今回はTRPGと相互に影響を及ぼしたジャンルについての動きを紹介する。
TRPGがノベライズに向いたコンテンツであることは、AD&Dのプレイのノベライズからスタートした“Dragonlance”シリーズによりD&D自身が証明した。日本においても翻訳ノベルとして『ドラゴンランス戦記 1.廃都の黒竜』(原題:“DRAGONS OF AUTUMN TWILIGHT”Random House 1984、富士見書房 1987)を皮切りに刊行され、邦題では『~伝説』『~英雄伝』『~序曲』と翻訳が進んだ。“Dragonlance”はAD&D向けの世界設定のひとつである。だが日本においては、赤箱に連なるD&D商品とあわせて宣伝・告知がなされ、D&Dファンを増やし、ノベルそのものもヒットした。この波はTRPGのみならず翻訳ノベルのタイトル増加をもたらし、ファンタジー作品を収録するいくつもの翻訳レーベルの成立を促した。そのレーベル収録作品や、影響を受けて日本人作家により執筆された剣と魔法の物語は、現在のライトノベルの源流のひとつとなった。
一方で、TRPGはデジタル・ゲームとの相性が良いコンテンツでもある。D&Dのソロプレイを目指した“Wizerdry”(Sir-Tech[Apple II] 1981)が、日本でもそのままパーソナルコンピュータApple IIで遊ばれてディープなファンを獲得している。日本製パーソナルコンピューターへの移植がされた日本語版がアスキーより発売されたのは、奇しくも「赤箱」日本語版と同じ1985年である。『Ultima II』(スタークラフト 1985)も同年に移植版が発売されている。これらをプレイして影響を受けた人々から、家庭用ゲーム機むけに1986年と1987年、現在もシリーズが続く2大国産RPGがそれぞれ発売された。D&Dからのそれらへの直接的、間接的な様々な影響は広く知られている。
D&Dの名を冠した公式のデジタル・ゲームも数多く、日本においてもパソコン、家庭用ゲーム機、アーケード・ゲームでいくつも登場する。
AD&D 1st Editonをベースとして『プール・オブ・レイディアンス』(原題:“Pool of Radiance” SSI 1988、ポニーキャニオン[PC-9800、PC-8800、ファミリーコンピューター] 1991)、『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』(原題:“Eye of the Beholder” Westwood Studios 1991、ポニーキャニオン[PC-9800、メガCD] 1992、カプコン[スーパーファミコン] 1994)。AD&D 2nd Editonでは『バルダーズ・ゲート』(原題:“Baldur's Gate” Interplay Entertainment 1998、セガ[Windows] 1999)などはシリーズで日本語化され、発売された。
外出先のゲームセンターで遊ぶアーケード・ゲームに(AD&Dでなく)D&Dの背景世界を題材にした、横スクロールの"ベルトスクロール・アクションゲーム"の名作として『ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドー オーバー ミスタラ』(カプコン 1996)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ タワー オブ ドゥーム』(カプコン 1999)がある。この2作品は1本にまとまる形で、家庭用ゲーム機へ『ダンジョンズ&ドラゴンズ コレクション』(カプコン[セガ・サターン] 1999)のタイトルで移植された。
この2タイトルは翻訳ではなく、ライセンスの許諾をうけた日本での開発である。熱心なファンがおり、海外では英語版“Dungeon&Dragons Tower of doom”と“Dungeon&Dragons Shadow over Mystara”それぞれと、2本がセットになっている“Dungeons & Dragons: Chronicles of Mystara”(日本からの利用不可)が、ダウンロード販売サイトのSteamで販売されている。日本国内では『~コレクション』と同様に2本がセットになった『ダンジョン&ドラゴンズ -ミスタラ英雄戦記-』(カプコン[PlayStation 3] 2013)が発売された。
2000年以降は、家庭用ゲーム機の性能向上により剣と魔法の世界の再現度が高まり、パソコンでは一人で遊ぶRPGにとどまらない形のD&Dゲームが登場してくる。
家庭用ゲーム機ではアクションゲームの系統の名作が続いた。米国でRole-Playing Game of the Year 2001を受賞した“Baldur's Gate Dark Alliance”(Black Isle Studios[PlayStation 2、Xbox、GameCube、Game Boy Advance] 2001、ジャレコ[PlayStaton 2] 2002)と続編“Baldur's Gate Dark Alliance II”(Interplay Entertainment/インタープレイ[PlayStaton2、Xbox] 2004)、『デーモンストーン』(原題:“Forgotten Realms: Demon Stone” ATARI[PlayStaton2] 2005)がある。いずれもアクションRPGで、高性能・高精細になっていくグラフィックは、D&Dの剣と魔法の世界を当時の技術で見事に表現している。
パソコンには、ネットワークで接続し1人がDM、ほかがPCを操作するTRPGのセッションを思わせる機能を実現した『ネヴァーウィンター・ナイツ』(原題:“Neverwinter Nights” ATARI[Windows] 2002、セガ[Windows] 2003)が登場する。タイトルの「ネヴァーウィンター」は、AD&Dの公式背景世界のひとつ「フォーゴトン・レルム」にある都市の名である。この作品の特異な点は、MOD(モッド。Addon/アドオンとも。追加のプログラム。公式・非公式ともあるが、導入することによってゲームの機能を追加したり、パラメーターやストーリー、グラフィックなどゲームの要素を追加・改変などを行ったりする)が多数作られ、発表されてインターネットを介して容易に入手できることである。MODの仕組みは本作独自というわけではないが、この機能によりゲーム本体以上に広がりがあり、ユーザーの自由度が広く新しい世代のRPGとなった。
時代の寵児とも言える大規模多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)も実現している。『ダンジョンズ&ドラゴンズ オンライン』(原題:“Dungeons & Dragons Online” Atari[Windows] 2006-、さくらインターネット 2006-2009)は、公式背景世界「エベロン」を舞台に、ルールもAD&D系統の3.5eをベースとしている。英語版は現在もサービス継続中だ。
さらにフォーゴトン・レルムを舞台とした“Neverwinter”(Perfect World Entertainment[PC、XBOX ONE、PlayStation 4] 2013-)もある。本作はAD&D系のD&D第4版から今回の第5版を通して、公式D&D店舗イベント“D&D ADVENTURERS LEAGUE”のストーリーラインや、人気ノベル「ダークエルフ物語」(原題:“THE DARK ELF TRILOGY” TSR/Penguin Books 1990、エンターブレイン 2002)の舞台や主要キャラクターが登場するなどの導入により人気を博している。