武器屋や防具屋といえば、ファンタジー小説やRPGでは欠かせない重要な職人です。実際の中世ヨーロッパ社会でも、武具職人をはじめ、木炭職人や製鉄職人、刃物職人など様々な職人が活躍していました。
『図解 中世の生活』(池上正太 著)では、中世ヨーロッパの都市や農村に暮らす様々な住人の生活について、丁寧に解説しています。今回はその中から、鍛冶屋の仕事内容がどんなものだったのかを中心にご紹介します。
目次
中世の職人①農村の鍛冶屋と、それを支えた職人たち
ひとくちに鍛冶屋といっても、農村と都市とではその立場や仕事内容は異なっていました。まずは農村の鍛冶屋がどのような仕事をしていたのかみていきましょう。農村の鍛冶屋は元来、領主に仕える職人で、領主のために蹄鉄や鉄製品を作成していました。村や領主にとってなくてはならない重要な存在として、領主所持の農具を使用できる特権を与えられています。
鍛冶屋はまた、領主から村の農民が使う農具を製造する独占権も与えられます。農民から材料と手数料とを受け取り、農具や生活用品を製作していました。鍛冶屋が作成する農具は、鋤や鍬、鎌といった個人で使う農具から、有輪犂(畑を深く耕すための農具で、犂に車輪をつけて牛馬に引かせるもの)などの大型のものまで様々です。農具以外にも、鉈や斧、ナイフなどの刃物類、鍋やコップ、ハサミ、釘など生活に必要な金属類全般を幅広く扱っていました。また、大工と協力して村の水車の整備補修を行ったり、荷車などを製作することもありました。
こうした金属製品を作るために、村の鍛冶屋には火炉やふいごといった設備が整えられています。材料となる銑鉄などの金属は、森に暮らす製鉄職人によって精錬されました。たとえば鉄の場合、小型の精錬炉に砕いた鉄鉱石と木炭を入れ、400度~800度の低温で焼成し精錬します。こうして得られた銑鉄を、鍛冶屋は火炉の中に木炭とともに入れ、ふいごを使って加熱して溶かし、金床や金槌、火バサミなどを用いて製品に加工しました。
金属の精錬や加工のために燃料として使われた木炭は、炭焼き職人によって作られます。炭焼きは8月~10月頃に行われ、完成した木炭は金属加工以外にも、製塩、陶磁器やガラスの製造などに幅広く使用されました。炭焼きたちは仕事がない時は周辺の農村で農作業を行うなど、半農半職の暮らしをしていたといいます。
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中世の職人②都市の鍛冶屋は金属加工職人の一職種
次に都市に暮らした鍛冶屋についてみていきましょう。農村の鍛冶屋は、蹄鉄や農具、生活用品から水車の部品まで、生活に必要な金属製品は何でも作っていました。一方、都市部では、金属加工職人はそれぞれの専門分野に特化して仕事をしています。鍛冶屋は金属加工職人の中の職種のひとつという扱いで、他には貨幣鋳造業者や金銀細工を作る職人、刃物職人などがいました。
農村の鍛冶屋が領主や農民を相手に金属製品を作っていたのに対し、都市の鍛冶屋は、町に住む一般庶民や他の鍛冶職人が取引の相手です。農村の鍛冶屋と同様に、蹄鉄などの生活用品を作る他、鉄や鋼を精錬して武具職人や道具職人(刃物屋、釘屋など)に販売していました。
鍛冶屋の工房はたいてい、都市の周縁部に位置しています。これは火炉を使うことからの防災上の都合と、騒音問題に配慮するためです。また、鍛冶屋は水車を使った水力式の槌やふいごを使う場合があり、都市の周縁部に居住した方が水車まで近く利便性がよいという理由もありました。
中世ヨーロッパでは、都市の職人はギルドと呼ばれる同業者組合を組織し、自分たちの生活保護や作業の安定化のために協力し合っています。鍛冶屋をはじめとする金属加工職人のギルドもありましたが、金など貴金属を扱う細工師はとても高い評価を受けていたのに対し、雨どいを鋳造する職人は裕福ではない暮らしを送るなど、同じ金属加工業といっても扱う製品によってかなりの格差があったようです。では鍛冶屋はどうだったかというと、中世では貴重な鉄製品を生産していたため、高貴な存在として扱われることもありました。
このように、鍛冶屋は暮らしている場所によって、生産するものや商売相手などが異なっていました。しかし、村の鍛冶屋も都市の鍛冶屋も、どちらもなくてはならない重要な存在であったことに変わりはありませんでした。
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ライターからひとこと
博物館などで古い甲冑や武器などに出会うと、その技術の巧みさ、美しさに惚れ惚れと見入ってしまいます。どのように製作していたのか、もしタイムマシーンがあったら当時の工房を見学してみたいものです。今回は鍛冶屋に焦点をあてご紹介しましたが、本書にはこの他にも灰製造人、養蜂業者など、様々な中世の職業が掲載されています。予想外の仕事内容もあり、面白いですよ。