フィアナ騎士団といえば、ゲームなどでもおなじみの存在として、ご存じの方も多いのではないでしょうか。ですが、名前は知っていてもその伝承まではご存じないという方もいらっしゃるかもしれません。
『図解 ケルト神話』(池上良太 著)では、ケルト神話にまつわるさまざまな人物やその持ち物、伝承などを幅広く解説しています。今回はその中から、フィアナ騎士団と団長のフィン・マックールにまつわる、栄光と挫折の物語をご紹介します。
目次
フィアナ騎士団とはどんな組織? その歴史とは
フィアナ騎士団は、ケルト神話の伝承のひとつである「フィン物語群」に登場する、中心的な存在です。彼らがどんな組織だったのか、そのあらましをご紹介しましょう。アイルランドの上王フェーラダッハの治世において1世紀ごろに組織されたとされ、外敵の排除や上王の守護を主な目的としていた。一説にはその勢力は150人の指揮官と4000人の兵士を持つほどであったとされる。 『図解 ケルト神話』p.134フィアナ騎士団は王家の権力からは独立した組織であり、国内を自由に移動できるという特権と、アイルランド中のどこでも独自に徴税を行える特権などを与えられていました。彼らは特定の領地や拠点を持たず、各地を旅しながら狩猟生活を送っていました。
騎士団の主な任務は、外敵の排除とアイルランド上王を守ることです。彼らは海賊と戦ったり、時には異界の神々や化け物と対峙することすらありました。
そんなフィアナ騎士団は世襲制をとっておらず、優秀であれば出自にとらわれず誰でも受け入れたため、多くの若者から憧れられていました。しかしその分、騎士団に所属するための条件はとても厳しいものでした。
まず12の詩書に通じ、詩作する能力が要求された。教養と知性が求められたのである。次に「深く掘った穴に半身を埋め、榛の棒と盾で9人の勇士が9つの畝の向こうから同時に投げる槍を防ぐ」、「全裸で髪を編み上げた状態で、1本の木の長さほど距離を開けて追いすがる完全武装の戦士から逃れる」といった戦士としての特性を試された。 『図解 ケルト神話』p.134騎士団の歴史についてもご紹介しましょう。 フィアナ騎士団内にはバスクナ氏族とモーナ氏族の2つの派閥があり、いわゆる宿敵同士として、団長の座をめぐり争いを繰り返していました。
フィン・マックールが団長となり騎士団が最盛期を迎えた頃には、一時和睦を結びますが、上王が代替わりすると状況は一変します。フィアナ騎士団は権力を増大させすぎているとして、新しい上王が騎士団を討つべく挙兵したのです。
その結果、フィアナ騎士団は上王派と、フィンを中心とする騎士団派とに分裂し、戦争が始まります。激しい戦いの末に両派は相打ちとなり、騎士団は自滅してしまいました。
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騎士団長フィン・マックールの波乱に満ちた生涯とは
フィアナ騎士団の団長として活躍し、騎士団を最盛期に導いた男がフィン・マックールです。彼の父クールもまた、騎士団長を務めていました。当時、騎士団はバスクナ氏族とモーナ氏族とに分かれ、派閥争いを繰り返していました。クールはバスクナの家柄出身でしたが、モーナ氏族によって殺され、騎士団長の座も彼らに奪われてしまいます。
クールが亡くなった時、彼の妻マーナはすでに子どもを身ごもっていました。子どもはディムナと名付けられ、山の隠れ家でこっそりと育てられます。
後に彼はフィン・マックールと呼ばれますが、「フィン」は彼の輝くような髪色に由来する愛称で、「マックール」はクールの息子という意味です。
やがて彼は出生の秘密を知らされ、騎士団長の座を得るための旅に出ます。旅の途中、フィンは賢者のフィンネガスのもとで修業を行いました。その際、魔法の力を持つ知恵の鮭を食べたことがきっかけで、彼は2つの大きな力を得ます。
この脂の染み込んだ親指を噛みしめることで得られる知識は、彼を多くの窮地から救った。さらにフィンの手で汲んだ水には癒しの力があり、飲ませればあらゆる傷を癒せたという。 『図解 ケルト神話』p.136
この後、彼は炎のアレインという怪物を倒した褒美として、モーナ氏族に奪われていた騎士団長の地位を取り戻すことができました。
団長となったフィンはアイルランド全土で活躍します。彼の性格は高潔で、多くの女性からも愛される人気者でした。
しかし、彼が厚い信頼を寄せていた騎士ディルムッドが、フィンと結婚するはずだった娘グラーニャと駆け落ちしたために、フィンはディルムッドを追い回し謀殺してしまいます。この一件によりフィンは騎士団からの人望を失ってしまいました。
フィンの最期には諸説あり、アイルランドの上王ケアブリとの戦いで壮絶な戦死を遂げたとも、人心を取り戻すために川を飛び越える儀式を行い溺死したとも、アイルランドの危機を救うべく眠っているだけともされる。 『図解 ケルト神話』p.136
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フィン・マックールの魔法の持ち物4選
フィン・マックールとフィアナ騎士団には、その持ち物にまつわるさまざまな伝承があります。その中から4つの持ち物をご紹介しましょう。ひとつめは、鶴革の袋(フィアナ騎士団の宝袋)です。
赤と青で染め上げられたこの袋には不思議な力があり、腰につるす程度の大きさにもかかわらず、様々な武器防具を中に収めることができた。一説によれば元々トゥアハ・デ・ダナンの海神マナナーンの持ち物とされ、鶴に姿を変えられた彼の恋人の革を用いたものともされる。 『図解 ケルト神話』p.2062つめは、フィン・マックールの愛剣マク・ア・ルーインです。この剣は彼が巨人国に赴き、海から来る巨人と戦った際に用いられました。
最後は魔法の槍ビルガと魔法のマントです。この2つの武器と道具は、フィンが炎のアレインという魔物を退治した時に使用されました。
炎のアレインは10月のサウィン祭のたびにタラの王宮を襲撃し、眠りの調べで人々を眠らせ王宮を焼き尽くしていました。フィンは魔法の槍と魔法のマントを使ってこれを撃退し、功績を認められてフィアナ騎士団長の座に就きました。
この槍は、戦いに臨むと蜂の羽音のような音を出す毒槍で、鞘を取り穂先を額に当てれば眠りの魔術から逃れることができた。フィンはこの際、縁取りのある緋色の魔法のマントも用いている。これはアレインの炎を防ぐことができるというものだった。 『図解 ケルト神話』p.206このように、フィン・マックールとフィアナ騎士団にまつわる伝承は、さまざまな人間ドラマと、魔法の道具、怪物、妖精といったファンタジー要素とに彩られた壮大な物語でした。こうしたフィン物語群の特徴が、後のアーサー王伝説につながったのではないかと考える説もあります。
本書で紹介している明日使える知識
- フィル・ボルグの英雄たち
- 赤枝騎士団
- オシーン
- トゥレンの3兄弟の贖い物
- ブランとスコローン
- etc...