中世ヨーロッパの城では、フルコースのメニューが食べられていましたが、その内容や食事作法などは現代の私たちのものとはだいぶ異なっていたようです。
『図解 中世の生活』(池上正太 著)では、中世ヨーロッパの制度や職業、人々の暮らしなどについて、様々な角度から幅広く解説しています。今回はその中から、城の領主の食事についてご紹介します。
目次
1日2回で手掴みが基本?! 城の食事作法とは
領主やその客人たちが城で食べていたメニューは、一般的な市民や農民の食事に比べて非常に豪華なものでした。現代では、1日3回、朝昼晩に食事を取る人が多いですが、中世では、昼に食べる正餐と、夕方に食べる午餐の2回が基本でした。その他、簡単な朝食や夜食を取ることもあります。これらの食事の中でメインとなるのは昼の正餐で、城のホールに領主とその家族、家臣、客らが集まり、2時間程の時間をかけてフルコースのメニューを食べていました。
ヨーロッパの食事風景というと、ナイフやフォークの使い方など厳粛なマナーを想像する方も多いと思いますが、中世の食事の仕方は現代とはかなり異なっています。料理はひとり分ずつではなく、大皿で運ばれてきます。フォークを使って食事するようになるのは中世の終わり頃になってからで、それまでは食事は手掴みで食べていました。ナイフは各自が自分のものを持ち寄り、肉などの料理を切って手で口に運びます。その他の皿や酒杯、調味料などは共用です。汚れた手はフィンガーボウルで洗い、テーブルクロスで口や手を拭っていました。
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種類豊富で豪華な内容 中世の城の食事メニュー
それでは、城の食事メニューはどのようなものだったのでしょう?夕方の午餐は、あっさりとした料理やパン、チーズなど、軽いメニューが中心でした。 一方、昼の正餐ではパン、肉や魚、野菜、酒など様々なメニューがテーブルに並びます。
パンは白く柔らかいマンチットが最上とされ、ケーキは貴重な蜂蜜やアーモンドなどで味付けされた。 『図解 中世の生活』p.216肉類は豚、家禽、牛、羊などをローストしたり、シチューやスープ、パイ包みなどにして食べていました。調味料にはハーブやワイン、スパイス、マスタードなどが使われます。これらの肉料理は、皿の代わりに厚切りのパンの上に乗せてテーブルへと運ばれました。食後に残ったパンは召使いに下げ渡され、貧民街などで売られたとも言われています。
魚類は断食日や四旬節のような特別な期間のメインディッシュです。地中海沿岸部など港近くの住民や、養殖池を持つ領主を中心に、ニシンやタラ、カレイなどが食べられていました。
野菜は豆類や季節の野菜などを、サフランなどで味付けして食べます。果物にはブドウやプラム、ナシ、モモなどがあり、ドライフルーツなどに加工されることもありました。
酒類はワインやシードルが好まれていました。ワイン蔵の管理は執事などが行います。エールは使用人の飲み物とされていました。
このように、中世ヨーロッパの城で食べられていたメニューは種類も豊富で非常に豪華な内容で、一般的な市民や農民の食事とはかなり異なるものでした。また、調理器具や調味料が現代とは異なるため、調理方法や味付けも現代ヨーロッパの食事とは違ったものになっています。現在食べられているようなフランス料理などが誕生するのはまだ少し先のことです。
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ライターからひとこと
当時は当たり前のことだったとはいえ、きれいに着飾った城の住人たちが手づかみで肉を食べている様子を想像するとちょっとギョッとしてしまいます。もし中世ヨーロッパにタイムスリップすることがあっても、食事作法に慣れるには時間がかかりそうです。本書では食事の他、城の住人たちの衣服や娯楽についても紹介しています。こちらも現代とはかなり異なる内容ですが、イラストもついていますのでわかりやすいですよ。