夏の暑さもおさまりを見せ、木々の葉は赤や黄色などの紅葉に染まり、多様な色が見られる季節となりました。紅葉狩りに出かけた、あるいはこれから出かける予定の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
『樹木の伝説』(秦寛博 著)では、さまざまな植物の生態、植物にまつわる伝承や花言葉などが紹介されています。
今回はその中でも、秋の代表的な植物でもあるイチョウについてお話します。
目次
イチョウと花言葉①-名前の由来
イチョウの和名の由来については、複数の説があります。
以前はイチョウが葉を1枚ずつ独立してつけていることから「一葉」、または「銀杏」の漢音ギンキョウが訛ったという説がありました。
しかし現在では、葉の形がアヒルの水掻きに似ていることからつけられた漢名「鴨脚樹」の鴨脚(ヤーチャオ)が変形したという説が有力です。
またイチョウの実であるギンナンは、「銀杏」の唐音ギンアンからきています。 銀杏は銀色のアンズに似た実をつける木を意味します。
イチョウは他にも「公孫樹」の漢名をもっており、この名前は種をまいてから実がなるまでに孫の代までかかることに由来しています。実際イチョウを種子から栽培すると、結実までに10数年から数十年の時間が必要です。
イチョウのことを英語では、「Ginkgo」といいます。これは銀杏の音ギンキョウ(Ginkjo)を誤って記したものです。
イチョウの学名Ginkgo bilobaは、「葉がふたつに裂けたイチョウ」という意味です。
イチョウと花言葉②-滋養のある実
イチョウには複数の花言葉がありますが、その内のひとつが「長寿」です。
この花言葉は、イチョウの木に長い間年を経た古木が多く残っていることからつけられました。それだけではなくイチョウの葉やギンナンは、人体にも長寿に繋がる効果があるのです。
ギンナンの特徴のひとつに、調理法が豊富であることが挙げられます。
焼いたり塩茹でにしたりして酒のつまみにすることもあれば、松葉を串にして懐石料理の先づけにすることもあります。他には茶碗蒸しの具、ギンナンご飯もギンナンの食感や香りを生かした調理法です。
そんなギンナンですが、疲労回復に効果のあるタンパク質と脂質が豊富に含まれています。またカリウムも多く含まれており、血圧低下が期待できます。外側の果肉に見える部分を取り除いて煎ったものは、鎮咳効果のある生薬、白果仁(はくかじん)になります。
一方、イチョウの葉からはフラボノイド配糖体ギンコライドという、人体に良い影響を与える成分が検出されています。
この成分はコレステロールを減少させる効果があり、東洋ではイチョウ茶として飲まれるほか、ヨーロッパでは医薬品にもなっています。
◎関連記事
愛の花! 眠れる妖精のゆりかご「チューリップ」
恐怖! 人類を滅亡に導く「歩き回る植物」3種
イチョウと花言葉③-イチョウの花模様
イチョウの花言葉には、長寿以外にも「しとやかさ」、「鎮魂」があります。
この花言葉は中国の少数民族・土家(トゥチャ)族に伝わる民話からつけられたものです。
その昔、シランというとても機織りの上手な娘がいました。
ある春の日、シランは可憐に咲く花を見て、花で布を織ることを思いつきました。そして、シランは見事に花で布を織りあげました。この花布を広げると春風が香り、周りをミツバチが飛び交い、蝶が舞うのです。
やがてこの花布の噂が広まり、多くの若者が彼女に嫁になってくれるようにと求婚します。しかし彼女の父親は結婚を許しませんでした。家が貧乏だったため、シランを金持ちの家に嫁がせようと考えていたためです。
それから2年後、遂にシランは自分の知っている花をすべて織り終えてしまいます。そしてまだ織ったことの無い、自分の知らない花を探すようになりました。
そんなある日、シランは白髭の老人に出会います。老人は彼女に「この世で一番賢く辛抱強い娘だけが、真夜中に咲く、この世で最も美しくて貴いイチョウの花を見ることが出来る」と教えたのです。
シランはそれから、イチョウの花を見るために3晩家を抜け出しました。しかし一向にイチョウは花を咲かせません。そんな毎晩家を出るシランを、彼女の兄嫁は不審に思い始めます。そして父親に「シランは男と会っているに違いない」と告げ口したのです。
4日目の晩、シランはとうとう白く輝く神々しくも美しいイチョウの花と巡りあいます。待ち焦がれていた彼女は、イチョウの木の枝をひとつ折り取り、嬉しそうに家へと戻りました。
家でシランを出迎えたのは、泥酔した彼女の父親でした。喜々としたシランの様子に、父親は告げ口通り男と密会してきたのだと誤解し激怒します。そして酔いに任せてシランを斬り殺してしまうのです。
やがて父親の酔いも醒め、ようやくシランの手にイチョウの花が握られていたことに気づきます。そして自分が思い込みから娘を殺してしまったことに、深く後悔することになりました。
3日後、どこからともなく小鳥が飛んできます。その小鳥は「イチョウの花が咲いた夜、兄嫁の告げ口でお父さんが私をイチョウの根本に切り捨てました」と歌うようになりました。
それから3年、父親は亡き娘を偲んで、彼女が織った花布を寝台の掛布にしました。すると小鳥は山へと飛び去っていったのです。以来、土家族の人々は、美しい花模様の掛布を寝台にかけるようになりました。
しかしイチョウが美しい花を咲かせることはなくなり、この世で一番美しく貴い花を布に織り込むことは二度とできなくなったのです。
古代の人々から愛された睡れる花、スイレンの伝説
復活祭にも深い関連? 大地の恵みとガーネット
本書で紹介している明日使える知識
- モモ
- リンゴ
- ザクロ
- アーモンド
- ヒノキ
- etc...