時代劇やアニメなどでわたしたちが見る忍者は、とにかく強いですよね。
しかし彼らの仕事は戦闘ではなく、あくまで諜報、つまり情報収集がメインです。実際は戦闘よりも、逃げることが大事になってきます。
今回は『図解 忍者』(山北篤 著)より、そんな彼らの「逃げ」スキルについてご紹介します。
目次
「遁法」——戦闘よりも大切な忍者の逃げスキル
創作作品では、相手が武士であっても堂々と闘うシーンが見られる忍者ですが、彼らの仕事は情報収集がメインです。地位としては下級武士よりも低く、実はごくごく普通の人なのです。残念ながら戦闘においては武士には到底かないません。
闘うどころか、彼らは任務を遂行するために、逃げることを優先しなければなりませんでした。
「遁法(とんぽう)」とは、そんな忍者にとって欠かせない、「逃げ」スキルの総称です。 しかしそれにはわたしたちが想像する派手さはなく、あくまで体術と小道具を使用した技術にすぎません。
つまりいわゆる「ドロン」と煙に消えるようなものではなく、どちらかといえば地味で、とても現実的なものなのです。
遁法にはさまざまなものがありますが、今回はなかでも有名な「水遁の術」と「火遁の術」を紹介してゆきましょう。
竹筒シュノーケルで泳ぐアレ? 実際の「水遁の術」
かつては現在と違い、泳げる人は少なかったといわれます。「水術」という日本式の水泳術も存在しましたが、特殊な地形用の戦闘技術だったので、あまり広まりませんでした。
そのため、水中に逃げられると追っ手は諦めるほかありません。
では、逃げが大事な忍者にとって、水中に飛び込むことこそ最強では?
そう思われる方もいるかもしれません。しかし答えは、否なのです。逃げ切ったところで、水から上がったあとが問題です。
びしょびしょの状態では、怪しんでくれと言っているようなものだからです。
ただ、著者は「忍術は、その半分以上が事前準備」と語っています。
もしも着替えなどが用意できれば、泳いで逃げることはとても有効なのかもしれません。
では「水遁の術」とは、実際はいったい何なのでしょうか?
よく使われたのは、大きめの石などを投げ込み、水音をさせて水中に逃げたと敵に誤認させることでした。
昔の城砦は、水堀に囲まれたものが多かったので、この方法は、かなり有効だった。何しろ、城の周囲は全て堀だから、忍び込んだ者が水に飛び込むのは当然だと、追う側も考えている。 『図解 忍者』p.134この場合でも、都合良く大きな石が手に入る可能性は少ないので、事前準備が必要です。 なお、よく見る竹筒をシュノーケル代わりにして泳ぐ方法は、実際は使われていなかったようです。
竹筒が水面を動いていたら、それこそ怪しんでくれと言っているようなものですね。
◎関連記事
忍術で隠れると見つからない? 忍者が利用した人間の心理
煙玉でドロン!? 実際の「火遁の術」とは
忍者といえば、地面に煙玉を投げつけてドロンと消える姿を想像する方も多いでしょう。 しかし、衝撃で発火するニトログリセリンのような火薬が発明されたのは江戸末期なので、戦国や江戸初期の忍者は使うことができない術なのです。残念ですが、あの煙玉は、明治大正になり、忍者ものの映画が撮られるようになって出てきた創作忍術ということになります。
もしも煙玉が実在すれば「火遁の術」にもれなく入ったと思われますが、やはり実際の火遁の術はもう少し現実的です。
もっとも簡単な術は、侵入する家屋や城に、予め放火しておくというものです。
火事の中で侵入者を追い続けられる人もいませんし、逃げ出す人に紛れて、自分も逃げ出すことができます。
また、「百雷銃退き(ひゃくらいじゅうのき)」も有効です。
これは敵との距離が数十メートル以上あるときに使い、敵を数分間足止めする技です。 「百雷銃」とは一種の爆竹で、銃とはいっても実際の銃ではありません。
火薬が火縄でいくつも結ばれており、火を点ければ次々と破裂音が鳴り響きます。
その音で銃撃だと誤認させ、相手が身を隠している隙に逃げるのです。
コツとしては、相手が身を隠せる物陰などがある場所で使うことです。
銃撃だと思った相手がそこに隠れてくれれば、時間を稼ぐことができます。
逆に開けた場所で使ってしまえば、音の正体が銃ではないとばれて意味がなくなる可能性があります。
地味なものが多い忍術ですが、百雷銃退きは比較的派手なので、いわゆる創作作品に出てくる忍者気分を味わうのにはうってつけかもしれませんね。
なお、「百雷獣退き」については実際の戦闘に生かす方法(?)が書かれていますので、こちらの記事も参考にしてみてください。
忍術で何とかなる? 忍者を大名や足軽と戦わせてみた
以上、代表的な遁法について2種類ご紹介しました。
本書で紹介している明日使える知識
- 撒菱退き
- 入虚の術
- 物見の術
- 入堕帰の術
- 楊枝隠れの術
- etc...
ライターからひとこと
こうして見ていると、実際の忍者の仕事とは、とにかくコツコツとしたものであることがわかります。逃げることを第一とし、そのための事前準備に余念がありません。ちなみにもっとも有名な手裏剣さえも、相手への攻撃というより、退散するためのものと考えてよいでしょう。本書には他にも、忍者の実際の仕事の詳細が書かれています。有名な創作忍者の紹介なども、忍者好きには外せないデータです。