エルフやニンフといえば、ファンタジー系の創作物ではおなじみの種族です。特にエルフは映画『ロード・オブ・ザ・リング』 でのイメージが強い方も多いのではないでしょうか。しかし本来の彼らの姿は映画とは少々異なっているようです。
『図解 踊り子』(高平鳴海 著)では、現実世界の踊り子や踊りにまつわる神々、世界のダンスなどについて幅広く解説しています。今回はその中からエルフやニンフなどに焦点をあて、ファンタジー世界とは違う踊り子としての彼らの素顔にせまります。
目次
ファンタジーの踊り子①北欧生まれの妖精エルフ
エルフというのは妖精の総称で、発祥は北欧、当地ではアルファルと呼ばれる。イギリスやドイツ語圏では少しずつ名前や姿を変えているが、基本的には同じ存在だ。 『図解 踊り子』p.36最初にご紹介するのはエルフです。
エルフの姿は地域により異なりますが、北欧では人間と同じくらいの大きさで、男も女もいると考えられていました。特に女のエルフは金髪でたいへん美しく、弦楽器できれいなメロディを奏でるため、人間の若い男はすぐに彼女たちの虜になってしまうといいます。一方、男のエルフは帽子を被った老人や小人などの姿で描かれます。地域によっては、背中に羽根が生えているとされることもあります。
彼らの居場所は丘や森、空中、地下などさまざまです。丘や森、空中にいる者は色白で善良、地下に住むものは肌が黒く邪悪な存在だと考えられていました。時には人間にいたずらをしたり、掃除の手伝いをすることもあるようです。
エルフは音楽や踊りが大好きです。深夜になると月光の下でロンドを踊り、うっかり人間がその輪に加わると朝まで踊り続けることになります。踊り疲れて死んでしまったり、妖精の国へ連れて行かれることもありました。
エルフが踊った跡には「エルフリング」という、きれいな緑のドーナツ型に踏みならされてできた牧草の輪ができます。また、よく似た言葉に「フェアリーリング」があります。これはキノコが円形に生えている様子のことで、このキノコにはたいてい毒があるとか、触れると病気になるなどといわれています。
ファンタジーの踊り子②ロシアの妖精ルサールカ
次にご紹介するのはロシアの妖精です。ロシアにはルサールカという水の妖精がいます。ルサールカという名前は、豊穣祈願の祭りに由来しています。そのためこのルサールカは、豊穣をもたらすという側面と、水の妖精としての側面とを併せ持つ存在です。
その姿はロシア北部と南部で異なっており、北部では緑の髪の醜悪な老婆、南部では透き通った白いドレスを着た美女だといわれています。また、下半身は魚のかたちをした人魚の姿とされることもあります。
南のルサールカは踊りが好きで、夏は森に暮らしている。夜になると空き地に集まって踊るのだ。ルサールカの踊った場所は草木の成長が早くなり、農作物も豊作が保証される。 『図解 踊り子』p.36ルサールカは夏が終わると川や湖へと戻っていきます。歌声や音楽で人を水辺におびき寄せ、溺れさせるなどの悪事を働くのです。ロシアでは溺死した女性や洗礼を受ける前に亡くなった子どもなどがルサールカになると信じられています。
ファンタジーの踊り子③ギリシア神話の精霊ニンフ
最後に、ギリシア神話に登場する精霊ニンフをご紹介しましょう。ニンフは大自然の精霊で、森や海、泉、時には都市などあらゆる場所にいます。ギリシア語で「ニンフ」といえば花嫁や新婦を意味する言葉ですが、精霊としてのニンフは可憐な少女の姿をしていて、とても寿命が長く、外見も精神も老いることはありません。 基本的に無邪気な性格で、歌と踊りを好み、家畜の世話をしたり病気を治したりすることがある一方、人をさらったり、旅人を道に迷わせたりもします。気まぐれでアバウトなところがあるのです。
ギリシア神話の中では、ニンフは神の使いとなったり、神族や人間に恋をしたりします。彼女らは恋多き存在で性的にも奔放だとされており、ニンフという単語は「ニンフォマニア」(色情狂)という言葉の語源にもなりました。悲恋のエピソードも多いですが、神や人間との間に子どもを作ることもあり、その子は英雄や王になることが多いとされています。 酒の神ディオニソスに付き従い踊り狂うなど、ギリシア神話の中でもニンフが踊っている姿が描かれることがあります。
ここまで、エルフ、ルサールカ、ニンフと、ファンタジーに登場する3つの種族をご紹介してきました。「踊り」という側面からみると、よく知っている種族も新しい顔が見えるのではないでしょうか。
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