以前、巫女さんの装束についてご紹介しましたが、みなさんは「巫女」の原点をご存じでしょうか。
『図解 巫女』(朱鷺田祐介 著)には、その語源や、本質的な姿が紹介されています。
今回取り上げるのは、巫女の原点「シャーマン」にまつわる項目です。わたしたち日本人に馴染みのある神社の巫女さんだけではなく、エスキモーも登場します。
目次
憑依や脱魂?「シャーマニズム」とは何か
巫女の原点には、「シャーマニズム(Shamanism)」の習俗があります。「シャーマニズム」とは、シャーマンの能力により成立している「宗教」全般を指します。
シャーマンと聞くと、神を降ろして占いをしたり、お告げを伝えるようなイメージではないでしょうか。
そのイメージのとおり、彼らはトランス状態に入って神霊と交信し、憑依や脱魂現象を起こし、その過程で別の人格を現し、神託や占い、神霊治療などをします。
別の人格とは、神霊、死霊、生霊、動物霊、自然霊などです。
シャーマンは男女問わず存在しますが、非常に女性が多いのが特徴的です。
「巫女」に使われている「巫(かんなぎ)」ということばの本来の意味も、この「シャーマン」です。
シャーマニズムは、主に北方アジアと中央アジアに見られ、シャーマンということば自体がツングース語の「サマン」に由来しています。
ツングース語とは、カムシャツカ・サハリン(樺太)からシベリア東部、および中国東北部に分布する民族が使う言語です。
とはいえ、世界各地に、巫女というべき女性祭祀者は他にも存在しています。 広義では、アジア地域に限定せず、同様に神霊憑依現象を伴う宗教をシャーマニズムと呼んでいます。
たとえば、アラスカやカナダ、グリーンランドなどで暮らす「エスキモー」にもシャーマンが存在し、そして重要な役割を果たしているのです。
アニミズムや先祖信仰と融合する「シャーマニズム」
もう少しシャーマニズムについて見てみます。憑依現象がシャーマニズムの基本要素といわれていますが、日本の神道のように、近代化の中で、憑依降神が儀式化していくことが多くあります。
また、祭祀者が神霊や精霊をその身に降ろすにあたって、幅広い神のバラエティを求める傾向があります。
その結果、「アニミズム(精霊信仰)」や「先祖信仰」を伴うことも多く、実際の宗教として成立していく場合、シャーマニズムのみということは、あまりありません。
中央アジアからシベリアに住む、ブリヤートと呼ばれる民族には、「オトガン」という女性シャーマンが存在します。
その中には、仏教の神に祈り、呪術的なマッサージや骨接ぎ治療をするシャーマンがいます。
つまり、シャーマニズムとは、宗教そのものというよりも、祭祀手法であるともいえるでしょう。
ミルチャ・エリアーデというルーマニア出身の宗教学者もこの点に着目し、憑依降神よりも「脱魂のテクニック」を、シャーマニズムの第一定義としています。
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エスキモーにもいる? アジア以外のシャーマニズム
先にも触れましたが、アジアだけではなく、他の地域にもシャーマニズムが見られます。 エスキモーは、生存環境の厳しさから独自のシャーマニズムを構築し、生活の一部としているのです。彼らにとってシャーマンは生活の中心であり、部落にシャーマンがいないと、飢餓や不漁、悪天候などに苦しめられ、散々な生活を送るはめになったといわれているほどです。
エスキモーでは、精霊は「人間に害をなす」存在だと信じられています。 たとえば吹雪が起きるのも、大気の精霊が荒ぶっているからだと考えるのです。
これを鎮めるために、トランス状態となって精霊と会話し、下級の精霊を使役して交渉するのがシャーマンの役目です。
霊や神を味方につけて災厄を祓おうとするのが多くの一般的なシャーマンなのですが、エスキモーのシャーマンはここが異なる点で、特徴的です。
また、シャーマンの力は、必ず人前で使うという決まりもあります。
隠れて力を使うということは、悪しきことをしているのだと非難を受けることになってしまいます。
彼らのもっとも重要な役割は、災厄の根源を見つけて、対策を練ることにあります。 エスキモーにはさまざまなタブーが伝わっており、それを守らないと精霊が怒り、災厄が起きます。
シャーマンは、いったいどのタブーに触れてしまったのか、そしてどうすれば精霊の怒りが治まるかを診断します。
そして儀式によって怒りを鎮めることも行います。
他にも、お守りや呪文といったものを譲渡することもあります。
お守りには、動物の牙や鳥の羽など、エスキモー社会では簡単に手に入るものが使われます。
それらに豊漁や天候回復などの特別な力が備わっているかを鑑定し、もしくは自ら付与して譲渡します。
また「トュピラック」と呼ばれる魔力を持つ人形を作り、お守りとして与えることもありました。
欧米には神話や伝承がたくさんありますから、やはり精霊などの存在はアジア以外でも身近なのかもしれませんね。
以上、シャーマンについて簡単にご紹介しました。
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本書で紹介している明日使える知識
- 憑依巫女
- イタコ
- カミサマ
- ノロ
- ユタ
- etc...
ライターからひとこと
女性に占い好きが多いのは今も昔も変わりません。よく女性は感覚的だというようなことも言われますが、シャーマンに女性が非常に多いというのですから、それはDNAに刻み込まれた特性なのではないでしょうか。「卑弥呼」も日本最古の巫女として本書で紹介されていますし、国を率いていたくらいです。
女性の感覚がわからないと悩んでいる男性のみなさまには申し訳ないですが、「女性の感覚はすごいのだから振り回されてもしょうがない」と、諦めて従うという方針を持ったほうが、幸せになれるかもしれませんよ。