黒魔術といえば薄暗い室内で行うおどろおどろしい儀式で、恐ろしい魔法を生み出すイメージがあるのではないでしょうか。
今回ご紹介するのは「牛乳魔法」という黒魔術です。名前からは、黒魔術なのに可愛らし くのどかな印象を受けますね。それでは、「牛乳魔法」とは実際にはどのようなものだったのか、その方法や効果、そして生まれた時代背景を含めて見ていきたいと思います。
目次
牛乳魔法は窃盗魔法だった! その方法と対抗策
牛乳魔法とは、他人の物を盗む窃盗魔法の代表格です。その昔、ドイツやオランダなどの国では魔女と言えば牛乳魔法を使うものと言ってよいほどポピュラーな魔術でした。中世ヨーロッパの農民たちは、この世の富には一定の限界があると考えていました。そのため、他者の物を盗むことが豊かになるための悪行であり、誰かが豊かになると、どこかから魔法で盗んできたのではないかと疑われたのです。
その方法はこのようなものでした。
まず、家の隅に腰掛け、両膝の間にバケツを挟む。ナイフや斧を壁や柱に突き立てる。そして、使い魔を呼び出し、ある特定の家の牛の乳がほしいと念じながら、牛の乳を搾るようにその柄の部分を搾る。すると、本当に牛の乳を搾っているように、柄の部分からバケツの中に牛の乳が流れ出すのである。 『図解 黒魔術』p.74使い魔を呼び出す割には地味な魔術のような気がしてしまいますが、これにはその時代ならではの理由があるようです。
牛乳魔法の背景を探る前にもうひとつ。なんと牛乳魔法には窃盗の犯人に対処するための魔法もあったというので、ご紹介します。
新しい鍋に牛乳を入れ、煮沸させながら犯人は誰かと呪文を唱えるのである。このとき、最初に現れた者が牛乳魔法を使った犯人だとされたのである。 『図解 黒魔術』p.74ミルクやチーズが貴重な収入源であった町の人々にとって、牛乳魔法は重大な悪行であり、犯罪だったのですね。現代に言い換えるなら、銀行の口座預金が減っているのと同じ感覚でしょうか。
牛乳魔法を行うのは魔女ばかりとされていたようです。それは乳しぼりなどの牛の世話に始まり、乳製品の製造がおもに女性の仕事だったからです。
生活を脅かす悪行・牛乳魔法が信じられた背景
現代人の感覚からすればちょっと地味な気がしてしまう牛乳魔法が広く普及した背景には、当時の人々の概念とその時代背景が関係しています。中世ヨーロッパの農耕社会で暮らす人々は、この世の富には一定の限界があると考えていた。そのような場所では、もし誰かが豊かになったとすれば、その分誰かが貧しくなるのである。言い方を変えれば、誰かが豊かになるのは、どこかから盗んできたからなのである。 『図解 黒魔術』p.74かつてヨーロッパでは「誰かが得をするためには、誰かが損をしなければならない」という概念が一般的でした。これを「総量一定の原則」といい、当時のこの常識に基づいて牛乳魔法は生まれたのです。
・ある家の牛が乳を豊富に出してミルクやチーズの生産に大いに役立ち、その家の家計は潤った。
・同じ村の別の家の牛は発育が悪く乳の出も芳しくない。おかげでその家の生産も滞り、家計も傾いてしまった。
このようなことが同時に起こった時に、豊かな家の女が貧しい家の女の牛から牛乳を盗んだ、と考えられたのでした。
現代の常識でははかり知れない感覚ではありますが、当時まだ科学的な思考が普及しておらず、小さなヨーロッパの町のような閉鎖的な社会の中ではごく自然の解釈だったようです。生活をゆるがすような深刻で重大な問題だったのですね。
本書で紹介している明日使える知識
- バターの窃盗魔法
- 悪魔憑き
- 魔女の邪眼
- 宗教的な黒魔術
- etc...