中世の宗教施設というと、大聖堂などの立派な教会を思い浮かべる方も多いと思いますが、実際にはそれだけではなく、農村にある小さな礼拝堂や大規模な修道院など、様々な大きさの施設が存在していました。
『図解 中世の生活』(池上正太 著)では、中世ヨーロッパの制度や文化、人々の暮らしぶりなどについて、幅広く解説しています。今回はその中から、中世の宗教施設についてご紹介します。
目次
農村の宗教施設~教会と私的礼拝堂~
ひとくちに宗教施設といっても、実際には規模や用途によっていくつかに分類することができます。そこでまずは農村など田舎に多くあった宗教施設についてご紹介しましょう。農村にある宗教施設は、教会と私的礼拝堂の2種類に分けられます。 教会は小教区の中心となる場所で、洗礼など全ての宗教儀式に対応した施設です。
一方、礼拝堂は領主などが私的に所有していた施設で、主に日曜のミサを行う場所でしたが、大規模な典礼や秘蹟を受けるための設備はありませんでした。
そのため当初は教会のみが小教区の中心として認められていましたが、8世紀にフランク王国にカロリング朝が成立してからは、私的礼拝堂にも小教区の中心としての権威が与えられるようになります。これにより、領主などの権力者は小教区の権益を得られるようになり、また領民も身近な施設で洗礼などの儀式を受けられるようになりました。
こうした教会・礼拝堂には、司祭と家族、下男などが暮らしています。司祭は領主や王から任命されますが、時には任地に赴かず、代理となる別の司祭が派遣されることもありました。 司祭は日曜のミサや洗礼、結婚、埋葬などの宗教儀式を行ったり、村人たちの相談役となります。しかし、読み書きはできないことがほとんどでした。
また、司祭は自分の土地を持っており、そこを耕して収入を得ていました。その他に、村人から得られる10分の1税や、謝礼、寄進なども重要な収入源となっています。
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都市部の宗教施設~大聖堂(カテドラル)とは~
続いて、都市の宗教施設についてみてみましょう。都市にはカテドラルとも呼ばれる大聖堂があり、司祭よりも上位の聖職者である司教によって管理されています。カテドラルは司教区の中心となる教会で、後にゴシック様式とよばれる建築様式で建てられていました。この最新の建築技法を用いることで、教会の権威と地上の楽園とを表現することができましたが、建設には莫大な予算と時間が必要であり、予算が尽きたために工事が中断されることもしばしばありました。
カテドラルの地上部分は大聖堂になっており、地下は歴代司教の墓室になっています。 大聖堂は都市の住人たちの祈りの場となった他、ギルドの集会場としても利用されました。また、司教の住居でもあります。複数の教区を管理・支配する司教の場合、カテドラルには司教や司教補佐の他、役人、騎士など多くの人間が出入りしていました。中世の一部には規律の乱れた時期もあり、そうした時代には妻子を持つ聖職者も多くいたといいます。
祈りと労働の場、修道院と托鉢修道会とは
最後に修道院についてご紹介しましょう。修道院は通常、修道院が支配する荘園の中心にあります。日曜のミサをはじめ、すべての宗教儀式に対応する施設で、修道士たちが祈り、労働し、集団生活を送る場でもありました。
修道院では、修道院長または大修道院長の下に副院長や財務係といった役職持ちの修道士、一般の修道士が暮らしています。その他に助修士といって、出家はしていないものの戒律を守り、聖職者としての教育を受けている者もいます。彼らも修道院での労働や畑仕事に携わっていました。また献身者や贈与者といって、財産を寄付する代わりに家や食べ物、介護を受ける人々もいます。こうした者たちの他に下男や農奴、職人もいるなど、修道院はひとつの大きなコミュニティを形成していました。
このように、修道院は荘園の中心に建てられ、修道士たちが俗世とのかかわりあいを捨てて清貧と労働の日々を送る場でしたが、多くの土地と人員を抱え、寄付などで富が集まる場所でもあったため、時には腐敗の温床となることもありました。
やがてこうした腐敗を改革しようとする集団が現れます。托鉢(たくはつ)修道会といって、財産を持つことを否定し、信者からの寄付に頼って生活しながらキリストの教えに忠実に従おうとする組織です。彼らの拠点は従来の修道院とは異なり、都市部に置かれ、説教などの活動もまた都市部で行われることが多くありました。代表的な組織として、フランチェスコ修道会やドミニコ修道会などが挙げられます。
中世の宗教施設はこのように、礼拝堂、教会、修道院など規模や設備も様々でしたが、どの施設も祈りを捧げる人々の拠りどころであったことに変わりはありません。
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ライターからひとこと
TRPGなどでは、教会の祭壇の下に秘密の階段があり、地下のダンジョンに繋がっていることがよくあります。実際の中世ヨーロッパでは歴代司教などのお墓になっていたわけですが、どちらにしても中に進むのは勇気がいりそうです。本書では教会や修道院に関わる人々がどんな暮らしを送っていたかも解説されています。司祭をめざしている方、必見ですよ。