【2017 ホラー企画】
パンタポルタは、再びMさん(仮名)のところへ赴き、さらなる恐怖体験を聞くことができた。
ホラー企画として、Mさんの体験した恐怖体験の一部始終をお届けしよう。
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「昨日、〇〇にいたよね?」
「ううん。行ってないよ」
中学生になってから、誰かに間違われることが増えました。
といっても年に3回あるかないかでしたが、その誰かは私によほど似ていたようです。
行った覚えがないと説明するのですが、信じてもらえないこともありました。
最初は中学1年生の頃。目撃者はクラスメイトでした。
「〇〇駅前のスーパーで、昨日買い物してたよね?」
〇〇駅は、当時の私の家の最寄り駅でした。
でも、その日は一日中家にいて、外出した覚えがなかったのです。
「行ってないよ」
「嘘だ。だって同じカバン持ってたよ」
その人は、私がよく使っていたものと同じグレーのバッグを手にしていたそうです。
それからというもの、友人や知り合いから同じような人違いをされることが増えました。
「昨日、図書館にいたよね?」
「前週末、〇〇百貨店にいた?」
「さっき、駅にいなかった?」
私によく似た誰かがいるんだ。
そう思って、あまり気にしていませんでした。
それに、その人は私にそっくりのようでしたが、どこか暗い顔をしているそうで、話しかけたという人はまだいなかったのです。
そんなある日、私は最寄りの隣の駅で、見知らぬお婆さんに呼び止められました。
「Y田さんちのミズホちゃんよね?」
「えっ? 違います」
私の名前とは、完全にかけ離れた名前でした。
しかし、お婆さんは私の顔をまじまじと見て、
「本当に違うの?」
と、不思議そうにしているのです。
何度も人違いだと伝えて解放されましたが、お婆さんは最後まで納得していないようでした。
Y田ミズホ
私は初めて、少し怖くなりました。
うまく言えませんが、それまで架空の人物のように感じていた『そっくりさん』が実在したことや、至近距離でも見分けがつかないほど似ている人間がいるということに、漠然とした恐怖を感じたのだと思います。
その後も、Y田ミズホは私の周辺でよく目撃されていました。私が高校を卒業し、仕事の都合で大阪市内のK駅に引っ越してからも、私たちは間違え続けられたのです。
20歳を過ぎる頃には、目撃者の友人知人に「それはミズホちゃんだよ!」と話すほどで、むしろ親近感すら感じていました。
それに、私の両親は離婚していて、父方の親戚とは没交渉。それぞれの苗字や名前もうろ覚えだったので、もしかしたらY田ミズホは親戚なんじゃないか……とも考えていました。
さらにT駅へ引っ越しをした21歳の秋、私とY田ミズホに転機が訪れました。
最寄り駅が同じだった男友達が、向かいのホームに立っている彼女を私だと思い、その場で電話をかけてきたのです。
「もしもし」
「もしもし。あれ? お前、今どこ?」
「家だよ?」
「駅にいない? いや……あれ?」
彼は、明らかに混乱していました。
私と電話しているのに、ホームにいる私は電話を持ってもいないのですから。
「それはミズホちゃんだよ」
私は、彼にY田ミズホのことを話しました。
中学生の頃からよく間違われること、名前はY田ミズホであること、親戚かもしれないこと。
話しているうちにホームの彼女は電車に乗り、彼の前から消えてしまったそうです。
さらに3ヶ月後。
例の男友達と会った私は、彼がまたY田ミズホと遭遇していたことを知りました。
「駅前で向こうから歩いてきてさ、お前だと思って声かけたんだよ。そしたら、『誰?』って早足で逃げられたんだけど」
私と同じ色の茶髪、私と同系統のファッション、私とほぼ同じ体格、私と全く見分けがつかない顔とメイク。
少しだけ声が高かった気がするけど、同一人物にしか思えない。
彼はそう話しました。
「ミズホちゃん、そんなに何もかも似てるんだー」
不思議だなぁ、と笑う私。
しかし、彼が真剣な顔で言った言葉に、私は凍りつきました。
「中学生から今までって、お前、何回引っ越ししてんの? そいつ、ずっとお前についてきてるじゃん」
不思議なことに、それ以降Y田ミズホと私を間違える人は現れませんでした。