これまでも、いくつかの星座について『星空の神々』(長島晶裕・ORG 著)から物語をご紹介してきましたが、今回は、家族への深い愛情を感じられる2つの星座の物語をご紹介します。 ヘラクレスの命をかけた贖罪の「獅子座」物語、そして豊穣の女神の娘、さらわれたペルセポネーの「乙女座」の物語です。
目次
「獅子座」—中天に優雅に寝そべる百獣の王
春のころに南の空に見られる星座、それが「獅子座」です。星図では、獅子が優雅に寝そべった姿で描かれます。
獅子座は黄道十二星座の大五座にあたり、一等星の「レグルス」をはじめ、どれも明るい星々で構成されており、まさに百獣の王に相応しい輝きです。
この獅子座は、英雄ヘラクレスが成した十二の功業の一番目、大獅子退治の物語から生まれたといわれています。
ヘラクレスは、大神ゼウスとミュケーナイの王女アルクメネーの息子ですが、ゼウスの浮気に加えて、ヘラクレスが優秀なこともあり、ゼウスの妻である女神ヘーラーにひどく憎まれていました。
羊飼いをしながらキタイロン山中の牧場ですくすくと育ったヘラクレスは、成人すると並外れた体躯と力を持つ青年になります。
幼少期から、戦車を駆る術、レスリング、弓術をものにしていたヘラクレスですが、19 歳(あるいは17歳)のころには、家畜や人を襲っていた山中の獅子を退治し、その皮を剥いで、頭の部分を兜がわりに被っていたといわれています。
武勇に優れた彼は、オルコメノス国に隷属していたデーバイ国の民を率いてオルコメノス国と闘い、これをうち負かします。
その功績により、テーバイの王女メガラと結婚し、子どもにも恵まれ、幸せに暮らしました。
しかしこの幸せは、長くは続きませんでした。
継母である女神ヘーラーによって、無残にも壊されてしまうのです。
「獅子座」—ヘラクレスの哀しい贖罪
女神ヘーラーは陰謀をめぐらし、ヘラクレスに狂気の女神を遣わします。 そして狂気に取り憑かれたヘラクレスは、なんとメガラとの間にできた3人の子を自身の手で殺してしまうのです。正気に戻ったヘラクレスは、この罪を贖うために、神託によってティーリュンスの王エウリュステウスのもとで、十の難業を成し遂げなくてはなりませんでした。
しかし卑怯で臆病者のエウリュステウス王は、英雄であるヘラクレスを恐れて、難業にかこつけてヘラクレスを殺そうとします。
そこで考えたのが、ネメアの森に棲む「大獅子」退治でした。
ヘラクレスは弓と棍棒で大獅子に挑みます。
しかし弓ではまったく歯が立たず、ヘラクレスは棍棒を使って獅子を洞窟に追い込みます。中に入って出口を塞いだヘラクレスは、そこで素手によって獅子の首を絞め落とし、皮を剥いで頭に被り、エウリュステウスの元に戻りました。
こうしてヘラクレスの第一の難業は果たされたのでした。
のちにヘラクレスは、ケンタウロスのネッソスの呪いによって、火中に身を投げて死んでしまいます。 そのときに、この大獅子もともに天に昇り、「獅子座」となったといわれています。
【獅子座】◎関連記事
よく見える季節: 春。四月下旬
二十時南中の時期:四月二十五日
十二宮名:獅子宮
十二宮での区分:七月二十三日~八月二十二日
十三星座での区分:八月十一日~九月十五日 『星空の神々』p.67
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「乙女座」—乙女が左手に持つ豊穣のスピカ
晩春から初夏にかけて、南の空に見えるのが「乙女座」です。 黄道十二星座の第六座にあたり、その大きさは全天で二番目を誇り、古くから重要視されてきました。この星座は、一等星の「スピカ」を除けば、あまり目立たない星で構成されています。 星図では、翼の生えた乙女の姿で描かれ、スピカのある左手に麦の穂を持っています。
スピカとは、ラテン語で「穀物」の意です。
一説では、乙女座の乙女とは、ゼウスと女神テミスの娘、正義の女神アストライア(星空)の姿と言われていますが、ゼウスの兄弟で冥界の王であるハデスの妻、ペルセポネーとする説もあります。
ペルセポネーは、ゼウスと豊穣の女神デメテルの間にできた娘です。 そう考えると、穀物の名を持つスピカを左手にするこの乙女は、ペルセポネーとして見るのに相応しいのかもしれません。
「乙女座」—母の哀しみから誕生した冬の物語
ペルセポネーは草木を愛し、毎日のように草原を駆け回っては美しい花を摘んでいました。そしてあるとき、素晴らしく見事な水仙の花を見つけます。
彼女が大喜びでその水仙を摘もうとしたそのときです。
なんと大地に巨大な裂け目が現れて、黒馬に乗った冥界の王ハデスが飛びだしてきました。そしてハデスはペルセポネーを妻とするべく、冥界へとさらっていってしまうのです。
実はこの件には、父であるゼウスが一枚かんでいました。
ハデスは、ペルセポネーを妻にしたいと前もってゼウスに相談をしていたのです。
ゼウスは賛成をしたものの、彼女の母である豊穣の女神デメテルは間違いなく反対すると思いました。
そこでゼウスは策をたて、ペルセポネーの前に見事な水仙を咲かせて、ハデスにさらわせたのです。
地の底へとさらわれる娘の悲鳴は、母のデメテルにも届いていました。
デメテルは9日もの間、食事もとらずに娘を探し回ります。そして10日目の朝、すべてを見ていた太陽神ヘリオスによって、事の一部始終を知るのです。
これに怒ったデメテルは、エレウシスの町の神殿に独り閉じこもり、誰とも口をきかず、笑うことさえやめてしまいました。
そのため地上の作物は芽吹かず、実をつけなくなってしまったのです。
地上の大飢饉に困り果てた神々は、なんどもデメテルの元に訪れては説得し、あるいは贈り物で懐柔しようとしましたが、彼女の怒りはとけません。
とうとうゼウスは、ハデスにペルセポネーを帰すように命じたのでした。
こうして帰ることのできたペルセポネーですが、ハデスに贈られた柘榴の実を4粒食べてしまったために、1年のうちの4ヶ月は、冥界で暮らさなければならなくなりました。
冥界の食物を口にしたものは、冥界に戻らなければならないという掟があったからです。
娘が冥界で暮らす4ヶ月の間、デメテルは再び神殿にこもるようになってしまいました。 これによって、地上に草木が枯れ、決して芽吹くことのない「冬」が、生まれたのでした。
【乙女座】以上、獅子座と乙女座の物語をご紹介しました。
よく見える季節:春。六月上旬
二十時南中の時期:六月七日
十二宮名:処女宮
十二宮での区分:八月二十三日~九月二十三日
十三星座での区分:九月十六日~十月二十九日
『星空の神々』p.72
これらの星座の裏には、家族への強い想いが隠されていたのですね。
本書で紹介している明日使える知識
- ポンプ座
- 占星術とは
- ホロスコープ
- 星雲
- 惑星の意味
- etc...
ライターからひとこと
今回すこしだけ登場した正義の女神アストライアの物語は、天秤座の物語に登場します。彼女はデメテルのもたらした「冬」から始まる、人間界の崩壊を見守ります。この記事にあるように、星座は古代の人々の知恵によって生まれたものかもしれません。しかし古来より変わらない人々の愛や愚かさを、つねに天空から教えてくれる存在でもあるのかもしれませんね。