連載4回までに紹介した『ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック 日本語版』の冒頭や、前回の『ダンジョンズ&ドラゴンズ モンスター・マニュアル』の「はじめに」「モンスターとは何か」といった導入部分における、これからD&Dを遊び始めるプレイヤー向けの記述は、いままでのバージョンで遊んだプレイヤーからの意見・反響と、その反映があって整ってきたものだ。
つまりダンジョンズ&ドラゴンズも、より良くなるためバージョンアップが行われてきたのだ。そのなかでも特に大きい変革について、日本での出来事と合わせて述べる。
それは2000年の出来事だ。
3rd Edition の登場
先立つ1997年、トレーディング・カードゲーム(以降"TCG")の元祖“MAGIC The Gathering”のヒットで急成長した Wizards of The Coast(以降"WotC")社は、D&Dの権利元であるTSR社を買収した。TSRは、D&D以外にもゲーム・タイトルをいくつも展開していたが、ビジネスを読み誤り財政危機にあったのだ。それをWotCは人員、製品だけでなく、"TSR"というメーカー・ブランドを含めて引き継いだ。そしてTCG製作・編集のノウハウを応用してD&Dのルール、設定両面で整理・洗練し、なおかつシリーズの一本化を図った。これが2000年に登場したAD&Dの流れを汲む第3版である。並行してRPG向けのミニチュアを、より使いやすい商品として発売し、他社のメタルフィギュアが占めていた部分を自社ビジネスに組み込んだ。“Dungeons & Dragons Miniatures Game”、いわゆる「D&Dミニチュア」である。
かくしてD&D 3rd Editionとして、“Dungeons & Dragons Player's Handbook: Core Rulebook 1”(WotC 2000)、“Dungeon Master's Guide: Core Rulebook II”(WotC 2000)、“Monster Manual: Core Rulebook III”(WotC 2000)は、8月、9月、10月とコア・ルールを連続刊行した。
入門編D&Dの展開は停止され、3rd Edition をして「ひとつのDungeons & Dragons」とし“Advanced”の文字はタイトルからなくなった。
3rd Edition ― 第3版は、書籍としても、ゲーム内容としても大幅に洗練された。たとえばサイコロを振る結果においては全体を通して「出目が大きい方が良い」ことに統一された。これにより、これまでの「大きい出目が良い」という"上方ロール"と「以下の出目を出す」という"下方ロール"が混在するよりも、格段に遊びやすくなった。
オプションルールだった「特技」を整備し、特殊な能力を包括的に扱うシステムとして基本ルールに組み込んだ。これはプレイヤー・キャラクター、モンスターとも同様の書式で情報を扱うことと合わせて、プレイヤー・キャラクターと、ダンジョン・マスターが司るノンプレイヤー・キャラクターやモンスターの全般にわたり、世界再現度を向上させた。 戦闘ルールは、キャラクターがもつ能力値や、それから計算される数値が変わったこともあり、大きく変わった部分だ。
ゲームとしてのスリルと楽しみを考慮した範囲で、ミニチュアを使っての戦闘ルールを Player's Handbook にて詳細に図解し、基本ルールとした。これはキャラクターやモンスターの立っている(あるいは飛んでいたり泳いでいたりする)位置を明確化し、相互の位置関係、呪文や様々な出来事の影響や効果の範囲、罠や建物やダンジョンの設定が明確にできることになり、説明も明瞭にできるようにして、映像作品の場面のような説得力を生むのに役立った。キャラクターの行動順番の仕組みの変更や、戦闘中の行動に伴う時間の管理なども整理された。
コア・ルールはすべてのページがカラーで、内容の並び、索引の利便性、用語の統一性など「使う書籍として編集の精度」も極めて高い製品になっていた。
D&Dミニチュア
さらに、戦闘ルールが詳細になった部分に向けて、プレイのサポート用具の公式ミニチュアが発売された。“Dungeons & Dragons Miniatures Game”がそれで、RPGに使うだけでなく、ミニチュアを用いる2名対戦のミニチュア・バトルゲームを遊ぶルールも用意された。ミニチュアはプラスチック製で塗装済み。箱から出してすぐにプレイに使うことができ、素材により格段に壊れにくいという大きな利点を持つ。製品形態には2種類ある。入っているミニチュアが決まっていて、ミニチュア・バトルゲームのルールやバトルフィールドになるマップもセットになっている「スターターセット」と、入っているミニチュアがランダム(ある程度の種類のうちから、どれが出るかわからない)の「ブースターパック」だ。ドラゴンや人気があるモンスターなどはなかなか出現せず、希少なものはブースターパックのランダムの範囲からしか出現しない、という購買意欲を引き出す仕様。この商品形態はTCGのブースターパックからのものである。
