ラピスラズリという宝石をご存知ですか? 12月の誕生石とされている深い青色をした美しい宝石で、古代の神話にもその名が登場します。
『パワーストーン』(草野巧 著)では、宝石やパワーストーンに関連する伝説や物語、効能、魔力などについて解説しています。今回はその中から、ラピスラズリにまつわる物語をご紹介しましょう。
目次
ラピスラズリの物語①古代エジプトの”心臓の護符”
ラピスラズリは美しいウルトラマリン(群青)の色をしており、そのなかに金色をした黄鉄鉱の小片が無数に含まれている。そして、その色合いは、満天の星が輝く古代の夜空のようだといわれている。 『パワーストーン』p.217無数の星が輝く夜空のような宝石ラピスラズリは、まるで宇宙が凝縮されているかのような宝石です。中世ヨーロッパでは、魔術師たちはこの石が上天からの回答を伝えてくれると考え、宝石の中でも特に好んでいたといいます。
ラピスラズリは中世だけでなく、古代から重要な宝石とされていました。いまから5千年以上も昔の古代メソポタミアの神話では、愛と豊穣の女神イシュタルが地下にある冥界への旅をはじめた際に、ラピスラズリの首飾りを身につけていたとされています。
ラピスラズリはまた、古代エジプトの人々にとっても冥界への旅に不可欠なものでした。 古代エジプトでは、人は死ぬと冥界の神オシリスの審判を受け、生前の行いによって天国に行けるかどうかが決まると考えられています。この審判は神の秤(はかり)で死者の心臓を計量することで行われました。死者から心臓を受け取ったアヌビス神は、片方の皿にそれを載せ、もう一方の皿には真理の象徴である女神マアトの羽毛を乗せます。死者の心臓と真理の羽毛が釣り合えば、死者は天国で永遠の生命を手に入れられますが、もし秤がどちらかに傾けば、死者の心臓は怪物アメミットに飲み込まれてしまい、死者は天国に行けずに消滅してしまうのです。
このように古代エジプトでは、心臓は天国へ行くための重要な通行証となるものでした。そのため死者の身体をミイラにして保存する際にも、心臓は他の内臓とは別に扱われ、一度他の内臓とともに取り出された後に丁寧に元の場所に戻されるか、肺と一緒にカノプスという壺に保存されました。この時、カノプスに移された心臓の代わりに死者の心臓のあった場所に置かれたのが、ラピスラズリでできた”心臓の護符”です。この護符があれば、オシリスの審判を受ける際に護符が本物の心臓の代わりとなり、審判に合格し天国に住むことができると考えられていたのです。
天国で再生するための呪文が記された『死者の書』にも、”心臓の護符”はラピスラズリで作らなければならないと書かれています。ラピスラズリには魔力が込められていると考えられていたためです。もっとも、実際にはカーネリアンや白い半透明の石で作られることもあったといいます。
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ラピスラズリの物語②浄瑠璃姫と牛若丸
ラピスラズリにまつわる物語は西洋だけでなく、日本にも残されています。ラピスラズリは瑠璃という和名を持ちますが、仏教では瑠璃は七宝のひとつとされ、特に薬師如来と深いつながりを持っています。数多ある浄土世界の中で、薬師如来が主宰する東宝浄瑠璃世界は、木や池、大地などが瑠璃を中心とした七宝でできているすばらしい世界だといわれているのです。
さて12世紀後半、三河の国司である源中納言兼高の夫婦は裕福でしたが、なかなか子どもが生まれませんでした。そこである時、薬師如来に祈ったところ娘が産まれたため、薬師如来の別名である薬師瑠璃光如来にちなみ、娘を浄瑠璃姫と名付けます。
浄瑠璃姫は大切に育てられ、14歳になった年の春、京の鞍馬山から東国に下る途中の牛若に見初められました。浄瑠璃姫は当初誘いを断りますが、ついに口説き落され、二人は一夜の契りを結びます。ところがその後、ふたたび旅立った牛若は吹上の浜で病を患い、瀕死となって砂浜に捨てられてしまいました。
浄瑠璃姫は神仏のお告げでそのことを知ると、吹上の浜に駆けつけます。すでに冷たくなった牛若を見て浄瑠璃姫は泣き崩れ、その涙は牛若の口に流れ落ちました。すると、不思議なことに牛若は息を吹き返したではありませんか。
こうして牛若はふたたび旅を続けることができました。一方、浄瑠璃姫はその後、牛若に会えぬ悲しみから川に身を投げたとも、牛若を追って旅に出たともいわれています。
このお話で牛若が生き返ることができたのは、薬師如来の力が浄瑠璃姫を通して牛若に注ぎ込まれたからではないかと本書では推測しています。古代エジプトの話やこの浄瑠璃姫と牛若の恋物語などから考えるに、ラピスラズリ(瑠璃)には、死と再生を司るパワーが宿っているといえるのではないでしょうか。
本書で紹介している明日使える知識
- ガーネット
- アンモナイト
- コーラル
- エメラルド
- ロッククリスタル
- etc...
ライターからひとこと
本書ではこの他にも、ラピスラズリをめぐる死と再生のエピソードが紹介されています。12月に誕生日を迎える方も、宝石や鉱石に興味がある方も、本書は必見ですよ。【タダ読み】浄瑠璃姫と牛若丸の恋物語-『パワーストーン』