第3.5版の次のバージョンは、2008年8月に英語版の展開が始まったD&D第4版である。
戦闘遭遇での協力と楽しさの第4版
第4版の日本語化は、同年10月の『シャドウフェル城の影』(原題:“Keep on the Shadowfell” WotC 2008、ホビージャパン 2008)と時間差は2か月と極めて短い。同12月『ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズハンドブック 第4版』(原題:“Dungeons & Dragons Player's Handbook: Arcane, Divine, and Martial Heroes” WotC 2008、ホビージャパン 2008)、翌年1月『ダンジョンズ&ドラゴンズ ダンジョンマスターズガイド 第4版』(原題:“Dungeons & Dragons Dungeon Master's Guide” WotC 2008、ホビージャパン 2008)、3月『ダンジョンズ&ドラゴンズ モンスターマニュアル 第4版』(原題:“Dungeons & Dragons Monster Manual” WotC 2008、ホビージャパン 2009)とコア・ルールが日本語で出そろう。以後、2か月と開かずにタイトルのリリースが続く。
第4版は、バトル・グリッドでの戦闘遭遇において、キャラクターが全員が活躍し、かつ協力プレイを促進するという「戦闘遭遇の遊びやすさ」に重点を置いたゲーム・システムに特徴がある。プレイヤー・キャラクターには戦闘場面での「役割」が設けられ、撃破役、指揮役、制御役、防衛役として、それぞれに分類されるクラスのキャラクターが1名ずついれば、戦闘遭遇でのバランスがとれ、協力プレイが発生しやすくなった。キャラクターが身に着ける物的攻撃手段も呪文などの間接的効果の手段も、「パワー」というギミックに集約し使用手続きを共通化することで、異なるクラスのキャラクターもプレイしやすいよう考慮された。パワーが効果範囲を持つ場合、範囲の形は正方形に統一され、戦闘での移動はバトル・グリッドのマス数を数えるだけで、斜めの移動であろうと1マスは1歩とするなど、プレイにおける計算の単純化が図られた。
冒険シナリオは「アドベンチャー」と称され、やはり戦闘遭遇について書式が整備されたのが目立つ。戦闘遭遇の記述は見開き2ページに場所、状況、登場クリーチャーのデータなどを納める書式を基本としている(キャンペーンのクライマックスなど、規模が大きい戦いで、3ページ以上の戦闘遭遇もある)。モンスターのデータも、パワーの書式により記載のデータだけでDMが戦闘遭遇を取り廻せるようになっている。高レベルのモンスターや呪文を使うNPCが登場しても、何冊ものサプリメントのあちこちを参照する必要はない。これにより、セッションの事前の用意についてDMの負担は大いに軽減され、プレイヤーとして遊んでから、DMすることに挑戦しようとするユーザーの追い風となった。
とにかく遊ぶ「デルヴ」というスタイル
この第4版の特徴である戦闘遭遇の形式から、より戦闘遭遇を楽しむ「デルヴ」というプレイ・スタイルが確立する。これはストーリーについての記述が多いキャンペーンで遊ぶアドベンチャーとはまた別に、簡易な状況説明と2~3回の戦闘遭遇をまとめた短編アドベンチャーという風情のもので、短い時間でのとっつきやすいセッションの成立を後押しした。そのスタイルで、レベル1~30までの戦闘遭遇集『ダンジョン・デルヴ』(原題:“Dungeon Delve” WotC 2009、ホビージャパン 2011)、短編集的なアドベンチャー集『ダンジョン・マガジン年鑑』(原題:“Dungeon Magazine Annual” WotC 2010、ホビージャパン 2010)も刊行された。
コンパクトな戦闘遭遇の書式とデルブ形式は"D&D Encounters"をはじめとする店舗イベントの定着も促進した。これらはプレロールド・キャラクターで手軽に参加できるため、初心者導入にも大きな利点になっている。
