中世ヨーロッパ風のRPGでは、村人はクエストの情報をくれたり、決まった台詞を喋るだけの存在ですが、実際の中世ヨーロッパでは、村人はどんな生活をしていたのでしょうか。
『図解 中世の生活』(池上正太 著)では、中世ヨーロッパの衣食住をはじめとするリアルな生活をさまざまな観点から解説しています。今回はその中から、農村に暮らす人々についてご紹介します。
目次
農村の職業①農民には様々な階層があった
農村に暮らす住人の大半は農民です。ですがひとくちに農民といっても、実際には様々な身分・階層が存在していました。彼らを大きく分けると、土地を持っている者と持っていない者とに分類できます。まず、自分の土地を持ち、領主からの賦役を負う義務がない者を「自由農民」と呼びます。彼らは自分の土地を自分で耕した他、農奴や奴隷、労働者などを使って土地を耕作させることもありました。また、自由農民は評議会を結成して農業の計画を立てたり、慣習法に基づき裁判を行うなど、ある程度の自治権を与えられた農村運営の担い手でもありました。
自由農民の間には貧富の差があり、ローマ帝国時代から続く富農の家もあれば、没落貴族でわずかな土地を自分で耕すだけの者もいたといいます。
次にご紹介するのは自分の土地を持たない者ですが、彼らの中には様々な階層が存在していました。
「農奴」は領主や聖職者、自由農民らに支配され、農作業を行う人々です。自分の土地を持ちませんが、慣習的に代々同じ土地を耕作し、大きな家屋敷を持つ者もいました。そのため、中には自由農民でいるよりも自ら農奴となることを選ぶケースもあったようです。
「奴隷」は古い時代を中心に存在し、領主や自由農民などの土地所有者に支配され、虐げられることも多かったようです。
「小作人」は土地を借りて農作業を行うことで生活しています。彼らは領主から賦役労働を課せられていました。
「労働者」は金銭で雇われ土地を耕作した人々で、土地を相続できない農民の次男以下の子供なども含まれます。彼らは貧しい暮らしをしていましたが、領主からの賦役は軽く、農奴よりも自由がありました。
このように、中世の農村には様々な階層の農民たちが寄り集まって暮らしていました。時代や地域により、彼らの暮らしぶりには多少の差もみられますが、農民の中に階層や貧富の差があることに変わりはありませんでした。
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農村の職業②RPGとはちょっと違う、村人あれこれ
村に住んでいたのは農民ばかりではありません。ここからは農作業以外の仕事に従事していた村人たちをご紹介しましょう。「村長」は村人たちをまとめ、支配する役割を担っていました。領主に選ばれて村長となる以外に、世襲制で代々村長となる家が決まっていたり、選挙で選出される場合も多くあったといいます。
「酒場の主人」は領主に金を払い、許可を得て酒類の醸造や販売を行っていました。酒場は村人たちの憩いの場で、RPGの世界のように雑貨屋や宿屋を兼ねることもあります。 一方で、酒場はよからぬ密談の場となることもあったため、酒場の主人は領主の命を受け、村人たちに不穏な動きがないか監視する役割も任されていました。
「粉ひき」は領主から水車の管理を任されており、農民から料金を取って麦を挽き粉にし、料金の一部を税金として領主に納めます。製粉後は「パン職人」が同様に農民からお金を取ってパン焼き釜でパンを焼き、料金の一部を領主に納税します。
このように、当時はパン作りが徴税のための手段となっていたため、粉屋やパン屋は農民から領主の手下だとみなされ、信用されていませんでした。
「鍛冶屋」・「大工」は農具の製造や水車などの設備の修繕を行います。農民たちは彼らのもとに材料を持込み、手数料を払って農具や生活に必要な様々なものを製作してもらいます。鍛冶屋や大工は生活になくてはならない職人として領主から重要視され、領主の農具などを貸し出されることもありました。
「司祭」は村人たちの相談役となり、宗教的な支えにもなりました。しかし、特に地方の司祭は教育を受けていない場合も多く、農民とかわらない生活を送っていたケースもあります。
「牧人」は農民たちから期間限定で雇われ、家畜の放牧を任されていました。
以上、農村に住む人々を駆け足でご紹介してまいりました。ファンタジーRPGの世界では、誰も彼も皆同じように見える村人ですが、実際にはこのように様々な階層に分かれており、その暮らしぶりは多様だったのです。
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