Wizards of The Coast(以降"WotC")は2003年に、 3rd Edition のユーザーからの意見を反映した決定版として、戦闘ルールのさらなる明確化やD&Dミニチュアの使用も考慮した 3.5 Edition へバージョンアップを行う。これも日本語版展開は2年を追い2005年に始まった。『ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック 1 プレイヤーズ・ハンドブック第3.5版』(ホビージャパン 2005)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック 2 ダンジョンマスタースガイド第3.5版』(ホビージャパン 2005)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック 3 モンスターマニュアル第3.5版』(ホビージャパン 2005)は、1月から隔月ペースで刊行された。
月刊ダンジョンズ&ドラゴンズ
第3.5版コア・ルール3冊の刊行後、順調に周辺商品が日本語化されていく。2005年中は隔月、2006年~2008年はほぼ毎月、翻訳D&D製品が刊行されるペースとなり、俗に「月刊D&D」という状況をもたらした。これはD&Dだからこその環境と言える。第3.5版のサプリメント(種族、モンスター、アイテム、地域、世界観などを解説する、追加設定資料集)は、AD&D系統として剣と魔法の世界をシミュレートすることを追い求め、クラス(職業)、種族、魔法、世界、生き物(プレイヤーが選ぶことのできる種族はもちろん、ドラゴン、デーモン、デヴィルなどまで)についてサプリメントが刊行され、それらの資料性の高さは以後の小説や映画のシリーズが参考にするほどの質と量を誇り、その多くが日本語へ翻訳された。第3.5版製品を資料として生かしていることを作品から読み取れる作品は、ファンタジーを題材とするライトノベル、文芸書、アニメや映画と幅広くみられる。
セッションの物語のシナリオであるアドベンチャー(ストーリーや登場人物、モンスターや戦闘遭遇の情報をまとめてあるもの)についても、冒険シナリオシリーズの名作『赤い手は滅びのしるし』(原題:“Red Hand of Doom”WotC 2006、ホビージャパン 2007)や、初心者向けとして好評を得た『鬼哭き穴に潜む罠』(原題:“Scourge of the Howling Horde”WotC 2006、ホビージャパン 2007)などを含め、第3.5版対応シナリオも7タイトルが刊行された。
翻訳製品ゆえの価格であったことで、流通、販売というビジネス側にとって日本のRPGブームの牽引役となった面もある。2006年から『蛇人間の城塞』(原題:“Fortress of the Yuan'ti” WotC 2007、ホビージャパン 2008)の刊行まで、D&D翻訳書籍の刊行がなかったのは2008年4月のみである。だが翌5月には『フォーゴトン・レルム年代記』(原題:“Grand History of the Realms” WotC 2007、ホビージャパン 2008)と『勇者大全』(原題:“Complete Champion” WotC 2007、ホビージャパン 2008)の2タイトルが同時発売であるほか、サプリメントとD&D冒険シナリオが同時に刊行された月もあり、アイテム数は「月1点」を越える。この刊行ペースは、他に類をみないボリュームなのは言うまでもない(それ以上の英語D&D製品を別として)。それが成り立っていたことは、D&D第3.5版が熱烈に支持されていた証だ。
日本語で読むD&Dに基づく物語
第3.5版の期間にも、テーブルトークRPG以外のD&D翻訳製品がいくつも発売された。前回言及した「ドラゴンランス」シリーズのほかにも、「ダークエルフ物語」シリーズ(『ダークエルフ物語(1) 故郷、メンゾベランザン』原題:“HOMELAND The Dark Elf Trilogy #1”TSR 1990、エンターブレイン 2002)、「アイスウィンド・サーガ」シリーズ(『アイスウィンド・サーガ〈1〉 悪魔の水晶』原題:“The Crystal Shard The Icewind Dale Trilogy #1”TSR 1988、エンターブレイン 2004)、AD&D用シナリオからのノベライズである『ホワイトプルームマウンテン』(原題:“White Plume Mountain”WotC 1999、アスキー 2006)、「クレリック・サーガ」シリーズ(『<忘れられた領域> クレリック・サーガ 森を覆う影』原題:“Canticle The Cleric Quintet Book1”WotC 1991 アスキー 2007)などが文芸書の形態で刊行されている。文庫で刊行されたノベルもある。第3.5版であらたに設けられた公式世界設定「エベロン」を舞台とした「ドリーミングダーク」三部作(『D&Dノベル シャーンの群塔』上・下(原題:“The City of Towers”WotC 2005、ホビージャパン 2008)、『D&Dノベル 砕かれた大地』上・下(原題:“The Shattered Land”WotC 2006、ホビージャパン 2008)、『D&Dノベル 夜の門』(原題:“The Gates of Night”WotC 2006、ホビージャパン 2008)と、D&Dのプレイが楽しくなっていく女性の様子が描き出された『月曜日は魔法使い』(原題:“Confessions of a Part-time Sorceress:A Girl's Guide to the Dungeons & Dragons Game”WotC 2007、ホビージャパン 2008)と、新たな展開を広げていた。
リプレイは日本独自の作品も製作された。「D&Dリプレイ 若獅子の戦賦」シリーズ(『D&Dリプレイ1若獅子の戦賦』(ホビージャパン 2007)、『D&Dリプレイ2若獅子の戦賦-監獄島編』(ホビージャパン 2008)、『D&Dリプレイ3若獅子の戦賦-雷鳴山編』(ホビージャパン 2008))は、井上純一を表紙・挿絵に迎え第3部で完結していたが、D&D第4版に移行しても人気が持続したパワーを持った作品である。
サプリメントでも、第3版向け日本オリジナル・シナリオ集2冊に続き、読者参加も盛り込まれたサプリメント『君が作る街、トーチ・ポート』(ホビージャパン 2006)が結実する。
本場からの波及"d20 license"
英語圏では、第3版で設けられた"d20 license"により「D&Dと同じルールで遊ぶことのできるRPG」を作るブームがもたらされ、その中から翻訳タイトルも出た。公式のd20タイトルである、銃器や車両データも充実した現代アクションRPG『d20モダン』(原題:“d20 Modern Roleplaying Game: Core Rulebook” WotC 2002、ホビージャパン 2006)と、そのサイバーパンク・サプリメント『d20:サイバースケープ』(原題:“d20 Cyberscape : A d20 Modern Supplement” WotC 2005、ホビージャパン 2007)。すでに翻訳版も存在していた「クトゥルフの呼び声」のテーブルトークRPGとは別に、コズミック・ホラー『コール オブ クトゥルフ d20』(原題:“Call of Cthulhu D20 Roleplaying Game” WotC 2002、新紀元社 2003)も刊行された。ゲームブックからのファンタジー・フリークには、d20用に変換されたd20ファイティングファンタジーシリーズ(『火吹山の魔法使い』(原題:“The Warlock of Firetop Mountain” Myriador 2003、国際通信社 2004)などが好評で、D&Dのプレイの幅を広げた。
日本においても90年代にかけて人気を博した2作品、『ワースブレイド』(ホビージャパン 1988)、『メタルヘッド フロンティア2150』(ホビージャパン 1990)から、それぞれのd20版として『ワースブレイド/d20』(ホビージャパン 2008)、『メタルヘッド Frontier 2150/d20 エディション』(ホビージャパン 2008)が製作・刊行された。
※ 『ワースブレイド』『メタルヘッド フロンティア2150』は、現在「マンガ図書館Z」(https://www.mangaz.com/)にて公開されている。
※ 日本語版のタイトルの中黒の入れ方については、それぞれの奥付の記述に沿った
※記事中の日付は記事公開時のものです。