スナイパーとして戦場 に駆り出されるとしたら、どんな仕事が待っているのでしょう? スナイパーには監視や偵察などさまざまな任務がありますが、やはり標的の狙撃は重要な仕事のひとつです。
『図解 スナイパー』(大波篤司 著)は、スナイパーに興味を持たれた方への入門書として、狙撃とは何か、スナイパーの技術や戦術 にはどのようなものがあるかなどをわかりやすく解説しています。今回はその中から、狙撃に際して優先して狙うべきもの・狙うべきではないものは何かを考察していきます。
目次
スナイパーが優先して狙うべき標的とは
スナイパーが狙撃を行う目的は“標的を狙い撃ってダメージを与えることで本来の能力を発揮できないようにさせ、結果として味方の利益となるようにする”ことである。 『図解 スナイパー』p.180たった1人のスナイパー、たった1発の銃弾で、戦場全体に大きな影響を与えることができる のが狙撃の特徴です。任務で狙撃対象が決まっている場合は別として、周囲に最大限の戦略・戦術的効果を与えるためには、どのような優先順位で標的を決めればよいでしょうか。
まず最重要とされる標的は「敵のスナイパー」です。
スナイパーは一般兵士とは異なり、敵に見つからないかぎり、たった1人で多数の兵力を一方的に排除できるという特徴をもっています。したがって味方の被害を拡大させないためには、敵のスナイパーを排除することがとても大切です。
また敵ながら同じ兵科であるスナイパーを優先して狙うことは、自分自身の安全を確保するためにも必要となります。
優先度の高い標的として、他に「特殊技能を持った兵士」や「指揮官」も挙げられます。 「特殊技能を持った兵士」とは、通信士や暗号員、偵察要員、火砲や迫撃砲を扱える者、犬とそのハンドラー(犬の訓練や指示出しを行う人間)といった者たちです。
彼らに共通しているのは、経験豊富な者が多く、代わりが利かない貴重な人材だということです。こうした人員をリタイヤさせることができれば、長期的な意味で敵を弱体化させることができます。
「指揮官」には将軍や隊長だけでなく、軍曹などの下士官も含まれます。現場のリーダー的存在がいなくなれば、高確率で敵部隊を混乱させることができるからです。
また指揮官だけでなく「副官」も、情報や兵站などの現場をを把握している場合が多いことから、優先順位の高い標的となるでしょう。
「対物目標」も立派な標的です。車両やヘリコプターといった移動手段や、無線機、通信施設などの通信手段を破壊できれば、味方にアドバンテージを与えることができます。 こうした「対物目標」は逃げたり隠れたりしないため、人間と違い比較的落ち着いて狙うことができます。
スナイパーが撃ってはならない標的とは
それでは逆に、優先すべきでない標的はあるのでしょうか。獲物が照準の先にいて、撃てばヒットできるとわかっている時、スナイパーの選択肢は2つに分かれます。
ひとつは好き放題に撃つというパターンです。もっとも、これは「戦場を混乱させたい」とか、「市街地の特定の道路・建物を封鎖したい」といった明確な目標がある場合に限られます。
もうひとつは撃たずに様子を見るというパターンです。狙撃対象が明確である場合、対象をおびき出す作戦でない限りはこちらの行動が選択されます。
狙撃兵は、自身が潜む位置を敵に知られてしまうことを避けなければなりません。もし敵に知られてしまえば当然敵は警戒し、場合によってはその場所に攻撃を仕掛けてくることもあるでしょう。攻撃を受ければ命にもかかわりますし、こちらもじっくりと標的に狙いを定めることが難しくなってしまいます。また、攻撃されなくとも標的に逃げられてしまう危険性もあります。
特に「要人暗殺任務」のような場合、狙撃兵をベストの位置に配置するだけでも莫大な手間と労力がかかっているはずである。任務に関係ない敵を倒すのにこだわったばかりに、肝心の任務を遂行できなくなったのでは割に合わないというものだ。 『図解 スナイパー』p.182スナイパーはあくまで「本来狙うべき標的」を仕留めることが最優先で、優先順位の低いものはあえて撃たないことも大切なのです。
優先順位の考え方~カウンター・スナイパーの場合
「本来狙うべき標的」が優先であるという原則は、自分がカウンター・スナイパーである場合にはさらに重要なものとなります。「カウンター・スナイパー」とは、敵スナイパーの排除を任務とする狙撃兵です。
敵スナイパーの排除を目的として、敵と同じ兵科であるスナイパーをこちらも投入することは、戦闘の常套手段となっています。カウンター・スナイパーが手配できない時には迫撃砲などを使い、スナイパーの潜んでいそうな場所ごと吹っ飛ばしてしまうこともあります。
こうしたカウンター・スナイパーにとっては、自らの潜む位置を敵に気付かれないようにすることはとても大切なことです。「本来狙うべき標的」を優先し、それ以外の敵はあえて撃たないことで、任務達成がしやすくなり、自分の生命の危険も減らすことができます。
通常は優先して排除すべき通信兵や偵察兵、ハンドラー(犬の訓練士)といった「特技兵」についても、自分が発見されそうだといったような差し迫った危機がなければ、手を出さないでおくのが無難といえよう。 『図解 スナイパー』p.182このように、スナイパーが標的にどのような優先順位をつけるかということは大変重要なことです。単に任務達成の成否やスナイパー個人の命にかかわるだけでなく、ひとつの判断が時に戦局を左右する場合すらあるのです。
本書で紹介している明日使える知識
- 部屋の中から狙撃するには?
- 機関銃で狙撃できるか?
- 航空機を狙撃するには?
- 最初の1発を外してしまったら?
- スナイパーの最後はどういうものか?
- etc...
ライターからひとこと
FPSをはじめとするミリタリーゲームでも、撃つか撃たないかのほんの一瞬の判断が、任務の成功に大きな影響を与えてしまいます。ゲームの世界ですらそうなのですから、現実の狙撃兵はどれほど判断力が重要なことでしょう。ゲームだけでなく、創作で銃撃戦を描く場合にも、本書は大いに参考になりそうです。スナイパー同士の心理戦など、緊迫した場面をリアルに描くための助けになると思います。