5回、6回にわたり、いままでの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」日本語版の始まりについて述べてきたが、また目を未来に向け、PHBの次に予定している『ダンジョンズ&ドラゴンズ モンスター・マニュアル』を紹介しよう。
「モンスター・マニュアル」は、モンスターを登場させるためのモンスターのカタログで、収録項目は目次で150種に達する。とはいえ、「ドラゴン」の項目には色や金属の違いにより、悪辣なレッド・ドラゴンと善良なゴールド・ドラゴンが、それぞれに解説文とデータ(データ・ブロックと呼ぶ)が記されているし、さらにドラゴンのそれぞれには幼いワームリングから、ヤング、アダルト、そして歳を重ねた強大な力を誇るエインシャントと、4種のデータ・ブロックが用意されている。種族によっては指揮官や魔法使い、下っ端の兵士といった異なる立場の者たちの、それぞれのデータが掲載されていて、登場数としては目次より多い。また、その生き物がどのように生きているか、伝説的な怪物ならば人々にどう語られているかといった解説文も読みごたえがあるものになっている。
そうは言っても、本書の内容はDMやプレイヤーたちの想像力を制限するものではなく、助けるための材料だ。その大事な点についてファンタジーRPG入門にふさわしい記述が『モンスター・マニュアル』にはある。それを紐解こう。
はじめに
このモンスター百科事典は、君が物語をつむぎ世界を描き出すための本だ。君が一度でも、友だちを相手に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を遊んでみようと考えたことがあるなら ― それが一晩で終わる冒険であれ、長期に渡るキャンペーンであれ ― この本の1ページ1ページが君のインスピレーションの源になるだろう。本書には邪悪なものから善良なものまでどんなクリーチャーも揃そろっている。D&D世界に生息するクリーチャーの中には現実世界の神話や幻想文学が元になっている者もいれば、D&Dオリジナルの者もいる。本書のモンスターはこれまでに出版されたD&Dのすべての版から選びぬかれている。ビホルダーやディスプレイサー・ビーストのような古典的な化け物もいれば、チュールやトウィグ・ブライトのような比較的新しい創作モンスターもいる。ありふれた動物もいれば、奇怪な者、恐ろしい者、こっけいな者もいる。我々は過去のモンスターを拾い集める際に、このゲームが持つありとあらゆる側面が反映されるよう努力した。D&Dのモンスターは姿かたちも大きさも千差万別で、読者を震え上がらせる化け物だけでなく、思わず笑ってしまうようなクリーチャーもいるのだから。
君が経験豊富なダンジョン・マスター(DM)なら、いくつかのモンスターの説明は君をびっくりさせるだろう。我々は古い版のモンスターの記述を総ざらいして、長く忘れ去られていた怪しい設定を掘り返したからだ。また、変わった設定を付け加えた箇所もある。もちろん、君はこれらの設定が変更されたモンスターを君の好きなように扱ってかまわない。本書の内容は君の創造性を制限するためにあるわけではないのだ。君が「この世界のミノタウロスは船造りのうまい海賊だ」と決めたなら、誰も異を唱えることはできない。君の世界は君のものだ。
モンスターとは何か
本書におけるモンスターという言葉は、プレイヤー・キャラクターたちが何らかの関わりを持ちうる(そして戦って殺すことのできる)あらゆるクリーチャーのことだ。この定義に従うなら、たとえば無害なただのカエルや親切なユニコーンなどもモンスターということになる。プレイヤー・キャラクターと友情を築いたりライバルになったりするようなヒューマン、エルフ、ドワーフその他の文明的な人々も、モンスターに含まれる。とはいえ、D&D世界に巣食うモンスターのほとんどは、誰かが食い止めなければならない脅威そのものだ ― 暴れまわるデーモン、欺きに満ちたデヴィル、魂を吸い取るアンデッド、召喚されたエレメンタル、他にも山ほどの。本書には、想像しうるあらゆる気候や地形に対応した、あらゆるレベル帯のモンスターが載っており、そのどれもがすぐにゲームに登場させられる使いやすいものになっている。君のアドベンチャーの舞台が沼地だろうと、ダンジョンだろうと、はたまた外方次元界だろうと、この本を読めばその舞台にぴったりのクリーチャーが見つかるはずだ。
モンスターはどこにいる?
