『ハリー・ポッター』シリーズでもおなじみの賢者の石。賢者の石の作り方がわかれば、自分でも作れるのではないかと考えたことはありませんか?
『図解 錬金術』(草野 巧著)では、ホムンクルスや金の生f成など数々のエピソードを生み出した錬金術について、文章と図解でわかりやすく解説しています。今回はその中から、賢者の石の作り方についてご紹介します。
目次
賢者の石は万能の石 賢者の石の歴史とは
この世界には、物質の変成に大きな影響を与えることのできる特別な物質があるという考え方があります。古代エジプトでは鉛を利用して不純な貴金属から純粋な金や銀を精製する方法が知られていました。そのため、当時の錬金術師たちは鉛を特別な金属として尊重していたといいます。やがて錬金術の考え方は中世アラビアにもたらされますが、ここでは鉛に代わって硫黄と水銀が注目されるようになります。硫黄と水銀を結合させると、万病を治し黄金変成ができるエリキサ(万能薬)が作れると考えられたのです。
その後、錬金術がヨーロッパへと伝播すると、錬金術師たちは、万病を治し黄金変成できる物質を賢者の石と呼ぶようになります。名前は石ですが、その形は石以外にも粉末や液体の場合もありました。
賢者の石は中世アラビアと同様、硫黄と水銀などから作られるとされていましたが、万病を治したり黄金変成ができるだけでなく、不老不死になれたり、人間の霊性を完成させることができるなど、錬金術師たちが目標とするおよそ全てのことを達成してくれる万能の石であると信じられるようになります。
この他、16世紀の錬金術師パラケルススはアルカヘスト(万物融化剤)の存在を提唱しています。アルカヘストはあらゆる物質を溶かすことのできる物質だというのですが、もし本当にそんな物質が存在したとしても、容器が溶けてしまい保存することができません。そのため他の錬金術師たちにはあまり支持されなかったということです。
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硫黄と水銀~賢者の石の作り方~
それではいよいよ賢者の石の作り方をみていきましょう。賢者の石の材料となるのは、「硫黄」「水銀」「塩」の3つです。しかし、まず硫黄や水銀はどうやって手に入れればよいのでしょうか?
実はこの硫黄も水銀も、現実の物質である硫黄や水銀ではありません。いわば架空の、理想的物質なのです。
錬金術の硫黄・水銀理論では、この硫黄と水銀とはあらゆる物質に含まれているとされていました。そこで錬金術師たちは、鉱物の他、玉ねぎやしょうがといった植物、ライオンやカモシカなどの動物、さらに雨や雪、血液や尿など、ありとあらゆるものを材料にして硫黄と水銀を手に入れようとしました。
中でも最も理想的な材料とされたのは、金と銀です。金からは硫黄が、銀からは水銀が抽出できるとされ、錬金術師たちは煆焼(かしょう)や昇華、融解、結晶化、蒸留といった化学的操作を組み合わせ、理想の硫黄と水銀を抽出しようとしたのです。
さて、硫黄と水銀を抽出できたら、次はそれらを結合させる作業に移ります。「哲学者の卵」と呼ばれる球形のフラスコの中に硫黄と水銀を入れ、アタノールと呼ばれる炉で加熱するのです。
ここで必要となるのが、3つの材料の最後のひとつ、塩です。塩といっても現実の物質である塩そのものではなく、硫黄と水銀を結合する力となる物質のことで、物質の精気(プネウマ)=第5元素と呼ばれることもある物質です。
錬金術師の中には、金と銀から硫黄と水銀を抽出する際にこのプネウマも抽出できると考える者もいました。
また他にも、このプネウマこそが賢者の石だと考え、その抽出に試行錯誤した者もいます。
この場合、その材料として卵が多用された。卵からはまったく形の違う鳥が生まれてくるので、卵には生命の根源的なプネウマが含まれていると考えられたからだ。 『図解 錬金術』p.36賢者の石はこのように、①硫黄と水銀の抽出 ②抽出した硫黄と水銀の融合 という2段階の手順で作られます。錬金術は占星術ともつながりが深いため、2つの手順は天体の影響も考慮して行わなければなりませんでした。賢者の石を得るためのこの一連の作業を、錬金術師たちはマグヌス・オプス(大いなる作業)と呼んでいます。
賢者の石の生成に成功した人物がいた?
実際に、賢者の石を作ることに成功した人物はいるのでしょうか?ヘルメス・トリスメギストスは、中世の錬金術師たちによって賢者の石の生成に成功したとされる伝説的な錬金術師です。
また、『ハリー・ポッターと賢者の石』に名前だけ登場することでも知られる14世紀パリの錬金術師ニコラス・フラメルは研究の末に賢者の石を完成させ、水銀を黄金に変成させた上に不老不死の身体を手に入れたといわれています。
他にも、18世紀ヨーロッパで活躍したサン・ジェルマン伯爵は、賢者の石を粉末にして飲んでいたために大変な長命だったとされています。
いずれの話も伝説の域を出ませんが、もし本当だとしたら何ともロマンのある話だと思いませんか?
さらに最近の人物では、万有引力で有名なアイザック・ニュートンも錬金術の研究を行っていたことが知られています。ニュートンの残した写本の中には、賢者の石の材料となる水銀の作り方が記されていたのです。
しかし残念ながら、ニュートンが賢者の石作りに成功したかどうかは今のところわかっていません。
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