マーリンといえば、アーサー王伝説に登場する魔術師として有名ですが、具体的にどんな活躍をした人物かは知らない・忘れてしまったという方も多いのではないでしょうか。 『アーサー王』(佐藤俊之 著)では、アーサー王と円卓の騎士たちにまつわる物語を、登場人物一人ひとりのエピソードとともに解説しています。今回はその中から、マーリンについてご紹介します。
目次
マーリンとヴォーティガーン 出会いの物語
マーリンはアーサー王だけに仕えたわけではなく、アーサーの4代前から歴代のブリテン王に仕えた、大変長命な予言者・魔術師です。彼の母親は高貴な生まれの人間でしたが、ある日、眠っている間に悪魔(夢魔であるとも言われます)の子どもを授かります。こうして生まれたのがマーリンです。彼の生まれ故郷はウェールズ、ブルターニュ、スコットランドなど諸説ありはっきりしません。また、その最後についても伝説によってまちまちであるなど、重要人物なのに謎に包まれた不可思議な存在です。まずは本書を参考に、マーリンが若い頃、ヴォーティガーンというブリテンの王と出会った時の物語をご紹介しましょう。
あるときヴォーティガーンは自分たちに反旗を翻してきたサクソン人をうち破り、ひとときの平和を得た。このとき彼は、再び起こるであろう戦乱に備えてどのように防備を整えればよいか、国中の魔法使いを集めてその方法を訪ねた。 『アーサー王』p.16魔法使いたちは口をそろえて、ヴォーティガーンに高い塔を築きそこにこもることを勧めます。そこで王はエリス山と呼ばれる丘に塔を築くことにしましたが、何度挑戦してもエリス山が塔の土台を飲みこんでしまい、完成しません。
困った王に魔法使いたちは、「父親のいない少年を連れてきて生け贄に捧げればよい」と告げます。こうして連れてこられたのがマーリンでした。
マーリンは王に、魔法使いたちの話は嘘であると告げ、「エリス山の下には池があり、その池の底に2頭のドラゴンが眠っているから塔の土台が完成しないのだ」と話します。王が地面を掘り、池の水をくみ上げてみると、はたしてマーリンの言う通り、2頭のドラゴンが現れたではありませんか。
ドラゴンは互いに戦い始めました。それを見てマーリンは次のように語ります。
「白いドラゴンはサクソンの民、赤いドラゴンはブリテンの民。白いドラゴンは赤いドラゴンをうちのめし、ブリテンの大地は荒れ、その川は赤く染まる。そこにコーンウォールの猪が現れ、白いドラゴンに戦いを挑み、海へと追いやる」 『アーサー王』p.17マーリンの語ったこの言葉は、ブリテンの未来に関する予言でした。ブリテンはサクソンに1度は敗れるが、「コーンウォールの猪」が現れ、サクソン人を追いかえすというのです。「コーンウォールの猪」とはアーサー王のことだといわれています。
この後、ヴォーティガーン王はマーリンのおかげで完成した塔にこもりますが、結局アウレリウス・アンブロシウスとウーサー・ペンドラゴンという兄弟に倒されてしまいました。
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アーサー王とマーリン そして退場へ
ヴォーティガーン王亡き後、マーリンはアンブロシウスとウーサー・ペンドラゴンの兄弟に仕えます。アンブロシウスが毒殺された時には、魔術を使ってアイルランドからブリテンに巨石を運び込み、アンブロシウスの墓にストーンサークルを築いたともいわれています。 ウーサーの子どもアーサーが誕生してからは、戦乱に巻きこまれるのを避けるために、アーサーをエクトル卿という騎士のもとに預けたり、後にアーサーが王に即位するための準備を整えるなどします。マーリンは成長したアーサーにも仕え、よき助言者となりました。アーサーがグィネヴィアと恋に落ちた時には、ふたりの結婚が災いをもたらすことを予言します。また、王になったアーサーが聖剣エクスカリバーを手に入れられるよう、湖の妖精のもとに彼を導いたのもマーリンです。
このように、マーリンはアーサーのもとでブリテンの統一に力を注ぎますが、最後には恋の相手である湖の妖精ニムエ(この名前はヴィヴィアンとされることもあるなど、諸説あります)に騙され、危険の森の地下洞窟に幽閉されてしまいます。これ以降、マーリンはアーサー王の物語には登場せず、アーサーが最後の戦いで致命傷を負った時も助けにいくことはありませんでした。
マーリンがこうして物語から退場したことについて、本書では次のように考察しています。
アーサー王伝説はイギリスがケルト人からサクソン人の世界へ、異教からキリスト教へと移り変わる時期を描いた物語である。マーリンはこうした時代の移り変わりを、己の退場によって描いているのである。 『アーサー王』p.11アーサー王伝説が人気を集めるとともに、マーリンの存在もよく知られるようになり、典型的な魔法使いとしてさまざまな物語に登場するようになりました。最近では『指輪物語』や『ハリー・ポッター』にもその影響をみることができます。
アーサー王伝説の中のマーリンは最後に退場してしまいましたが、今も私たちの中に息づいているのです。
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