北欧神話といえば何といっても主神オーディンが有名ですが、彼の妻についてはご存知ですか? オーディンの妻はフリッグといい、北欧神話の他の神々同様にたくさんのエピソードを持つ女神です。
『図解 北欧神話』(池上良太 著)では、北欧神話のあらすじから主な登場人物、神話の担い手だったヴァイキングの生活まで幅広く解説しています。今回はその中から、オーディンの妻フリッグのもつ様々なエピソードをご紹介します。
目次
金曜日の語源?! フリッグと彼女に仕える女神たち
北欧神話の主神オーディンの妻はその名をフリッグといい、別名「アースとアースの女神の女王」とも呼ばれる高位の女神です。フリッグという名前はFriday(金曜日)という単語の語源でもあります。フリッグはフェンサリルという館に住んでおり、白や灰色の衣に青鷺の羽の冠と金の帯を身につけています。夫のオーディンと同様に人間の運命を知る能力を持っていますが、自らその内容を語ることはありませんでした。
彼女は古くは豊穣の女神とされていた他、神々の母であり、お産を司る女神でもありました。『ヴォルスンガ・サガ』では、不妊に悩むフン族の王レリル夫妻に、フリッグが子宝を授けるリンゴを届けさせるという場面が描かれています。
フリッグには様々な女神が仕えていました。
その中のひとり、フリッグの侍女を務めていたのはフッラという処女神で、フリッグの長持や履物の管理を担当していました。フッラはフリッグと秘密を共有する仲で、一説にはフリッグの妹であるともいわれています。フリッグの巡らせる陰謀の手伝いをすることもあり、『詩のエッダ』の「グリームニルのことば」では、主神オーディンを陥れようと暗躍する姿が描かれています。
フリッグに仕える女神をもうひとりご紹介しましょう。
女神フーリンは「ギュルヴィの惑わし」などに登場する女神ですが、フリッグの一側面を表しているにすぎないとする説もあります。フーリンの役目は、フリッグが助けたいと思っている人間たちを守護することです。危険から身を守ることをフレイニルというのは、フーリンのこの役割にちなんでいるといわれています。
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良き母だけど欲深いライバル フリッグの3つの側面
それではフリッグはどのような性格の女性なのでしょうか? 本書では、彼女の持つ側面を3つに分類し紹介しています。ひとつめは、息子のバルドルを愛する良き母親としての側面です。
フリッグは息子のバルドルが死ぬ運命にあると知ると、世界を巡り万物にバルドルを傷つけないよう約束させました。しかしヤドリギの若木だけは幼すぎるため無害だろうと思い、バルドルを傷つけないという約束をしないままにしてしまいます。その結果、悪神ロキの策略にあい、バルドルは弟のホズが放ったヤドリギの若木によって命を落としてしまいました。フリッグは嘆き悲しみ、バルドルを地上に呼び戻そうと奔走しますが、結局失敗してしまいます。
フリッグの持つふたつめの顔は、夫であるオーディンのライバルとしての側面です。
彼女は自分が肩入れする人々のためにオーディンと対立し、時には策略をめぐらせ彼を陥れることすらありました。たとえば『詩のエッダ』の「グリームニルのことば」では、オーディンと彼の養子とを仲たがいさせた上に、オーディンが拷問を受けるようしむけています。
フリッグの持つみっつめの側面は、欲深い女性としての顔です。
フリッグは自らの欲望を叶えるためなら、夫以外の男性に身を任せることも少なくありませんでした。『デンマーク人の事績』には、黄金の首飾りを作るために召使いと関係を持ち、夫をかたどった黄金の神像を破壊させたという話が載っています。オーディンはショックを受け、フリッグが亡くなるまで国に戻ろうとはしませんでした。
この他にも、フリッグはオーディンのふたりの兄弟と関係を持ったり、父であるフィヨルギュンの愛人でもあったとされています。夫である主神オーディンは様々な女性遍歴を持つ神でしたが、妻のフリッグもオーディンひとすじというわけではなかったのです。
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