外敵から街と人々を守るため、周囲に城壁や堀などを巡らせた城塞都市(城郭都市)。その姿は古代から中世のヨーロッパを舞台にした歴史映画などで描かれることが多く、現存する城塞都市の中には世界的に有名な観光スポットになっている場所もあります。
また、西洋風のファンタジー作品の中では、城塞都市やそれに似た設定の都市を見かけることも多いでしょう。
城塞都市が一般的な都市の姿であった頃、そこに住む人々の生活は一体どのようなものだったのでしょうか。 今回は『図解 城塞都市』(開発社 著)を参考に、城塞都市の構造から住民たちの食生活、暮らしを支えた産業、攻防戦に関する知識まで、中世ヨーロッパを中心にまとめて紹介します。
目次
◆城塞都市のリアル①成り立ちと都市構造
城塞都市の歴史は古く、世界最古の町とされるパレスティナの都市イェリコでは、紀元前7500 年ごろには既に町を壁で取り囲んでいたと言われています。古代から中世にかけての時代には、ヨーロッパを中心に多数の城塞都市が築かれました。
城塞都市には城壁・堀・塔というシンボル的な施設が存在し、それぞれに重要な役割があります。
城壁は外敵から都市を守るという役割のほか、都市計画の立案に大きく関係していました。その城壁の外側に巡らせた堀は、防御力を強化する役割を担います。
町の中に建てられた塔(主塔)は、城主の居住区や貴族たちの社交場として使われただけでなく、牢獄、食料の備蓄倉庫、監視塔など、都市や時代によって様々な役割をもっていました。
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防衛拠点のつくり方~城塞都市とは? その3つのシンボル
◆城塞都市のリアル②人々の生活と産業
アニメや漫画など、ファンタジー系の創作物で描かれる中世ヨーロッパ風都市の食事には、しばしば肉料理やふっくらとしたパンが登場します。しかし、中世ヨーロッパの城塞都市において、肉や上等の小麦から作る白いパンは裕福な家でのみ常食される食べ物でした。また、肉や魚は加工品が中心です。 同じ城塞都市の住民であっても、庶民は硬くて茶色いパンを食べ、肉や魚を食べる機会も富裕層のように多くありません。貧しい者たちは、さらに品質の悪いパンやオートミール、野菜を中心とした食生活を送っていたようです。 当時の人々の食生活を支えた農業・畜産・漁業はヨーロッパ各地で盛んに行われ、食物の多くは保存がきき流通させやすい状態に加工されてから、城塞都市の市場などで販売されていました。
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農業・畜産・漁業 城塞都市の暮らしを支えた産物とは
ファンタジーとは違う?! 中世ヨーロッパ城塞都市の食事
◆城塞都市のリアル③都市が抱えた問題
周囲を城壁に囲まれた城塞都市では、人口増加が問題になることがありました。城壁の内側の広さは有限でしたので、人口が増えるに従い、土地が足りなくなってしまうのです。 その場合、ギリシャの城塞都市では、人口が増え過ぎた都市を拡張するのではなく、別の場所に新たな町を造ることで解決していきました。一方ローマでは、城塞都市の内部に高層アパートを建設し、あくまでもその都市内で問題の解決を図っていたようです。
新しい町を造る解決法はギリシャの都市国家群を繁栄に導きましたが、地域がひとつの国としての発展することは妨げてしまいました。また、別の方法をとったローマも結果的に帝国として拡大し繁栄していきましたが、城塞都市内では、人口超過に起因する様々な問題が発生していたのです。
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城塞都市を拡張せよ! ギリシャとローマのジレンマ攻略法
◆城塞都市のリアル④攻城戦と攻城兵器
城塞都市を囲む城壁は、都市防衛のために造られました。つまり、城塞都市は熾烈な攻防戦の舞台になることもあったのです。
まだ大砲が普及していなかった時代、城塞都市を攻め落とすには、まず攻城兵器や戦術を駆使して城壁を越える必要がありました。
城壁や城門を破壊する際に活躍したのは、投石器(カタパルト)や破城槌です。城壁にたどり着けた後には、城壁や城塔に梯子をかけて兵士たちがよじ登る「エスカラード(城壁登攀)」という作戦が行われました。エスカラードを仕掛けることが難しい城壁に対しては、車輪付きの木造攻城兵器「ベルフリー(攻城塔)」の出番。ベルフリーを城壁に寄せ、そこから兵士たちを登らせたのです。 ただし、上から坊城側の攻撃が降って来るような状況下で城壁までたどり着くには、それなりの戦術が必要でした。攻囲側は、車輪と屋根がついたシェルターのようなものや盾を利用したり、塹壕や坑道を掘ったりして、敵の攻撃から身を守りつつ城壁を目指したのです。
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城壁を突破せよ! 城塞都市攻略マニュアル~攻城兵器編~
城壁を突破せよ! 城塞都市攻略マニュアル~坑道・火器編~
◆城塞都市のリアル⑤防城戦と城壁・城門の構造
城塞都市を守る城壁や城門には、都市を防衛し、敵兵の侵入を防ぐための様々な仕掛けや工夫が施されていました。
まず挙げられるのが、城壁の頂部に造られた「歩廊」と呼ばれる通路です。歩廊は見晴らしがよく監視に向いていたほか、兵を配備し物資を供給する際の経路となりました。また、歩廊の城壁外に面する側には壁が設けられ、その多くは、凸壁と狭間が連続した形をしています。この壁にも、敵から身を隠しつつ監視や攻撃ができるような工夫がなされていました。
しかし、いくら城壁を守っても、城塞都市の出入口である城門の突破を許してしまっては元も子もありません。そこで城門には、跳ね橋・殺人孔・落とし格子・落とし穴と、防御のために何段階もの仕掛けが作られました。さらに、大抵の城門は塔に組み込まれているか、塔に挟まれた構造になっています。防城側は塔からも敵兵を攻撃することができ、この塔にも様々な工夫がされていました。
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城を防衛せよ! 城塞都市の設計マニュアル~城壁編~
城を防衛せよ! 城塞都市の設計マニュアル~城門編~
ライターからひとこと
城塞都市には、富裕層から聖職者、庶民、貧民まで、様々な身分の人々が暮らしていました。堅牢な城壁は彼らの命と財産を守り、都市そのものの発展にも重要な役割を果たしていたのです。『図解 城塞都市』(開発社 著)では、ここで解説した内容だけでなく、城塞都市にまつわる雑学をいくつも紹介しています。創作のヒントや話のタネに、リアルな城塞都市の姿をのぞいてみてはいかがでしょうか。