ミニチュアでのバトル・ゲームには同梱されているデータカードを使い、TCGのような大会なども設けられた。とはいえ最も活用されたのはRPGのセッションでのコマとしてとしてだろう。
このミニチュアを使うRPGのプレイは、戦闘場面のルール面での管理と、イメージや情報の共有、プレイ風景が興味を引くなど利点が多い。すぐにバージョンアップされる 3.5 edition において、正方形で敷きつめられた"バトル・グリッド"と呼ぶマップを用いる、より洗練された戦闘ルールへ昇華されることになる。
以来、D&Dミニチュアは第5版に至って発売がWizKids、Galeforce9 といったサード・パーティーが担当する形で、引き続き展開されている。
日本においては、未翻訳輸入品という形で輸入販売され、その堅牢性、利便性の高さから、第3版のころ入手、収集したミニチュアを現在もセッションで使用するプレイヤーは多い。また、新作を個人輸入で収集しているユーザーもいる。
新生D&Dの日本語版
この新生D&Dの日本語版は後を追うこと2年、2002年からスタートした。『ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック 1 プレイヤーズハンドブック』(ホビージャパン 2002)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック 2 ダンジョンマスターズガイド』(ホビージャパン 2003)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック 3 モンスターマニュアル』(ホビージャパン 2003)である。原書同様フルカラーで、参照性の高さは原書のそれを損なわず、日本語においての用語・訳語の統一と五十音順の索引の整備など、行き届いた製品となった。またインターネットも活用をはじめ、日本においてブランクのキャラクター・シート(枠や項目だけが印されていて、キャラクターを作ったり、プレイしたりするにあたり書いたり書き換えたりする部分が未記入の用紙)をはじめ、公式にプレイのサポート資料をウェブサイトのダウンロードによって提供し始めたのはD&D第3版の日本語版からである。DM経験者や、経験者ユーザーの助力もあり、公式ウェブサイトにおける掲示板でのサポートも設けられた。
誌面でのサポートは、かつての「RPGマガジン」から継続する「ゲームぎゃざ」(ホビージャパン 1999-2006)にリプレイ、ショート・シナリオ、解説記事などが掲載され、d20ライセンス製品の『Seven tales of Adventures D&D対応 シナリオ集VOL.1』(ホビージャパン 2003)、『A Seven‐game Match―ダンジョンズ&ドラゴンズ対応シナリオ集〈VOL.2〉』(ホビージャパン 2004)へつながっていく。
第3版のサプリメント、冒険シナリオなどの翻訳も進んだが、バージョンアップである 3.5 Editon が2003年にWotCから発売され、日本語版展開も対応が必要となった。そのため、コア・ルール以外の第3版日本語版製品は少ない点数にとどまった。
本格的ファンタジー小説として
平行していたノベライズの翻訳は、2000年以降も様変わりしつつ続く。ハードカバーの文芸書として「ドラゴンランス」シリーズが「原著者注釈付き完全版」と銘打ち再刊行。「ドラゴンランス」の世界であるクリンの結末に至る『ドラゴンランス 魂の戦争 消えた月の竜』(原題:“Dragons of a Vanished Moon(Dragonlance: War of Souls, Book 3)” Wizards of the Coast 2003、アスキー・メディアワークス 2007)と、続く外伝の「~秘史」シリーズ『ドラゴンランス秘史 時の瞳もつ魔術師の竜』(原題:“Dragons of the Hourglass Mage: The Lost Chronicles, Volume III (Lost Chronicles Trilogy)” Wizards of the Coast 2009、アスキー・メディアワークス 2010)までが翻訳、刊行されることになる。さらに「ドラゴンランス戦記」は、日本のイラストレーターがイラストを担当することでイメージを変え、『ドラゴンランス 1 廃都の黒竜(上)』(KADOKAWA 2009)として刊行されている。※ 日本語版のタイトルの中黒の入れ方については、それぞれの奥付の記述に沿った
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