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時は人類が宇宙開拓時代を迎えた未来の世界。『ストーリーの作り方』の著者が、未来に生きるSF作家の姿を借りて贈る、著者ならではのメイキング解説を練り込んだSFパロディー。いま、人類が宇宙進出に至った知られざる真実が明かされる。
わたしはSF作家
作者:野村カイリ
わたしはSF作家である。
書いた小説で報酬を得たことは、いまのところない。
だから、世間的にはSF作家志望ということになる。
あるいは自称SF作家。
おかしなことだと思う。作品が金になろうがなるまいが、作家は作家ではないか。
「職業はSF作家です」と言えば確かに嘘になる。小説で生計を立ててはいないのだから。だとしても、時間を工面しながら細々と書き、誰知るともなく発表しつづけていたとしても、作家は作家だ。
書いた小説が売れてほしいとは思う。少しは世間に名が売れてちやほやされるのもまんざらではないだろう。しかし創作行為=金銭を稼ぐ行為ではない。有名であるか無名であるかは作家であることとは関係がない。
などと、世間に主張したことはもちろんない。それどころかSFを書いていると誰かに話したこともない。内緒にする気はもうとうない。でも、事件か事故に巻き込まれた時に「自称SF作家の○○さんが……」と発表されてはいささか自尊心が傷つく。「(いい年をして)SF作家志望」と侮られるのもいやだ。ちゃんとSF作家として扱ってほしい。だから人には話さない。見栄ではない。正当なSF作家であるとの自負が、紛れもなくわたしの心の中にはあるのだ。
わたしの曾祖父もまたSF作家であった。曾祖父は、一応はプロの作家だったらしい。名前も一時は相当に知られていた。もっとも、書いた小説によってではない。曾祖父は作家としては三流、ほぼ無名と言ってよかった。彼が一躍有名になったのは、全人類の行く手を大きく変えた誰もが知るあの出来事。今日では“エイタック”と呼ばれる“宇宙人の襲来”によってであった。