【怖い話】たんてい
【パンタポルタ、夏のホラー企画】
今回は、大澤めぐみさんからの投稿をご紹介!
女子高生のパジャマパーティーで起こった、不思議なできごととは……。
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夏であり、女子高生である。女子高生の夏といえばパジャマパーティー。パジャマパーティーといえば女子高生。あ、夏どっかいっちゃった。まあなんにせよ夏であり女子高生であるからしてパジャマパーティーなのだ。パジャマパーティーそれすなわち女子高生の特権。特権的女子高生たるわたしとえっちゃんとずんずんとごっさんの四人で今夜はえっちゃん邸でパジャマパーティーである。やあどうも、あいこさんです。こんばんは。
百坪はあろうかという広大なえっちゃん邸にはちゃんとお泊りを想定した客間があって、8畳のバシっと四角い和室にみんなでおふとん並べて眠れるからパジャーマパーリーにはうってつけなのである。うーんブルジョワジー。お布団は三組しかないからじゃんけんして誰かと誰かは一緒に寝てねっていうのは絶対大嘘でえっちゃんの策略であろう。ここまでバッチリ用意が揃っていてあと一組お布団がないわけがないのだけど、そこはそれ。そういうイベントごとも込みでパージャマパールィーなのである。どうだブヒれるだろう。
パジャマジャパーティーって言ってもなにするのかといえば、まあだいたい情報通なえっちゃんの誰それがあーしたこーしたどーたらこーたらっていう話があって、みんなでわーきゃー言う感じなんだけど。ん?やーねーゴシップとワイドショーが大好きなおばちゃん根性じゃありませんってば断じて。 花も恥らう女子高生が四人でパジャマパーティーですよ?そこはまあホレ、いやーん、あはーんな感じで、あまり仔細は語らず百合豚の諸兄たちに自由に想像の翼を拡げてもらうのがよかろうかと思う。
「けいどろだった?どろけいだった?」
「うちどろけい」
「たんてい」
「それ別の遊びじゃなくて?」
「うん同じ。たんてい」
お風呂あがり、なんとなく昔の遊びの話とかしてたら、ずんずんが立位体前屈のポーズでそんな話をしはじめた。
「チーム分けはね、みんなで右脚を出して円陣組んで、親の人から時計まわりに指さしていくんよ」と、スラッと右脚を前に出してなんかセクシーなポーズ。こういう風に円陣を組みんだよっていう実演らしいけど、うーん短パンキャミの女子高生のおみ足……。眼福眼福。
「いろはにほへとちり、ぬすっと。るをわかよ、たんてい、ってやって、ぬの人がぬすっとチーム、たの人がたんていチームになるの。あとはけいどろとほとんど同じ」
「でもそれランダム要素は別にないよね。要はスタート位置から10巡目の子がぬすっとでしょ。やる前から誰がぬすっとかは判明してない?」
「まあ子供だしね。意外とやってみるまで分かんないもんよ」
「細部は色々ローカルルールがあったよね。うち、背中三回叩かないと捕まえられないとかもあった」
「だるまさんがころんだだった?坊さんが屁をこいたって知らない?」
と、ここで急にごっさんがまた話を明後日のほうに飛ばす。
「そりゃ坊さんだって屁ぐらいこくでしょうよ」
えっちゃんはえっちゃんでなんか噛み合ってないし。うん、なんか会話になってんのかなってないのか。まあ、だいたいいつもこんな感じ。どうです?女子高生っぽいですよね、華やかで。そうでもない?
「なんかあの手の遊びのキャッチフレーズ意味分からないの多いよね」
「ゴッドブレッシューみたいなもんじゃないの」
「赤帽のトラックを見かけたら赤帽って言って近くの子を叩いてもいいってルールあった」
「叩いたからなんだって言うんですかね」
「叩かれないためには先に赤帽って言って叩く側に回るしかないの。争いを避ける手段は用意されていないのよ。奪われたくなければ奪うしかない。世界は残酷ね」
わりと子供の遊びって容赦も救いもないの多いよね。
「意味わかんない遊びっていうかさ、山荘の話しらない?四人でやるやつ」
と、またごっさんがころころ話変える。 話をどんどん振るくせに、話じたいには興味がないのだ。これも乙女心ってやつ?
