ファンタジー小説やTRPG、MMOでもよく目にする「ギルド」。冒険者に依頼を斡旋してくれる組織として、あるいは気の合う仲間達、戦士達が集うグループの名称として、出てくることが多いでしょう。
ファンタジーの世界の中では必要不可欠とも言えるギルドですが、実はファンタジー作家達の手によって創作されたものではなく、中世ヨーロッパの時代に実際に存在した、商人と職人が集う組織でした。
『図解 中世の生活』(池上正太 著)では、中世ヨーロッパの衣食住から、ファンタジーには欠かせない職業の騎士や司祭の生活まで、図を用いて分かりやすく説明をしています。今回は、その中から、中世ヨーロッパのギルドがどのような組織だったのかをご紹介します。
目次
ギルドとは? 自らの生活を守るために生まれた組織
中世ヨーロッパのギルド、またはツンフトと呼ばれる同業者組合は、新興都市内部で増大する商人や職人たちが、自分たちの生活保護や作業の安定化のために相互協力を行うための組織でした。ギルドは、就業時間、扱う商品の売却数、商品の品質維持、販売価格の取り決めなど、ギルドの間で互いに不利益が出ないように定めることができました。ただし、勝手に商品の値段を吊り上げたり、商品供給を怠ったりしないように、常に市当局の監視を受けていました。また、兵士としての活動や、ギルドごとに決められた都市への義務もありました。 関連した業者が 団結して組合を作り、ルールを定めるところは、 意思を確かめ合ったり、一緒に冒険に出たりするファンタジー世界でのギルドと通じる部分がありますね。
職人は、加入金や市民権など、必要なものを揃えて入会を希望します。ギルド側は、彼らに問題がなければ仲間に 加えます。加入することができた職人は、親方衆の下で不安定な雇用期間の問題や職人遍歴制度等ありながらも、保証された賃金や労働内容の中で生活をすることができるようになりました。
後の「職人の暮らし」で詳しく紹介しますが、ギルドに加入したからと言って、すぐに安定した職人としての生活を送ることは難しかったようです。
乞食は職業だった! 中世ヨーロッパの貧民の暮らしとは
医者と肉屋は同じギルド⁉ 当時のギルドをご紹介
ギルドの職人は1つの業種内で分業しない代わりに、関連する業種間でゆるやかにまとまった集団を形成して、より大きなギルド集団として活動していた。たとえば建築業者であれば、石工、左官、大工、屋根職人、レンガ職人などが協力している。 『図解 中世の生活』p.146中世ヨーロッパのギルドは、関連した業種が集まったギルドもあれば、ひとつ の業種が分割され、分業化されていくものもありました。皮革加工業者である馬具職人は、革紐製造業、手綱製造業など20ほどの専門職人に細分化しています。
また、ひとつのギルドに所属する職人の種類が一定とも限りません。 13世紀のプラハの画家・看板描きのギルドには、ガラス職人、金細工師、羊皮紙工、製本工、木彫師と芸術家が参加していたギルドや、生き物に対して刃物を振るうという理由から、床屋と医者は肉屋と同じギルドとして扱おうとする極端な例もありました。
また、ギルドにも地位があり、それはギルドが扱う商品によって決まっていました。
高額商品、嗜好品や必需品ほど地位は高く、肉屋、魚屋、パン屋などの一部の食品業者を除く低額なもの、なくても困らないものほど地位は低く、卑しいものと見なされました。 たとえば、金属加工業者の場合、金細工師は、神のごとき職人と言われ、裕福な生活を送っていましたが、鋳造職人やブリキ職人は貧しい生活を送っていました。
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ギルド職人の暮らし かわいい子には旅をさせよ?
ギルドに所属する職人たちは、親方の住居に住み込み1階にある作業場で忙しい日々を送っていた。 『図解 中世の生活』p.148職人としての第一歩は、従弟として親方につくことから始まります。ギルド内の身分は、親方―職人―徒弟の順となっており、徒弟の最初は、親方の奥方から家庭の雑事や子守などを任され、仕事は時間があるときに自発的に学ばねばなりませんでした。基本的に給金は安いものでしたが、代わりに教育を受けさせてくれる親方もいました。業種によって異なりますが、3年から5年ほどの徒弟期間が終わると、いよいよ職人として働くことができました。
職人は、賃金を保証されていましたが、雇用期間が週雇いや日雇いなど不安定なものでした。 また、職人の義務として行わなければならないひとつに、職人遍歴制度というものがあります。
同業者組合において若い職人は親方になる前に数年間、諸国を遍歴して新たな技術を習得し、人格形成することを義務化されていました。これが職人遍歴制度です。
しかし、この制度は、技術の向上や人格形成はあくまでも名目上の目的であって、ギルド側の実利的な面も絡んでいました。本書では、こう書かれています。
組合の親方株の定員制である。15世紀に入ると都市経済の発展は頭打ちになり、親方を無制限に増やせば商売が立ち行かなくなる状態となっていた。商売を続ける限り、若い職人は次々と生まれていく。しかし、親方になれず、使い潰されるだけではやがて不安を抱えて騒乱の元となってしまう。そんな彼らを体よく追い出し、職人の数を調整する手段が職人遍歴制度だったのである。『図解 中世の生活』p.150低賃金で使われていた職人たちが、義務とはいえ諸国を旅するのは困難なことでした。そこで彼らが頼ったのが、兄弟団と呼ばれる同種の職人が集まった一種の労働組合でした。 旅をする職人たちは、目的の街に着くと、兄弟団が管理する酒場へと向かいます。そこで身分証明の挨拶を行い、仲間と認めて貰えれば仕事先を紹介して貰えました。
仕事が得られない場合は、一夜の宿と路銀を得て新しい街へと旅立っていきました。
ギルドの起源は諸説ありますが、職人集団の相互援助組織である兄弟団こそが起源とする説もあります。
ファンタジー世界でのギルドが酒場にあることが多いことや、仕事を斡旋して貰える場所として設定されていることが多いのは、兄弟団からインスパイアされた部分もあるのではないでしょうか。
現在のギルドは、ロンドン・シティ・ギルド教会というイギリスの職業教育機関として、職業資格の認証を行っています。
そして、あなたが本を読む、またはゲームのコントローラーを持ち、アルコールの匂いと煙草の匂いでむせ返る酒場の扉を開き、熟練の冒険者や新米の戦士達をかき分けて辿り着いた先で、冒険の世界へと導いてくれるその場所が、今の「ギルド」でもあります。
本書で紹介している明日使える知識
- 中世時代の解説
- 中世の職業
- 中世の暮らし
- 中世の制度
- 中世の組織
- etc...
ライターからひとこと
仲間同士で団結して知恵を絞り合い、生活していくことが大切なのはいつの時代でもかわりません。それはファンタジーの世界でも勿論そうだと思います。仲間との冒険を小説として書く時、オンラインゲームで強大な敵に仲間と立ち向かっていく時、他にも仲間と共に協力することは、楽しさで満ち溢れているはずです。本書では、中世ヨーロッパ時代の人々が疫病などの困難に見舞われながらも激動の時代に立ち向かう様子が分かりやすく書かれています。ファンタジー創作に活用できるのは勿論のこと、当時の生活の知恵も学ぶことができますよ。