【怖い話】祟り
【パンタポルタ、ホラー企画】
季節に逆らうような、寒い日が続きますね。
怖い話で、身も心もひんやりしてみませんか?
今回は飴谷きなこさんから寄せられた、神職さんもびっくりな怖い話をお届けします!
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某SNSに登録して、そろそろ二桁年は経過している。 そこで、ある魔術系サークルで知り合った女性Aと話をするようになった。 お互い猫が大好きで、その女性が猫を拾ったことがきっかけでよく話すようになった。 仔猫のミルクの世話から始まり、体温のチェックや気温、排せつのさせ方から離乳食や躾に至るまで。 そこから色々話すようになったのだが、近況を聞いているとどうにも腑に落ちない点が多々出てくる。 やたらと怪我をしたり事故に巻き込まれたり、他人からの悪意による犯罪被害スレスレどころか巻き込まれてるよね?と言う出来事が多いのだ。 中でも突出していたのが、夜の買い物帰りに地元のチーマーだかヤンキーだかの半グレ系とでも言うのだろうか。 そう言うガラの悪い若者に絡まれると言うほぼ事件。 ネットだから幾らでも話を盛れると言えば盛れる だが、帰宅途中に鉄パイプや角材、バットなどの凶器を持った十代後半から二十代前半の若者に取り囲まれるのだと言う。 軒並み返り討ちにするらしく、SNSにアップされるのは血だまりに染まったタイルであったり、ひしゃげたバイクであったり。 本人が格闘技系を嗜んでいるとの事で自衛がそこそこできるのもあって、今のところ大きな怪我や事故はないが、どうにも心臓に悪くて仕方がない。 たまたまこの時、私は厄年に当たり厄払いを受けた。 気休めと言えば気休め。 だが、ちょうど仕事上の人間関係のトラブルを抱えていた時期だったのもあって、やらないよりはマシだろうと思い、お祓いを受けたのだ。 そのおかげもあってか、一時的ではあるが社内での嫌がらせも沈静化し、ほっと一息つけた時期でもあった。 故に、Aにも当然勧めた。
「気休めかもしれないけれども、どうにもほぼ毎日そんな被害に遭うのはどうにもおかしい。厄払い行った方が良い」
幸いにもAも素直に聞き入れてくれて、市内にある大きな神社へ厄払いに行ったそうだ。 そこで、Aは驚くような目に遭った。 正確には、その儀式を執り行い、立ち会った神職さんたちが。 かなり以前に聞いた話なのでうろ覚えなのだが、まず祝詞をあげる際に御燈明が火柱をあげて消えた。 次いで、ご神体を護る矛が倒れ、玉串も倒れた。 挙句に御神体である鏡までが倒れ、そこに至って神職の数が一気に増え、祝詞を上げたそうだ。 後から聞いた話ではあるが、どうもその神社にお勤めの神職さんがほぼ全員集まったのではないかと思う。 幸いにしてA自身には何にもなかったのだが、祝詞を上げている最中に神職が数人倒れて一時的に意識が戻らなくなった。 Aは神社の方から「憑依しているモノが強すぎて、ここではどうにもできない」と言われ、帰ってきたそうだ。 それを聞いて流石に私も顔が引き攣った。なんだそれ。聞いたこともないぞ。 厄払いの最中特に異音や臭いなどの変化はなかったか聞いてみたが、上記の他は大きなものはなかったらしい。 もしかするとAが巻き込まれた事件や事故の類はたまたまではなく何者かの意思による故意であったという事かもしれない。 そこで、私は別の更に格の高い神社でのお祓いを受けるように勧めた。 正直そこでダメならもう他でもダメだろう、と言う気持ちで。 Aはその神社へ向かった。 受付で名前を言うと「ああ、あの方ですね」と納得した様子で祭殿に案内されたそうだ。 滅多にある事ではない事もあって、大きな神社にはAの厄払いの話が通っていたのだろう。 その祭殿で厄払いを受けたそうだ。 だが、Aに害をもらたす何者かはそんなに甘くはなかった。 またしても神職さんが倒れたのだ。 余りの事に呆然とする彼女に、その神社で一番の責任者っぽい神職さんは渋面を作りながらも策を与えてくれたそうだ。 一定期間大祓の詞を唱え、神職が書いたお札を飲み、そして滝行を行う事。 今の状態では、余りにもAに憑りついたモノの力が強すぎて、祓えないのでその力を削いでからという事らしい。 それらを終えた後に改めてお祓いを受けることになったと聞いた。 そしてちょうどその頃、Aとネットで話をしている時に私にも異変が起きた。 突然パソコンに向かっている私の後頭部から背中に掛けて、何か長い毛束のようなものがふさっとかかってきた。 鬱陶しいなと思って払うが、それはまとわりつくばかり。 だが旦那は目の前で寝ていて、うちの猫は短毛種だし我が家にはウィッグなどの毛足の長いアイテムはない。 ちょうど、この女性の長い髪の毛のような。 しかも視線を感じるのだ。 女の眼。 そして大きな犬らしき動物の息遣いまで聞こえる。 何故かは知らないが、髪の長い女がじっとその中からこちらを見ている。 