雪の降る夜にひとりで出かけた時など、何だか人ではないものに出会ってしまいそうな薄気味悪い気分になったことはありませんか? そんな時はもしかすると、近くに雪の妖怪がいるのかもしれません。
『幻想世界の住人たちⅣ』(多田 克己 著)では、一つ目小僧やナマハゲ、鬼婆など、日本の主要な妖怪にまつわる様々な伝承や伝説をまとめて紹介しています。今回はその中から、雪女やその仲間の妖怪にまつわる物語についてお話します。
目次
小泉八雲が描いた妖怪・雪女の怪談とは
雪女は透き通るような白い肌に白い着物をまとった、若くて美しい女性の妖怪です。その身体は氷よりも冷たく、雪女に近づいた者は皆凍死してしまうとされています。雪女の正体は雪の精であるとも、雪の中で亡くなった女の幽霊であるともいわれています。小泉八雲の著作『怪談』には、優しさと残忍さという相反する一面を持った雪女の話が残されています。
昔、茂作という老人と箕吉という若者の2人組の樵が、森から帰る途中に暴風雨に遭い、途中の渡船場の小屋に避難して一夜を明かすことになりました。その夜、雨が吹雪に変わると2人の前に雪女が現れます。雪女は老いた茂作に雪をかぶせ殺してしまいますが、若い箕吉のことは一目見て好きになってしまい、殺すことができません。そこで雪女は箕吉に向かい、「今回は命を助けます。でも、もし今日あった出来事や私のことを誰かに話したら、次はあなたのことを殺しますよ」と言って去っていきました。
さて翌冬のある晩、箕吉はお雪という名の美しい娘に出会いました。ふたりはすぐに恋に落ち、結婚して10人の子供をもうけます。子供たちは皆母親に似て肌が白く、そろって美男美女に育ちました。皆が幸せに暮らしていたある夜、お雪の顔を見ていた箕吉は、ふと昔出会った雪女のことを思い出し、お雪にそのことを話し始めます。するとお雪は、「その女は私です。誰かに話したらあなたのことを殺すと言ったのに、約束を破ってしまいましたね。でも今やあなたは10人の子供たちの父親、殺すことはできません。けれどもし子供たちを不幸にするようなことがあったら……」そう言って、すうっと消えてしまったということです。
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各地に残る伝説 雪女とその仲間の妖怪たちあれこれ
雪女は小泉八雲の小説の世界に登場するだけではありません。日本各地には、雪女やその仲間と思われる様々な妖怪や雪の精にまつわる伝承が残されています。秋田県では、雪の降り積もる夜になると子連れの雪女が現れるといいます。この時、雪女に「この子を抱いて下さい」と言われても決して抱いてはいけません。うっかり抱いてしまうと雪女の子(雪ん子と呼ばれます)はあなたの腕の中でだんだん重くなり、その重みで身体が雪の中に沈んでしまうからです。この雪ん子の正体は雪の塊だといわれています。
岐阜県には、ユキノドウと呼ばれる雪の精の伝承が残されています。ユキノドウは普段は目に見えませんが、女や雪玉の形に化けることがあり、時には女の姿で山小屋にやってきて、人間に「水をくれ」と要求してきます。ですが素直に水をあげてはいけません。ユキノドウに殺されてしまうからです。
ユキノドウを撃退するには、熱い飲み物を渡すか、次のような呪文を唱えるといいといわれています。
「さきくろもじにあとぼうし、あめうじかわのやつゆばえ、しめつけはいたら、いかなるものも、かのうまい」 『幻想世界の住人たちⅣ』p.293他にも、和歌山県には雪ん坊という子どもの妖怪の話が伝わっています。雪の降った翌朝、木の下に円形のくぼみがぽつぽつと残っていることがありますが、これは雪ん坊という一本足の子供の妖怪が飛び歩いた足跡だというのです。
雪にまつわる一本足の妖怪の伝承は他の県にもあります。
たとえば、長野県に伝わるシッケンケンと呼ばれる一本足の雪女は、雪の中に現れ、出会った人を捕まえて縄で縛ってしまうといわれています。
一方、同じ一本足の妖怪でも、岐阜県に伝わる雪入道は雪ん坊に似て穏やかな存在です。雪入道は一本足に一つ目の妖怪で、雪の降る明け方に現れて雪の上に足跡を残すということです。
雪の降る夜に外出する時は、これらの雪にまつわる妖怪にどうかお気を付けください。
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