ファンタジー作品に登場する魔法使いや魔道士がお好きな方なら、おなじみの「ルーン文字」。作品ではもちろん、今でもアクセサリーなどに刻印されているのをよく見かけます。
今回はこのルーン文字について、その始まりや使われ方など、『魔術師の饗宴』(山北篤・怪兵隊 著)よりご紹介します。
目次
そもそも「ルーン文字」とは何か?
ルーン文字とは、ゲルマン民族が3〜14世紀ごろまで使っていた、一種のアルファベットです。1000年以上もの長期にわたって使われていたため、時代により少しずつそのかたちは変化しました。ルーン文字のなかでも最古のものは、「ゲルマン共通フサルク(futhark)」と呼ばれています。北欧を中心として、東は黒海から西はグリーンランドまで、かなりの広範囲で使われていました。
そして現代のように紙に書く文字とは違い、木や骨など、物に刻んで使われました。木や骨だけでなく、石碑や、金貨、留金、武器、槍先、護符など多くのものに刻まれています。
なぜ古代の人々は、ルーン文字を刻んだのでしょうか?
「ルーン」という単語は、「秘密」、「奥義」、「ささやき」、「神秘」などといった意味を秘めていました。
また、ラテン文字と同様に一文字ずつが音を持っているのとは別に、一文字一文字に固有の意味があり、それぞれ単独で使われることがあるのが大きな特徴です。
今よりも魔術が当たり前だった古代において、ルーン文字が神秘的な意図を持って使われたことは想像に難くありません。北欧などのゲルマン社会でこのような文字が発展した理由は、紙の原料となる植物や動物が少なかったためだと思われます。
後に製紙技術の発展とともにラテン語がもたらされると、ルーンは徐々に姿を消していきます。 そして、それは同時に、ルーンによる魔術の消滅をも意味しました。
名前書き用? まじない用? ルーン文字の使われ方
ルーン文字が刻まれたことの意味について、もうすこし見ていきましょう。ルーンが刻まれた石碑の内容には、船で遠くに旅立ち、ふたたび帰らなかった勇敢なヴァイキングの生涯を刻んだものや、死んでしまった父親の、偉大な業績を讃えて息子が立てたものなどさまざまなものがあります。 『魔術師の饗宴』p.55このように、石碑が立てられる理由の多くは、死者の業績を長く讃えることにありました。
では装飾品に刻まれたルーン文字にはどうでしょうか?
「どこの某これを所有」などと書かれている腕輪も発見されていることから分かるように、まずは自分の名前を書くことが多かったようです。
それとは別に、気に入った武器に、勇ましい名前を書くことにも使われました。たとえば「攻撃者」「早駆ける者」などの名前を刻み、その武器が闘いで大きな力となることを願ったのです。
初期の頃には槍などの先に刻まれていましたが、そのうち投げてなくしてしまう可能性が高い槍などではなく、剣などの接近専用武器に刻まれることが多くなっていきます。
魔術師でもある戦の神「オーディン」
武器に刻むことからもわかるように、ルーン文字は戦士の間で絶大な信頼をもっていました。それには、彼らが信仰する、北欧神話の神が大きく関わっています。戦士たちは、勇ましい戦の神である「オーディン」を崇拝していました。
彼は神であると同時に魔術師でもありました。そして、オーディンは闘い死んだ戦士をヴァルハラの館に連れていくと信じられていたのです。
面白いのは、オーディンは他の神話の神々と違い、最初から万能の神ではありませんでした。オーディンは自ら努力して、少しずつ力をつけていくといった、成長する神だったのです。
彼に魔術の手ほどきをしたのは、絶世の女神「フレイヤ」です。 その頃はまだ神々の間でもルーンは発見されておらず、フレイヤから伝えられたのは「ガルドル」という呪歌や、呪文による魔術が中心でした。
さらにユニークなのは、オーディンはさらなる力を得られるように、自分自身を生け贄として、自分自身に祈りを捧げたといいます。なぜならオーディンはもっとも偉大なる神だったので、もはや自分しか祈る対象がなかったのです。
