19世紀イギリスのヴィクトリア朝は、様々な制度や産業が発達し、人々が豊かになった時代です。では、当時の人々はどんな教育を受け、どのような娯楽を楽しんでいたのでしょうか。
『図解 メイド』(池上良太 著)では、ヴィクトリア朝を中心とする使用人の歴史や時代背景、生活や恋愛などについて、幅広く解説しています。今回はその中から、ヴィクトリア朝の娯楽と教育についてご紹介します。
目次
旅行から公開処刑まで ヴィクトリア朝の娯楽たち
最初に、ヴィクトリア朝の頃に楽しまれていた娯楽にはどんなものがあったのかご紹介しましょう。1825年に世界初の鉄道がストックトンとダーリントンとの間で開業し、1863年には世界初の地下鉄であるメトロポリタン鉄道が開通するなど、19世紀のイギリスは交通網が発展を遂げた時代でした。
こうした時代背景を受け、ヴィクトリア朝でもっとも人気があった娯楽は旅行です。人々は海水浴や動物園、日帰り旅行などを楽しみました。さらに上流階級になると、旅行の内容は豪華なものになったといいます。また、1851年に世界で最初に開かれたロンドン万博も、当時とても人気のあったイベントでした。
外で楽しむ娯楽には、旅行の他にも狩猟やスポーツ観戦がありました。競馬は上流階級を中心に楽しまれた娯楽のひとつです。またボクシングも徐々にルールが確立され、紳士たちが鑑賞するスポーツとなりました。どちらも賭けの対象になることがあったといいます。
もっと手軽に街中で楽しめる娯楽には、コーヒーハウスやパブで疲れを癒すことや、演劇・音楽鑑賞などが挙げられます。労働者の通える安劇場があった他、上流階級は劇場の観覧席を年単位で貸切ることもありました。この他、自宅で楽しめる娯楽として、読書や各種コレクションなども挙げられます。
ここまでご紹介した娯楽には、現代でも楽しまれているものも多くありますが、中にはヴィクトリア朝の当時行われていても、現代では見られなくなった娯楽もあります。たとえば公開処刑がそのひとつで、当時は上流階級、労働者階級を問わず人気の見世物となっていました。また、動物をいじめて賭け事の対象にするといったことも行われています。
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名門寄宿学校の成立 ヴィクトリア朝の教育とは
次に、ヴィクトリア朝の頃に行われていた教育についてみていきましょう。ヴィクトリア朝の教育は、ヴィクトリア朝初期の頃と中期以降とで大きく異なっています。 初期の頃(19世紀初頭)では、教育を受けることは一種の特権のようなものだと考えられていました。
上流階級の子女たちは大抵、公共の場ではなく家庭教師から教育を受け、家を継いだり軍人になるなどしました。一般庶民は自分の職業に関連する知識を学ぶのみで、それ以外の教育を受けることは害悪であると考えられていた場合すらあったといいます。
当時、ケンブリッジやオックスフォードといった大学はすでに存在していましたが、現在の大学の姿とは異なり、聖職者になるための教育機関でした。
しかし、これらの学校は出身階級を制限せず、上流階級の者もそれ以外の一般庶民も受け入れていたため、パトロンや奨学金を得るなどして学費の問題をクリアすることができれば、将来の出世のための有用な手段となりました。
そのため、これらの学校に入学するための準備機関として、専門の寄宿学校が各地に創設されます。こうして設立された寄宿学校はパブリック・スクールと呼ばれ、現在でも運営されているところもあるのです。
ヴィクトリア朝中期になると、上流階級だけでなく中流階級の親たちも、子どもをこうした寄宿学校に通わせようと考えはじめます。しかし、名門寄宿学校には上流階級のコネがなければなかなか入学することができませんでした。そこで、中流階級の子どもたちのための寄宿学校があちこちに新設されます。ところがこうした新しい学校は金儲けのために建てられたものが多く、子供のための教育環境としては決して良いものではありませんでした。
労働者階級の子どもたちは、有料の教育機関や、寄付などによって運営されている慈善学校に通っていました。とはいえ、こうした学校で教育を受けられる者は少なく、ほとんどの子どもたちは家計を助けるために早くから働きに出されています。
こうしたイギリスの教育事情は、1870年に初等教育法が制定されて以降、少しずつ改善されはじめます。義務教育が定められたり、学費に関する制度が整えられるなどし、現在の教育制度につながっていくのです。
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