フェニックスという鳥をご存知の方は多いと思います。不死鳥とも呼ばれる伝説の鳥です。でも、どうやら時代や場所、作者によって、フェニックスは異なるイメージで描かれることがあるようです。
『幻想世界の住人たち』(健部伸明、怪兵隊 著)では、ドラゴンやエルフ、ドワーフといった不思議な生き物たちについて、棲んでいる場所や生態、歴史などをわかりやすく解説しています。今回はその中から、フェニックスに対するイメージの変遷についてご紹介します。
目次
そもそもフェニックスとはどんな鳥?
フェニックスがどんな鳥だったか忘れてしまったという方もいると思いますので、まずはフェニックスについて簡単にご説明しましょう。
フェニックスは、日本では不死鳥とも呼ばれている鳥で、500~600年程生きた後、炎の中で死ぬが、再び蘇って永遠の時を生きるとされています。単性生殖をする鳥で、性別は牡のみです。その棲息地はアラビアとされていますが、アラビアにはフェニックスの伝承がないことから、実際には存在しない架空の鳥であると考えられています。
フェニックスは炎の中で再生するというイメージから、キリストの復活の象徴となったり、魂が不滅であることの証明として使われるなど、古来よりさまざまに用いられてきました。 また、魔術の世界にもフェニックスが登場します。魔術書の中では、フェニックスはソロモン72柱の悪魔のひとつとされ、美しい鳥の姿をしているとも、詩作に優れているとも言われているようです。
不死鳥にまつわる伝説は西洋のフェニックスだけでなく、世界各地に存在しています。たとえば中国の鳳凰、インドのガルダ、ロシアの民話に登場する火の鳥または火喰い鳥などが挙げられます。
◎関連記事
本来は怪物じゃなかった? ガーゴイルの由来
死骸は大地も腐らせる? 時代とともに強大化したバシリスク
金色・赤・緑 作者によって異なるフェニックス像
フェニックスがどんな姿をしているかは、時代や場所によって諸説あるようです。本書を参考に、古代の人々がどのような鳥だとイメージしていたのかを見ていきましょう。フェニックスのモデルはエジプトの青鷺ベンヌであるといわれています。ヘリオポリス(太陽の都)では聖なる鳥とされ、死後の復活をあらわす鳥であり、長い循環を繰り返す時の神でもありました。
このフェニックスを最初に西洋に紹介したのはヘロドトスです。彼は『歴史』の中で、「絵でしか見たことがない」と断った上で、フェニックスは金色と赤の羽毛を持ち、大きな鷲に似た姿をしていると述べています。
もし彼の説明の通りだとすると、フェニックスは青鷺ではなく猛禽類だということになります。この点について、エジプトには太陽神ラーや天空神ホルスなど、鷹の頭の姿で描かれる神が多いことから、本書では、ヘロドトスはラーやホルスの絵を見てフェニックスだと勘違いしたのではないかと考察しています。
ヘロドトスよりも後の時代の著述家たちも、フェニックスについて書き残しています。 1世紀ローマの博物学者プリニウスは『博物誌』の中で、フェニックスは鷲ぐらいの大きさで、金色の冠毛を持ち、身体は真紅だが尾は青く、何本か薔薇色の羽毛も飛び出していると述べています。 また3~4世紀の詩人ラクタンティウスは、フェニックスのくちばしは大きく白く、全身は緑の宝石をちりばめたようだとしています。他にも『想像と幻想の不思議な世界』では、腹は干ぶどう色で背中と翼は深紅であり、頭は黄金色、尾は薔薇色と空色が混じり合っていると記されています。
このようにフェニックスの色ひとつとっても、金色や赤だという者や、尾は青いという者、全身が緑の宝石のようだという者、腹は干ぶどう色だとする者など、作者によって全く異なるイメージで描かれていることがわかります。 ギリシアやローマでは、フェニックスのことを、深紅の鳥という意味の「ボイニクス」と呼びますが、古代の人々がイメージしたフェニックスは、必ずしも深紅というわけではなかったようです。
フェニックスが炎の中で復活するようになるまで
フェニックスの不死鳥たるゆえんは死後の復活にあるわけですが、この過程も、時代を追うにつれてどんどん派手な方向になっていきました。 『幻想世界の住人たち』p.294ヘロドトスの描いたフェニックス像では、死後の復活という概念はまだあいまいで、幼鳥は父鳥が死ぬ前に生まれるとされていました。
紀元1世紀になると、プリニウスの『博物誌』などで、父鳥の死骸の中から虫が生じ、生長して新しいフェニックスになるという考え方が登場します。
1~2世紀の歴史家タキトゥスは、フェニックスが父の遺骸を背負って太陽神の神殿まで運び、そこで遺骸を焼くと述べています。ここに、火で焼くという記述がみられるようになりました。
さらに、同時代の地理学者ポンポニウス・メラは『地誌』の中で、フェニックスは500年間生きると火に自らの身体をくべること、やがてそこからフェニックスが再生することを記しています。こうして初めて、フェニックスが炎の中で再生するという現代でも一般的なイメージが確定しました。
このように、フェニックスに対するイメージは時代や場所、作者によってかなり異なっています。フェニックスと聞くと、不死鳥とか再生、炎、赤や金色といった言葉を連想する方が多いと思いますが、こうしたイメージは必ずしも初めから固定されていたわけではなかったのです。
◎関連記事
サラマンダーって実在するの? 火の精霊以外の姿とは
本書で紹介している明日使える知識
- ドラゴン
- バジリスク
- マーメイド
- クラーケン
- ゴブリン
- etc...
ライターからひとこと
フェニックスというと、手塚治虫のマンガ『火の鳥』を思い出します。そのためか、私の中のフェニックスのイメージは、金色の身体に赤いトサカといった姿です。マンガをはじめとする絵には、見てわかりやすく、記憶にも残りやすいといった特徴があります。本書ではドラゴンやドワーフ、ゴブリンといった生き物たちをイラスト付きで紹介していますので、知らない生き物でもイメージしやすく、わかりやすいですよ。