傍には大きな犬を従え、隙あらば急所を狙っている。 それがわかる。 肌の上を冷や汗が流れた。 息も浅くなるが、後ろを見る勇気はない。 パソコンに向かう私の背後はクローゼットケースを積み上げてあって、人間が立てるほどのスペースはないしむしろ目の前で寝ている旦那と私以外にこの家に人間はいない。 ひくっと咽喉が引き攣ると同時に軋むような男とも女とも付かない声が脳内に響いてきた。 『アレは我らが贄だ。余計なことをするな』 それだけ言うと、ふっと気配は消えた。 まさか、私にまで警告が来るとは思わなかった。 半狂乱になった私は件の彼女本人とは別に、更に別SNSで知り合った霊感の強い女性Bに連絡を取った。 「うーん……下手したら祟り殺されるよ、これ。手を引きなさい」 なんてこった。 なんてものに手を出してしまったんだ。 だけれども、ここまで関わった以上手を引いてもダメな時はダメだろう。 神と言うのであれば、はそれを見逃すほど甘くはないと思う。 そう言うと、Bは嘆息して言った。 「なら、守護を付けてあげる。でもどうにもならないこともある。命を取られるのも覚悟しなさい」 そう言って、Bは守護を貸してくれた。 Bと守護との約束があるので、これ以上詳しくは書かない。 ある時、Aから終わったと連絡が入った。 改めて話を聞くと、Aは思った以上に大変な目に遭っていたらしい。 お守りとしてお授け頂いたお札が破れること数回。 大祓の詞を奏上している最中に榊が折れること数回。 飼い猫が何もない空間に向かって威嚇すること数知れず。 滝行の合間にもお祓いをしてもらったらしいが、やはり毎回神職さん達は倒れられたそうだ。 その中で、わかったことは彼女には二柱の神が祟り神として取り付いていた。 一柱は荼枳尼天。 もう一柱はオオクチノマカミ。 いわゆる狼を神格化した神だ。 荼枳尼天とオオクチノマカミはAが誕生する前からAに既に憑りついていたらしい。 既に名を失い、魔に堕ちてしまう寸前だったのを荼枳尼天が拾って生まれる前のAに憑依した。 オオクチノマカミはほぼ神としての意思を失いつつあり、人間に対する恨みしか残っていなかったそうだ。 それはもちろんAに対しても向けられるもので、その命と魂を狙っていたのだそうな。 ここで誤解をしないでほしいのは、このオオクチノマカミは【オオクチノマカミ一族】のひと柱であって、各地の神社できちんとお祀りされているオオクチノマカミご本尊ではない。 かつてはお社できちんとお祀りされていたと言うのだが、長い年月の間にそのお社も祀りも失われ、祀られていた神も名を失い、本性を失ったという事らしい。 荼枳尼天はそんなオオクチノマカミを哀れみ、ちょうどその時期に誕生するAに共に憑依した。 この荼枳尼天もいわば分御霊である。 憑依することでオオクチノマカミのいわば崩壊しかけた魂を護ったという事のようだ。 Aはこの二柱を身体から抜こうと頑張っていたらしいが、誕生以前に憑りつかれ、気づいた時点で既に二十余年の年月が経っていたこの御霊は離れてくれなかった。 Aの魂の中に深く食い込み、離れようにもその繋がりをほどくことは難しいのだそうな。 それで、Aを殺害することでAから離れようと一連の事件を起こしたという事が真相らしい。 Aはこの一件以降、時折祝詞を奏上し、神楽を舞い、身を慎むと言う日々を送っている。 いわば彼女の肉体がお社であり、ご本尊でもある為、自身を浄め内に宿る二柱の神を慰撫することを義務付けられたと言ってもいいと思う。 浄めや祝詞、神楽の奏上を怠れば以前と同じくAの命を刈り取られる。 それを防ぐ意味もあるわけだが、ともあれ、この一件があってからと言うもの、Aが地元のチーマーなどのタチの悪い若者に絡まれることはなくなったし、彼女のSNSに血だまりが広がる写真がアップされることもなくなった。 私とA、そしてBとの交流は未だに無事に続いているし、神職さんたちも一時意識を失ったものの皆さんご無事であるらしい。 そして時たま荼枳尼天とオオクチノマカミの二柱は、私のもとを訪れるようになった。 特に何をするわけでもなく、あの恐ろしい空気を醸し出すこともなく今日も平和に飼い猫たちと遊んでいる。 私はと言えばその時には空気が変わるので水と塩、酒を供えてあとは放置だ。 この事件の後は仕事を退職したりなんだりとはあったものの、概ね平和に過ごしている。 それと、この話は本件の主な関係者には執筆及び掲載の許可は取ってある。 しかし詳細については特定できないように省いているのもあるし書き換えているものもある。 私から見た視点からのみのものだけで、AとBからの視点だともっと違うものに見えていただろう。 似ているからと言って必ずしもこの一件と言うわけでもないので、ご注意いただきたい。
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