サファイアは青い宝石として、日本人にもよく知られたパワーストーンのひとつだと思います。海外でも同様で、古くは『旧約聖書』にも登場しているほど歴史があり、その伝説や伝承は現在でも広く親しまれています。特に大空の青は、サファイアの青そのものとされていたほど 、神聖なものと考えられていたのです。 『パワーストーン』(草野巧 著)では、ガーネットやラピスラズリなど、様々な宝石にまつわるエピソードを紹介しています。今回はその中でも、青いパワーストーン「サファイア」についてお話します。
目次
サファイアの石版に記された「ラジエルの書」
『旧約聖書』には、大天使ラジエルがこの世のすべての知識をまとめた書物の存在が記されています。この書物が「ラジエルの書」 です。これには天使を呼び出す方法やさまざまな魔法のほか、天使たち自身も知らない秘密さえ含まれていた。 『パワーストーン』p.68ラジエルは、この書物を人間に与えようと考えていました。しかし「ラジエルの書」には秘密の知識が書いてあるため、多くの天使たちの羨望の 対象でもあったのです。人類の祖であるアダムが「ラジエルの書」を授かったものの、天使たちがこの書を奪い、海へと投げ捨ててしまいました。 これを見た神は、海の悪魔ラハブに命じ「ラジエルの書」を探し出し人類に返却するように命じました。こうして「ラジエルの書」は再びアダム、そして彼の子孫へと伝えられます。ノアの箱舟やソロモン王の魔法なども、「ラジエルの書」を読んだおかげだと言われています。
この「ラジエルの書」ですが、ある伝説では、サファイアの石版に記されたと語られています。「ラジエルの書」以外にも、『旧約聖書』の「出エジプト記」のなかで神がモーセに授けた二枚の石版、「十戒の石版」もサファイアでできていたという伝承があります。 サファイアは、古くから神が人間に知識を与える時に使われる、神聖な石と考えられていたのですね。
幻の中に登場する、サファイアで作られた神の王座
「ラジエルの書」、「十戒の石版」の伝承だけでなく、『旧約聖書』の中にサファイアが登場しています。サファイアの王座です。 このサファイアの王座が登場するのは、「エゼキエル書」です。この「エゼキエル書」では、預言者エゼキエルが神の言葉を聞いています。この神の言葉を聞く場面にて、サファイアの王座が出てくるのです。「生き物の頭上にある大空の上に、サファイアのように見える王座の形をしたものがあり、王座のようなものの上には高く人間のように見える姿をしたものがあった。」(第一章二十六節) 『パワーストーン』p.73エゼキエルがこの種の幻を見たのは、1度だけではありません。他にもサファイアの王座が登場する幻を見ています。
ある幻では、神の座るサファイアの王座の下に四つの車輪があり、それぞれの車輪のそばに一人ずつ智天使ケルビムが立っていたという。そして、ケルビムの動きに合わせて車輪も動き、サファイアの王座も移動するのである。 『パワーストーン』p.73この他にも、『旧約聖書』にはサファイアの敷石が出てきます。神にとって、サファイアは身近な道具の材料ともなる石であったと言えるでしょう。
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高潔な生活を約束する、サファイアのベッド
サファイアは神に親しまれた石であるだけではなく、魔力を持っていたとも考えられています。その魔力のひとつが色欲の抑制です。この魔力を象徴するエピソードが、キリスト教の司祭であり、理想の君主でもある、プレスター・ジョンの伝説の中にあります。この伝説の中では聖職者であっても妻帯することが普通でした。当然プレスター・ジョンにも妻がおり、ベッドをともにしています。しかしこの夜の生活は、性的な快楽を追求するためではありません。純粋に子供をもうけるためのものだとされています。回数も1年で、たったの4回だけでした。
こうしてプレスター・ジョンは、聖人らしい生活を実現させました。この裏には、秘密兵器があります。それは、サファイアでできたベッドです。このベッドには、みだらな欲望を遠ざけ、安らかな眠りを保証する力があったのです。
この魔力は、必ずしも伝説の中だけで語られていたわけではありません。12世紀ごろからは、中世ヨーロッパの教会で、司教叙任の際に称号とともにサファイアの指輪を授与する習慣が生まれました。 こうしてサファイアは、真実、純潔、貞節、静穏の象徴とも考えられるようになったのです。
サファイアで愛人たちの貞節調査?
サファイアには、みだらな欲望を抑える力がある他に、愛人が貞節であるかどうかを調べる力もあると信じられていました。プレスター・ジョンのように、高潔な生活を努めていれば、サファイアを身に付けていても石は綺麗な青色を保ちます。しかし、欲望に身を任せた日々を過ごしていれば、みだらな欲望を抑えようとするサファイアの魔力が尽き、石の色も濁ってしまうと考えられていたのです。この浮気調査のサファイアの例として、ロンドンのケンジントン博物館にある“不思議なサファイア” が挙げられます。“不思議なサファイア”の使い方は、現在でも伝えられています。
その使用方法によると、浮気をしない高潔な女性の場合は、昼間の3時間だけサファイアを身に付けさせ色の変化を調べればよいとされています。逆に怪しい女性の場合には、朝から夜まで身に付けさせ、夕方の色の変化に気をつけなければなりません。
サファイアは純潔を証明するアイテムとして、聖職者だけではなく、一般にまで広く親しまれていたわけです。
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本書で紹介している明日使える知識
- アゲート(瑪瑙)「イエスのさきがけとなったヨハネの象徴石」
- アンモナイト(菊石)「ヴィシュヌ神の化身とされるシャーリグラーマ」
- ガーネット(石榴石)「豊穣と復活をもたらす母性の石」
- カーネリアン(紅玉髄)「死者を守護して冥界の門を開く石」
- ラピスラズリ(瑠璃/青金石)「夜空の星々を凝縮した神秘の霊石」
- etc...