もちろん一方には、大型キャンペーンの楽しみが用意されている。シリーズ初期の三部作『シャドウフェル城の影』、『雷鳴山の迷宮』(原題:“Thunderspire Labyrinth” WotC 2008、ホビージャパン 2009)、『影のピラミッド』(原題:“Pyramid of Shadows” WotC 2008、ホビージャパン 2009)で、レベル1~10の"英雄級"キャンペーンがプレイできる。
レベル11~20"伝説級"には、ふたつを組み合わせてキャンペーンを展開することもできる『シルヴァー・クロークス戦記 巨人族の逆襲』(原題:“Revenge of the Giants” WotC 2009、ホビージャパン 2009)と『恐怖の墓所』(原題:“Tomb of Horrors” WotC 2010、ホビージャパン 2012)がある。また『デモノミコン』(原題:“Demonomicon” WotC 2010、ホビージャパン 2011)にも"伝説級"デルヴが掲載されている。
『恐怖の墓所』でレベル22まで到達し、それ以上の"神話級"も『ダンジョン・マガジン年鑑』収録の「魔女の冬」や、『ダンジョン・デルヴ』から相当レベルの遭遇を持ってきたり、『ドラコノミコン:クロマティック・ドラゴン』(原題:“Draconomicon: Chromatic Dragons” WotC 2008、ホビージャパン 2010)、『ドラコノミコン:メタリック・ドラゴン』(原題:“Draconomicon 2: Metallic Dragons” WotC 2009、ホビージャパン 2010)にも、竜の住処として"神話級"のデルヴが掲載され、プレイヤー・キャラクターのレベルが30上限のなか、高いレベルまで遊びつくせるラインナップを誇った。
箱庭型のアドベンチャーとD&D第5版への布石
"伝説級"、"神話級"のアドベンチャーは、敵の強さもあって人知れず極地にて戦っていく物語が多い。一方で、一般人もいる範囲で冒険や陰謀や交流があり、世界を感じられるタイトルとして、初期には『スペルガルドの笏塔』(原題:“Scepter Tower of Spellguard” WotC 2009、ホビージャパン 2010)、『失われし王冠を求めて』(原題:“Seekers of the Ashen Crown” WotC 2009、ホビージャパン 2009)、後期には、『不浄なる暗黒の書』(原題:“Book of Vile Darkness” WotC 2011、ホビージャパン 2014)収録のアドベンチャーがある。
また第4版シリーズ終盤には、地域サプリメントとしての情報も掲載して物語と密接に絡めた『殺戮のバルダーズ・ゲート』(原題:“MURDER IN BALDUR'S GATE SUNDERING ADVENTURE I” WotC 2013、ホビージャパン 2014)、『クリスタル・シャードの影』(原題:“LEGACY OF THE CRYSTAL SHARD SUNDERING ADVENTURE II” WotC 2014、ホビージャパン 2014)がある。前者はパソコン・ゲームでもタイトルになっている都市バルダーズ・ゲートの名を冠していること、『クリスタル・シャードの影』は物語も地域も、ドリッズトが主人公の人気小説「アイスウィンド・サーガ」とリンクしていることから、RPGから離れていたD&Dファンの目も引きつけるとともに、モンスター・データはダウンロード提供することによって第3.5版、第4版、D&D NEXT(ベータテストの際の 5th Edition の呼称)までのマルチ・バージョン対応としたことで、それぞれのバージョンのユーザーから好評を得た。
また、第5版への橋渡しという面で、公式の世界設定であるフォーゴトン・レルムに、第4版になる際に失われたと設定された「魔法の織」が戻ってくることを匂わせるエピソードを、店舗開催の“D&D Encounters”向けアドベンチャーに組み込んだり、過去のバージョンのシナリオを公式に 5th Edition 向けにコンバートするというユーザーの資産を活かすことを促す施策によって、既存のバージョンごとのD&Dファンがそれぞれ「第〇版に似ている」と好評する「ダンジョンズ&ドラゴンズ」第5版が登場するのである。
※記事中の日付は記事公開時のものです。