ドルイドといえば、ファンタジー系ゲームに登場する職業のひとつとしてご存じの方も多いのではないでしょうか。森の神官、動植物や自然現象の扱いに長けた僧侶、自然を崇拝する隠者などといったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
『魔術師の饗宴』(山北 篤・怪兵隊 著)は、呪術、占星術、カバラ、ルーンなど、魔術に関連する事象についてわかりやすく説明している入門書です。今回はその中から、ドルイドについてご紹介します。
目次
そもそもドルイドとはどんな職業?
ドルイドは、見者または識者であるという意味の daru-vid からこう呼ばれるといわれます。また、「樫の木の智者」という意味だともいわれます。 『魔術師の饗宴』p.36ドルイドはファンタジー世界の架空の職業ではなく、ケルト民族に実在した神官です。
ケルト民族とは、かつてヨーロッパの一部に住んでいた、ケルト語を話す人々の総称です。彼らの社会は王や首領を中心に、戦士階級や工匠階級、自由平民、奴隷階級などから構成されていました。ドルイドはこのうちの工匠階級に属し、宗教や立法を司っていました。
ドルイドになるには、長く厳しい修業を終えなければなりません。ケルトには、民族の歴史や宗教の教義などを、書物ではなく口伝えで伝承していくという文化がありました。そのためすべてを自分で覚えなければならず、20年もの長い期間教育を受ける者もいたといいます。 その代わり、ドルイドは税金や兵役を免除されたり、国境を自由に越えられるなどの特権を与えられていました。
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神官・占い師・裁判官……ドルイドの仕事は多種多様
それではドルイドの仕事には、具体的にどのようなものがあったのでしょう。ドルイドは、神官であるとともに、占い師にして、政治家。魔術師にして、裁判官です。また、ディオドロスにいわせると哲学者でもありました。 『魔術師の饗宴』p.37ドルイドの仕事は実に多岐にわたっていました。主な仕事としては、神々の祭司として生贄を捧げたり、戦いの結果を占うこと、神託や予言、裁判で人々を仲裁すること、豊穣の儀式を行うこと、青年への教育、年に1度開催されるドルイドの大会議への参加などが挙げられます。
生贄と聞いて驚かれた方もいるかもしれません。ケルトには生贄の文化がありました。その様子について、本書ではローマ人の残した文章を挙げながら次のように紹介しています。
ローマのディオドロスはこう記しています。「重大な事件の説明を求める時、まことに驚くべき、信じられないようなことをする習慣がある。そういう場合、彼らは人間を死神に捧げる。犠牲者の胃の上あたりに短刀を突き刺し、死の痙攣と血のほとばしり方から、きたるべき出来事を推論するのである」と。つまり、尋問をするのに拷問をする必要などなかったのです。単にその者を、正しい手順で殺せば、その血が自ずから真相を告げたのです。 『魔術師の饗宴』p.36このようにドルイドの仕事は非常に多かったため、やがて仕事を分担するようになりました。 ウァテスは占いや天文学などを扱う専門家で、下位のドルイドだと定義する人もいます。
詩人は最下層のドルイドともされ、部族や王の歴史を語り継いだり、呪歌などの詩を唱えることが役割でした。彼らは 、フィラ、バードなどと呼ばれます。
杖と薬草~ドルイドが用いた魔力の源
ドルイドは魔術師として、いくつもの魔法の道具や魔力の源となるものを操っていました。その中から本書を参考に、2つのものをご紹介しましょう。ひとつめは杖です。 ドルイドという言葉が「樫の木の智者」という意味だとも言われているように、樫の木はドルイドにとって大切な存在でした。中でも樫の木に生えたやどり木は大きな魔力を秘めていると考えられていました。
ドルイドは、毎月の六日、白い衣裳を身につけ、樫の木に登り、「黄金の鎌」で、やどり木の枝を切り取り、白い布の上に置いて二頭の雄牛を生贄に儀式を行ったそうです。この儀式によって、やどり木の魔力を、人間が使えるようにしたのです。 『魔術師の饗宴』p.40こうして作られた杖は不思議な力を持っていました。そのひとつが変身能力で、念を込めて杖を振ると、人間を他の生き物の姿に変えることができたといいます。
魔法の薬草もドルイドの使う魔力の源となったもので、その入手方法はそれぞれ厳格に定められています。
たとえば「サモルス」と呼ばれる草は、必ず左手で摘み、「セラゴ」と呼ばれる草は、右手を白衣の左袖に通して摘まなければいけません。この儀式を行わないと、薬草の薬効は失われてしまうのです。 『魔術師の饗宴』p.40このように、ドルイドは聖職者や裁判官、魔術師などを兼務するケルトのエリートでした。ローマ人などの残した書物には、裁判や生贄の儀式を行うドルイドの姿がいくつも残されています。またケルト神話には、さまざまな道具や魔術をたくみに操るドルイドの姿が描かれています。
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