君が初めてD&Dを遊ぶなら、モンスターに出くわして戦うことになるような奇怪で不思議な場所にも説明が必要だろう。ダンジョン
ダンジョンという言葉はもともと、城の地ちかろう下牢を――鉄格子に手てかせあしかせ枷足枷がぶら下がる、暗くて湿った場所を意味する。だがD&Dにおいて、ダンジョンという言葉はもっと広い意味を持っている。モンスターが巣食っている閉鎖的な空間はすべてダンジョンだ。そしてD&Dのほとんどのダンジョンは地下に広がる天然や人工の洞窟網である。それ以外のダンジョンの例を以下に挙げる。
・ 人里離れた丘のてっぺんに廃はいきょ墟と化した魔法使いの塔があり、その地下にはゴブリンがたむろするトンネル網がある。
・ ファラオが造らせたピラミッドの内部には、呪われた埋葬室と秘密の宝物庫がいくつも眠っている。
・ ジャングルに潜む失われた都市。今はツタに覆われ、デーモンおよびデーモンを崇めるカルト教団に占拠されている。
・ フロスト・ジャイアントの王が眠る氷の墳墓。
・ ワーラットの一団が支配する、迷宮のような汚い下水道網。
アンダーダーク
地上世界の地下に広がる地下世界アンダーダークこそ、世界最大のダンジョンだ。アンダーダークは暗闇に適応したモンスターたちが住む広大な地下領域である。光なき洞窟と洞窟を結ぶトンネルは、幾度となく折れ曲がりながら地下へ地下へと伸びてゆく。アンダーダークの探険には一生がかかる(その“一生”は一瞬で終ることもままあるが)。そしてその探険では以下のような場所が見つかるかもしれない。
・ マインド・フレイヤーが造った牢獄または収容所。知性を失った隷属者や錯乱した狂人が詰め込まれている。
・ 忘れられたドワーフの巨大地下墓地。埃ほこりの積もった手つかずの墳墓また墳墓が、探険者を待っている。
・ ドラウの壮大な地下都市への道を守る、戦力の整った前線基地。
・ 巨大なキノコが繁茂する地底の地割れ。誇大妄想を抱いたビホルダーまたは狂えるフォモールの王の領地だ。
・ 日の差さぬ地底の大海に点々と並ぶ岩がちな島。水中にはアボレスと狂えるクオトアたちが住んでいる。
野外
すべてのモンスターが地面の下に潜んでいるわけではなく、砂漠、山、沼、峡谷、森、その他の自然の土地に住んでいるモンスターもまた多い。野外の土地はいかなるダンジョンにも負けず劣らず危険な場合がある。隠れ場所のない土地は特に危険だ! 野外にもダンジョンと同じぐらい記憶に残るような場所がある。
・ 人里離れた高山や岩山の頂に、難破船の船体を積み上げて作られたルフ鳥の巣。
・ 極北の広大なツンドラ地帯。ここは狂戦士とイエティの狩場だ。
・ トリエントに護られた、あるいはデーモンを崇めるノールどもに穢けがされた、原生林。
・ 霧に包まれた沼地。邪悪なブラック・ドラゴンを崇めるリザードフォークの縄張りだ。
・ 恐竜とヒューマンの部族の戦士が住む密林の島。
町や都市
最高のアドベンチャーのいくつかは文明圏の内部で物語られる。
都市という舞台において、冒険者たちは金持ちや権力者と付き合う機会を得る一方で、社会の屑くずと呼ぶべき輩にも出くわすだろう。そして文明という化粧板を引っぺがした裏には、怪物的な悪が潜んでいるのだ。中世の町や都市はダンジョンと同じくらい危険だ。
・ ケンクの盗賊や暗殺者のギルドの拠点になっている時計塔。
・ 奴隷商人の隠れ家になっている孤児院。院長は人に化けたラークシャサだ。
・ 死霊術の実践者が多数いる、腐敗に満ちた魔道学院。
・ 貴族の屋敷にデヴィルを崇拝する金持ちのカルト教団員が集まって生いけにえ贄を捧ささげている。
・ 昼も夜も人造クリーチャーに警護されている、寺院、宝物庫、または美術館。
水中
すべての冒険が地に足の着いた状態で起きるとは限らない。本書にはこの世界の大海原に生息するクリーチャーも何体か載っている。
悪魔じみたサフアグンもいれば、サフアグンを憎む平和的なアクアティック・エルフ(水すいせい棲エルフ)もいる。水中の世界にも、驚くべき冒険の舞台は多い。
・ 鮫さめ、水棲のグール、怒れるゴーストが徘はいかい徊する、沈んだ船の墓場。
・ 珊さんご瑚で造られたストーム・ジャイアントの城。美しくも不吉な気配を漂わせている。
・ 魔法的な空気の泡に包まれた、海底に失われた都。メドゥサの女王がこれを治めている。
・ 太古の財宝が詰まった、クラーケンのねぐらまたはブロンズ・ドラゴンの住すみか処である洞窟。
・ 邪悪なサフアグンの神セコラの水中神殿。
諸次元界
アビス、九層地獄、黄銅城。次元の彼方に位置するこれらの場所は高レベルの冒険者を呼び招き、勇敢な(あるいは向こう見ずな)者たちに「できるものならこの場所の邪悪な支配者を打ち倒し、隠された秘密を暴いて見せろ」と挑みかかる。秩序そのものたるモドロンから、血に飢えたデーモンまで、物質界以外の次元界には数多くの強大で奇怪なクリーチャーが存在するのだ。面白そうな冒険の舞台を探す際には、君は大空という境界すら突っ切って、世界の果ての向こう側をのぞきこむことができる。
・ 九層地獄の第1階層アヴェルヌスに位置する、とあるピット・フィーンドの拠点。
・ シャドウフェルの呪われた城。シャドウ・ドラゴンの住処である。
・ フェイワイルドにあるエルフの女王の墳墓。
・ 風の次元界にあるジンの宮殿。盗んできた素晴らしい財宝がたくさんある。
・ リッチが造った秘密の擬似次元界。このアンデッドの大魔道士の経箱と呪文書の隠し場所だ。
『ダンジョン・マスターズ・ガイド』には数多の次元界についてより詳しい情報が載っている。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ モンスター・マニュアル 日本語版』P.4「はじめに」「モンスターとは何か」、P.4~6 「モンスターはどこにいる?」より。
※記事中の日付は記事公開時のものです。