『図解 錬金術』(草野 巧著)では、錬金術がいつどこで、どのように研究され、その結果何が成されたのかなど、錬金術にまつわるエピソードや人物をまとめて解説しています。今回はその中から、賢者の石の効力についてご紹介します。
目次
黄金変成だけじゃない 賢者の石の持つ効力とは?
賢者の石、それは中世ヨーロッパの錬金術師たちがこぞって作り出そうとした特別な物質です。マグヌス・オプス(大いなる作業)と呼ばれる賢者の石を作る工程の最後に、フラスコの中で結合した硫黄と水銀は黒色から白色、そして赤色へと姿を変えます。
この時、色が白くなった段階で取り出すと、それは白い賢者の石となります。白い石は賢者の石としては不完全でしたが、卑金属を銀に変える力を持つとされました。それに対し、色が赤くなるまで作業を続けてから取り出した石は赤い賢者の石となり、完全な賢者の石とされて、卑金属を金に変える力を持っていました。
こうしてできあがった賢者の石は、様々な別名で呼ばれることもあります。たとえば「エリキサ」(中世アラビアで黄金変成を可能にするとされた霊薬)、「ティンクトラ」(金属を染色する色素)、「第5元素」、「哲学者の石」などです。他にも、賢者の石は「太陽の花」「ペリカン」などと呼ばれることもありました。
では、賢者の石にはどのような効力があるのでしょうか?
一般的によく知られている効力として、まず黄金変成が挙げられます。卑金属を黄金に変えられるという効力です。
他にも、万能薬、不老長寿、人間の霊性を高められる、といった効力も賢者の石は持ち合わせていました。さらに、賢者の石があれば天使と交流できるとか、姿を消せる、空を飛べる、さらには究極の知識を得られるとまでいわれることもあります。賢者の石はあらゆる事柄を可能にする完璧な石だと考えられていたので、錬金術師たちはいくらでも効力を追加することができたのです。
歴史上の錬金術師たちと黄金変成の量
錬金術師によっても、賢者の石の持つ効力にはさまざまな差がありました。その中でも、黄金変成に注目してみましょう。錬金術師たちは古来より賢者の石の生成に成功したと主張してきましたが、どのくらいの量の卑金属を金に変えられたのかは術師によって異なっています。
たとえばアラビアの伝説的錬金術師ドゥバイ・ブン・マリクは、使用した量の3,000倍の卑金属を黄金に変成できる赤いエリキサを製造できたといいます。
16世紀スコットランド出身の錬金術師アレクサンダー・セトンは、フランクフルトで行った実験で賢者の石の1,155倍の水銀を金に変えたといわれています。彼は行く先々で黄金変成を成功させますが、賢者の石の秘密を知ろうとするザクセン選帝侯クリスチャン2世に捕らえられてしまいました。後に救い出されますが、捕らえられていた間に受けた拷問の傷が元で亡くなってしまいます。
16~17世紀に活躍した医師・化学者であり錬金術師のファン・ヘルモントは、「ガス」という概念を発明したことでも知られる人物です。彼は達人から与えられた賢者の石を使い、その総量の18,740倍もの水銀を金に変えたとされています。
17世紀ドイツの錬金術師リヒトハウゼンは、錬金術の達人ラビュジャルディルから賢者の石を譲り受け、ドイツ皇帝フェルデナント3世の前で黄金変成を成功させたといわれています。この時、彼は賢者の石の量のおよそ17,500倍の水銀を黄金に変えたということです。
ここまでご紹介した黄金変成のお話は、今となってはどこまで本当のことだったのか確かめようもありません。
ですが、歴史上にはさらに途方もない量の黄金変成が可能だと主張した錬金術師もいます。13世紀の錬金術師ヴィルヌヴのアルノーは、わずかな量の賢者の石を用いるだけで海の水と同じくらいの量の水銀を金や銀に変えられると言ったというのです。
賢者の石の効力、皆さんは信じられるでしょうか? もし賢者の石の生成に成功したら、今回ご紹介した黄金変成の効力が実際にはどのくらいのものなのか、ぜひ試してみてください。
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