ヴァイキングが北欧から東西ヨーロッパへと南下していった様子について、前編では「グレート・ブリテン&アイルランド島ルート」と「ヨーロッパルート」をご紹介してきました。
この後編では引き続き『海賊』(森村宗冬 著)を参考に、「ロシアルート」と「大西洋横断ルート」についてみていきましょう。
目次
ヴァイキングの南下ルート④ロシアから黒海へ
ロシア方面に進出したのはスウェード人ヴァイキングたちでした。彼らはバルト海から河川をさかのぼり、交易や掠奪を行って毛皮や奴隷などを手に入れていました。どこまで事実かははっきりしませんが、こんな伝説があります。スウェード人ヴァイキングの中でルーシと呼ばれる一派が、ロシアに住んでいた東スラヴ人から自分たちの国王になってほしいと要請されたため、826年にリューリクという人物が現地に赴きノヴゴロド王国を建国したというのです。この伝説に登場するルーシという一派の名前が現在のロシアの語源とされています。
リューリクの死後には、彼の息子イーゴリを奉じたオレーグという人物がドニエプル川を南下し、都市国家キエフを占領してキエフ大公国を建国したといわれています。 オレーグやその後継者たちはドニエプル川をさらに南下して黒海にまで到達し、ビザンティン帝国(東ローマ帝国)と戦ったり交易を行うなどしました。
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ヴァイキングの大航海①アイスランド到達
今度は視線を西に転じて、ヴァイキングが大西洋を横断した様子についてご紹介しましょう。スカンジナビア半島から西に進んだ北大西洋に、アイスランドという島があります。出土品などから、古くからヨーロッパ人に知られていたと推測されますが、ほとんど無人島に近い状態が長く続いていました。
そんなアイスランドを最初に探検したのは、ノール人のフロキ・ヴィルゲルザルソンです。9世紀後半、彼は西方に島があるという噂を耳にすると航海に旅立ち、アイスランドを発見しました。
アイスランドに最初に移住したのは、同じノール人のインゴールフル・アルナルソンとその一族です。870年頃、当時ノルウェーを治めていたハラルド1世”美髪王”の支配に反抗し、ノルウェーからアイスランドへ渡ったといわれています。
無人島に近く権力者も不在だったアイスランドは、難なくノール人ヴァイキングによって植民されました。930年頃には現在の首都レイキャビクから約50km東にあるシングヴェリルという平原地帯で、アルシングが開かれます。
アルシングとは国民議会のようなもので、年に1回6月に開催され、島全体の掟の決定や変更を取り決める場でした。当時は宴会やスポーツなども同時に行われたとされています。その後、一時機能停止した時期もありましたが、現在でもアイスランド共和国の議会のことをアルシングと呼んでいます。
ヴァイキングの大航海②グリーンランドへの植民
アイスランドからさらに西に進んだ場所に、グリーンランドという世界最大の島があります。この島に最初に到達したヴァイキングが赤毛のエリクです。エリクはノルウェーからアイスランドに移住しましたが、殺人の罪でアイスランドを追放され、西へ向かって出帆。グリーンランドにたどり着きました。そこで彼はアイスランドに戻って人々にグリーンランドへの移住を勧め、986年頃にグリーンランドにヴァイキングの植民地が誕生します。
グリーンランド南部に「東植民地」と「西植民地」のふたつが設けられ、農業や牧畜、狩猟、交易が盛んに行われました。当時はセイウチの牙などが特産品としてヨーロッパに輸出されていました。1000年頃にはキリスト教が伝えられ、1262年からはノルウェー王国の支配を受けます。
しかし15世紀初頭になると気候が悪化し、植民地は衰退を始めます。さらに、グリーンランド北部に暮らしていた先住民族のイヌイットが気候悪化の影響を受け南下し、ヴァイキングと出会います。両者は一時共存しましたが、最終的には植民地はイヌイットの襲撃に遭い、壊滅してしまいました。 現在では、グリーンランドはデンマーク王国の領土となっています。
ヴァイキングの大航海③北アメリカ大陸到達へ
ヴァイキングはグリーンランドからさらに西へと航海し、ついに北アメリカ大陸へと到達しています。最初に北アメリカ大陸を発見したヴァイキングはビャルニというノール人です。986年、彼はアイスランドからグリーンランドへと航海する途中で漂流し、北アメリカ大陸を目にします。しかし上陸はせず、そのままグリーンランドへと帰りました。
実際に北アメリカ大陸に到達したのは、赤毛のエリクの息子レイフ・エリクスソンです。1000年頃、エリクスソンは現在のカナダ東南地方・ラブラドル海岸あたりに上陸すると、南へ足を進め、同じくカナダのノヴァ・スコシア半島に到達します。これ以降、グリーンランドのヴァイキングたちは北アメリカへの植民に向け、度々海を渡りました。
発掘の成果などから、ラブラドル半島に「マルクランド」、少し南にあるニューファンドランド島北端のケープ・ボールドに「ヴィンランド」という植民地が築かれたことがわかっています。しかしこうした植民地は先住民族(ネイティブ・アメリカン)との抗争によって短期間で放棄されました。
1492年にクリストファー・コロンブスがサン・サルバドル島へ到達したことはよく知られていますが、実はその約500年前には、すでにヴァイキングが新大陸に到達していたのです。
前編・後編の2回にわたりヴァイキングの足跡をたどってきました。 ヴァイキングの南下は時に激しい掠奪行為も伴うなど、ヨーロッパ諸国に恐れられましたが、俯瞰してみれば世界史の流れを大きく変えた「民族大移動」でした。彼らの建設した交易都市が今も残るなど、その影響は計り知れません。
本書で紹介している明日使える知識
- ジョン・ポール・ジョーンズ
- ハイルッデン・バルバロッサ
- ウィリアム・キッド
- 村上武吉
- etc...
ライターからひとこと
ヴァイキングがノルウェーからアイスランド、グリーンランド、北アメリカ大陸へと西進していく様子は、大航海時代の冒険者たちが未知の海に漕ぎ出していく様子にも似ていてロマンを感じます。ノルウェー、アイスランドやグリーンランドなど、一度は訪れてみたいけれどちょっと遠すぎる……という方もいらっしゃると思います。そんな方も本書を読めば壮大な旅行気分を味わえますよ。