を受けられず従卒のまま一生を終える者もいました。
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華やかな武芸試合 トーナメントってどんなもの?
では、戦争が無い時の騎士はどのような訓練を積んでいたのでしょうか?騎士たちにとって、数ある訓練の中でも最も華やかなのは武芸試合、いわゆるトーナメントです。トーナメントは騎士叙任などの祝祭の際や、武勇を示したい領主や騎士の主催によって行われます。トーナメントの勝者は主催者から賞賛や賞金を得られるだけでなく、敗者から武具や身代金を受け取ることもできました。
中世初期の頃のトーナメントは下馬しての戦闘が中心で、個人戦の他に集団戦もあったといわれています。しかしルールがまだ確定しておらず、死者が出ることがあったり、騎士たちの武装蜂起につながる危険性もあったことから、王たちは度々トーナメントの禁止令を出すこともありました。
やがて中世後半になるとトーナメントは娯楽性が強くなります。騎乗しての槍試合の他、腕相撲やチェスでの対戦も行われるようになりました。こうした対戦は貴婦人たちが応援する中で繰り広げられ、時には宴会などが開催されることもあったといいます。
一挙公開! 騎士御用達の武器・防具
最後に騎士たちが使っていた武器・防具をご紹介しましょう。・長剣
騎士の象徴であり、数ある武具の中でも特に重要とされたのが長剣です。貴重な鉄をふんだんに使うことから、財力の証でもありました。
・槍(ランス)
騎士のもうひとつの象徴は、馬上で用いられるランスです。ランスをはじめとする武器を馬上で使えるようになったのは、馬具、特に鐙(あぶみ)が発展によるところが大きいとされています。
・打撃武器
棍棒・槌矛(つちほこ)・戦槌(せんつい)・斧といった打撃力の高い武器も、鎧や兜で武装した騎士に対抗するために好まれました。騎士が用いるこれらの打撃武器は、馬上で使いやすいよう片手で持てるサイズになっています。こうした武器を馬上で使えるようになったのも、鐙を中心とした馬具の発展によるものです。
・鎧
金属の鋲や小札で補強した長衣や、ホバーク(長い鎖帷子)を用います。鎖帷子は高価なため、貧しい騎士や従卒は丈の短いものや、ジャーキン(袖なしの胴衣)を身につけました。時代が進むと鎧も進化し、鉄板で補強したコート・オブ・プレートと呼ばれる胴衣や、鉄製の小手、すね当てが併用されるようになります。さらに15世紀になると冶金技術が発展し、板金鎧が現れるようになりました。
これらの鎧の下には、分厚いキルティング地のガンベソン、アクトンといった胴衣を身につけます。
・兜
兜は水滴型の鼻当てのあるものが用いられます。時代が進むと兜は頭全体を覆うように進化し、大兜やバレルヘルムという樽のような形の兜、さらにバシネットと呼ばれる面頬つきの兜も登場するようになります。
・盾
盾は木製のものが中心で、凧型が好まれました。後の時代になると、盾には騎士の紋章が美しく描かれるようになります。
以上、騎士について様々な角度からご紹介しました。これでいつ騎士になっても大丈夫。あとは武具を整え、鍛錬を積むのみです!
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ライターからひとこと
ファンタジーではまばゆいばかりのプレートメイルを着た騎士の姿が描かれることも多いかと思いますが、板金鎧が登場するのは15世紀以降ですから、実際の騎士の姿は必ずしもファンタジーと同じというわけではないことになります。本書ではこの他にも、中世ヨーロッパの様々な職業や生活実態を紹介しています。リアルなファンタジーを描きたいなら本書は必携ですよ!
◎参考ページを読む
【タダ読み】中世騎士の訓練とトーナメント-『図解 中世の生活』