「なにそれ」
「雪山の山荘に閉じ込められた四人が寝たら死んじゃうから寝ないために、明かりもない真っ暗な四角い部屋で四隅に立って、 次の隅まで歩いていってタッチ。タッチされたらその人が次の隅まで歩いていってタッチって繰り返して、それで夜が明けるまで凌ぐの」
「なにが面白いのそれ。絶対飽きるでしょ朝まで持たないよ」
「アルプス一万尺を完璧に最後までキメようと思ったら朝まで余裕でかかるよね。真っ暗ならさらに難易度アップで燃える気がする」
「あれなんで子山羊の上で踊ってんの?子山羊かわいそうじゃない?」
「山羊じゃないよ小槍だよ。山の尖ってるところを小槍っていうの」
「あ~なるほど。へ~、そっか~小槍か~。長年の謎がようやく解けたよ~。で、なんでそんな山の尖ったところで踊ろうとしてるの?危なくない?」
って、また好き勝手に話を明後日の方向に飛ばしていたら、背中を伸ばすのにムスリムのお祈りみたいなポーズをしていたずんずんが顔を起こして「その話のポイントは」と言う。えっと、どの話?ていうかそれ、いわゆる女豹のポーズになっちゃってますね。やーん、セクシー!じゃなくて、山荘の話。
「ポイントは四人じゃ最後の四人目が角まで歩いた時点でそこには誰もいないから続かないはずなのに、朝までぐるぐる続いちゃったっていうところだから、それ以外のディティールの部分にはあまり気をつかってないんよたぶん。そうでなくても大の大人が四人も集まれば四人じゃ続かないってことにやる前から気付くじゃんね」
「ああなるほど、そういう話なのか。怪談ね」
「あー理解した。ひとり増えてるのね。なにそれ怖いじゃん」
どうやら、ずんずん以外は全員その話の要旨を理解できていなかったらしい。うちの高校わりと偏差値高いはずなんだけど大丈夫かコレ。
「へー、やってみようよ。せっかく四人いるし。部屋四角いし 」
とえっちゃんがはしゃいだ声をあげる。いや、えっちゃんは絶対ただたんに部屋を暗くしたいだけでしょ。とは言え、別になにかやることとか目的があって集まってるんでもなく、単にダラダラなんかやることないかなーって集まってるだけなので 、ゆる~い軽~い女子高生のパジャマパーティーなので、んじゃあやることできたしやってみようか、みたいなしゃーなしの軽~いノリで消灯!わーいまっくら!
「全員位置についたかーい?」
とごっさんが声を掛ける。仕切り屋である。若干、わたしとキャラが被っている。由々しき事態だ。
「はーい」「おっけーよー」「んじゃごっさんからスタートねー」
って感じでなんとなくスタート。あれ、これごっさんからスタートだったらわたしがアンカーになっちゃうじゃん。やぁだ、どきどき。
真っ暗だけどやっぱ人の気配っていうのはあるもので、ごっさんがえっちゃんのところまで移動しているのがなんとなく分かる。別に示し合わせたわけでもないけれど、みんな黙って息を殺してる。次はえっちゃんがずんずんのところまで。そんで、ずんずんがわたしに近付いてくる。
「あふん」
いや、たぶんずんずんはわたしの肩を叩こうとしたんだろうけど、そこわき腹だから。変な声出ちゃった。
あーはいはい、これでわたしがスタート位置まで行って誰も居なかったら終了ねーって感じで、わたしはとことこと反対の角まで歩いていって、前に伸ばした手がポンっと誰かの肩に触れた。ん?
「ん?」
「え?」
って、息を殺してたみんなもなんかあれ? ってなる。
スタート位置から、今ごっさんが居るはずの角に向かって誰かが歩く気配がする。
「え? 嘘? なになに誰? ちょっと冗談やめてよわたしこういうのほんとに駄目なんだから!!」
「えっちゃんでしょ?」
「いや、わたしこっちに居るけど?」
「え? じゃあ、なに? ずんずん??」
「ちゃうよ」
「わー。ストップストーップ!!」
って、えっちゃんが大声を出しつつバンバンバン! って電気の紐を引っ張って部屋の明かりを付けた。うわ、まぶしー。
「点呼!!」
ってずんずんが叫ぶ。えーっと点呼点呼と。わたしは順に全員の名前を呼ぶ。
「えっちゃんこと雲林寺エリカ!」
「はーい」
「ずんずんこと望月淳子!」
「はいはーい」
「ごっさんこと剛津美香!」
「ういっす」
「アニーちゃんことアナスタシア・スペースウォーカー!」
「はいなー」
「そしてわたし、あいこさん! 以上五名! 各員異常なし! 点呼終わり!!」
うん、別になにもおかしいところはないけど。
「あれー、じゃあなんで続いちゃったわけ? 誰も動いてないんだよね?」
「動いてないよー」
「いや、山荘の遊びは四人だから続かないんであってさ。五人居れば続いちゃうに決まってるんよ」
って、ずんずんが呆れたように言う。
「あーなるほど」
「なんでやる前に気付かないのよ……」
「後からはどうとでも言えるんよ。ぼやーっとしてると気が付かないもんなんね。山荘の話も意外とリアリティがあったってことなんじゃない?」
うちの高校わりと偏差値高いはずなんだけど、ほんとに大丈夫なのかコレ。
「あー、もうびっくりして損したー。なんか疲れたわー、そろそろ寝るかね」
「お布団三組しかないからぐーちょきぱーでチーム分けね」
「ぐーちょきぱーでじゃんけんポイ」
えっちゃんとごっさんがぱー。ずんずんがちょき。わたしとアニーちゃんがぐーだった。
「うえっへっへ。さーアニーちゃん一緒におねんねしましょうねー」
「え、なにその手。すっごいわしわししてる。やめてよね」
なんて言いながら就寝の体勢。うーん、抱きつこうとするとアニーちゃんの角が顔に当たってこれは、うん冷たくて気持ちいいナリィ。ぐーすかぴー。