ブルジョアおよび、心だけブルジョアのセレブ予備軍のみなさま、お久しぶりです。
前回ご紹介したヴィクトリア朝のお屋敷事情では、主人と使用人との関係についてもご紹介しました。
今回は 『図解 メイド』(池上良太 著)より、すばらしい関係を築いた使用人と雇用主について、また、いざ使用人を雇用したいときにはどうするのかをご紹介します。
目次
①いろいろある! 使用人の雇用手段
前回の記事を読まれたセレブ予備軍のみなさまは、いよいよ物件のチェックに入られたのではないでしょうか。だいたいこんなお屋敷に住みたいな、と思ったら、次はいよいよ使用人を雇うことを考えないとなりません。
ではどこでどのようにして、使用人を雇用するのでしょうか?
まずはセレブな先輩方から学んでみましょう。
ヴィクトリア朝は様々な要因から使用人の数が激増した時代ですが、だからといって、使用人は待っていても来てはくれません。以下に、当時の主な使用人の雇用手段をあげます。
【使用人の雇用手段】
・新聞広告
・口利き
・非公式な職業紹介所
・専門の職業訓練学校
・モップ・フェア
・使用人職業紹介所、救貧院からの紹介
以上が主だった雇用手段です。
次の章では、それぞれのメリットや具体的内容を説明します。
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②どの手段を選ぶ? 使用人も雇用主もニーズを明確に
数ある雇用手段のなかで、 セレブな先輩たちはどれを選ぶのがベストだったのでしょうか?上であげた主な雇用手段のなかでもっとも一般的だったのは、「新聞広告」でした。
当時の新聞には、自分を売り込みたい使用人希望者と、使用人を雇いたい雇用主がそれぞれ広告を出していました。
しかしお互いの情報が乏しいため、トラブルも少なくなかったといいます。
次に多いのは「口利き」です。
これはすでに働いている使用人からの紹介や、地方の有力者を通じて希望者が売り込みをする場合もありました。
口利きのメリットは、身元がしっかりしている人を雇えること、そして雇われる側も職場の内容を詳しく知ることができるということです。それゆえに、双方から歓迎されていたそうです。
都市部では、小売業者による「非公式な職業紹介所」も盛んに利用されていました。
世間の情報に通じているため、双方のニーズにあった職場の紹介が可能だったのです。
これらの手段でうまくいかない場合は、「専門の職業訓練学校」から使用人を雇用するという方法もありました。
すでにスキルを持っている人たちですから、これは雇用主にとって安心です。
なかには、自ら職業訓練学校を運営して、使用人を育てる女主人もいたようです。
「モップ・フェア」というのは、とても古典的な方法です。
それぞれの職業に応じた目印を身に付けた人々が集まり、そのなかから雇用主が人材を選びます。
しかしこれは、まるで「人間市場」のような印象があったり、その後の乱痴気騒ぎが嫌われたことから、すでにヴィクトリア朝時代では下火になっていたようです。
これだけの方法がありますが、それでもどうしても使用人と出会えなかった場合に利用されたのが、「使用人職業紹介所」や、「救貧院からの紹介」です。
残念なことに、ここから紹介される人材は怪しげな人も多く、前歴のわからない人が紹介されることも多かったそうです。
痛い思いをした雇用主が多かったのでしょうか、慈善団体によって経営が立て直されたヴィクトリア朝中期に入っても、敬遠されることが多かったといいます。
以上のことを鑑みて、まずは自分のニーズを明確にするといいですね。
人柄や身元を重視するなら「口利き」か、「非公式な職業紹介所」。
とりあえずスキルだけが欲しいのなら、「専門の職業訓練所」。
現代でも、こういった具合に何が重要なのかを考えてから、お互いがWIN-WINになれる雇用手段を考えるべきでしょう。
③身分にとらわれない! 使用人に雇用主も人間同士
以前の記事でもご紹介したように、屋敷によってはまったく使用人と顔をあわせない家主もいました。しかしそうした関係でのなかでも、お互いを信頼しあうような関係がなかったわけではありません。
現代セレブ予備軍としては、やはり使用人の方にも人間らしい優しい待遇をしたいものです。
これもまた、わたしたちに大切なことを教えてくれる先輩のエピソードがありますので、ご紹介しましょう。
有名なのが、イギリスの首相を務めたウィンストン・チャーチルと、乳母(ナニー)のエヴァリスト夫人です。
チャーチルにとってのエヴァリスト夫人は、忙しい両親とは違い、自分を温かく見守ってくれたかけがえのない家族でした。
父親の放蕩によって家が傾いたときも、彼はエヴァリスト夫人の解雇に反対しています。 さらにその後も職を辞した彼女に対し、苦しい家計のなかから援助を続けました。
そんな関係はエヴァリスト夫人が亡くなるまで20年間続き、彼女の死後も、チャーチルはお墓の管理費用を出し続けたといいます。
もうひとりは、ジェーン・カーライルという女主人です。
夫人は、雑用女中(メイン・オブ・オールワークス)として雇用していた、シャーロット・サザムを養子のように可愛がっていました。
彼女が職を辞した後も交流は続いていたようで、夫人は「未だあなたのような使用人にはお目にかかれません」という手紙を送っています。
どうでしょう、幸せな関係ではありませんか?
こうした理想的な関係は、多くの場合、雇用主が使用人を家族として認識した上で成り立っていました。
やはり乳母と雇用主の家族との間に築かれることが多いのですが、他にもごく若い使用人が老夫婦などの家庭に奉公した場合、本当の娘のように可愛がられることもあったそうです。
また、親子二代にわたっての雇用、引退後の生活の保障や援助、「良い人物証明書」の発行など、雇用主から使用人への優遇措置は他にもありました。
さらには使用人を養子にするなんてこともあったようです。
確かに仕事の関係ではありますが、どんな場合でも人と人。とくに同じ屋根の下で暮らす人間同士ですから、ご縁を大切に、温かい心をもって使用人の方と接していきたいものです。
以上、使用人の雇用方法、雇用主との理想的な関係についてご紹介しました。
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