やがてオーディンは、ルーンとその秘法を習得しました。 それは18にもなります。
【オーディンが習得したルーン】
一、救いの呪法 . 戦いや悲しみ、悩みなどを取り除く助けとなる。これらの多くは、オーディン自身によって人間にもたらされたといいます。ルーン魔術とは、まさに神の力を使う技だったのです。
二、癒やしの呪法 . 医術を志す者に必要とされる
三、敵への呪法 . 武器の刃をなまらせ、役に立たなくする
四、解放の呪法. 手足にされたいましめを、ほどいたり切ったりする。
五、矢止めの呪法 . 投げ槍などの飛び道具を、ひとにらみで落とす。
六、呪い返しの法. 呪いによって受けた傷を、それ以上にして相手に返す。
七、鎮火の呪法. 呪歌によって、火事の勢いをそぐ。
八、なだめの呪法. 親しい者同士に起こった憎しみの感情をなだめる。
九、航海の呪法. 海が荒れている時、風や波を鎮める。
十、退魔の呪法. 幽体離脱した魔女を、元の身体に戻れないようにする。
十一、盾の呪法. 戦士に勇気を与え、無事戦場から連れ戻す(盾にかける)。
十二、死人の呪法. ルーンの力で死者を動かし、話ができるようにする。
十三、守りの呪法. 水でその身体を清め、剣の刃が通らないようにする。
十四、知識の呪法. 神々や妖精達に関するすべての情報。
十五、小人の呪法. 神々には力、妖精には栄華、オーディンには知恵を授ける。
十六、情愛の呪法. 女性の心をとらえ、恋をかなえる。
十七、貞節の呪法. 女性の心変わりを抑え、自分の元に留まるようにする。
十八、最後の呪法. オーディンだけが知っている奥義。
『魔術師の饗宴』p.60
戦士たちはオーディンの力を、自分の武器に刻み込みたかったのでしょうね。
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さらにオーディンは、この力を使うために大切なことを伝えています。オーディン自身がルーンの本当の力とは見境なく無闇に刻むのではなく、効果のもっとも高い物の正確な場所に必要なルーンを刻むことであるといっています。 『魔術師の饗宴』p.55つまり、長々と文字を物に刻み込むのは、ルーンの本当の使い方ではなかったようです。 先にも述べたように、ルーン文字には固有の意味があります。
正しい場所に正しい方法で刻むことで、たった一文字のルーンが、絶大な力を発揮するようになるのです。
また、一文字刻むだけで済むならとっさのときにも簡単に使うことができます。
これこそがルーンの、本当の奥義といえるのです。
しかし、さらなる効果を期待したい場合は、さまざまな手順を踏むことが必要です。
その手順とは、正式には以下の8つの要素で成り立っています。
【正式にルーンを使う手順】
一、刻印.ルーンを刻みつけ、その祭器に魔力を込める技術的方法。ただし、これらをすべて行える魔術師はあまりいません。
二、解読.用いようとするルーンに対する知識と理解。他者が刻んだルーンと、それに込められた魔力を解読する能力。
三、染色.刻まれたルーンに塗り込む染料と、その意味。
四、試行.ルーンに秘められた魔力を解放するための条件と、その方法。
五、祈願.ルーンとそのルーンを司る神に対する、願いを込めた祈り。
六、供犠.その神への信仰と感謝を表すための生贄を捧げる儀式。
七、送葬.生贄の魂を神のもとに送り出すための儀式。
八、破壊.使用後、あるいは使用前のルーン祭器を、安全に処理、または無力化するための方法。
『魔術師の饗宴』p.63
魔術師同士の対決ともなれば、この8つの要素に関する正確な知識の量が、その勝敗を左右するのでしょう。ルーン文字は正しい方法で彫られなければ、その強力な力を発揮することはありません。
しかし残念ながら、その方法が残されているものは少なく、多くは名前や効果だけしか伝わっていません。利便性から別の文字に取って代わられ、人々は記録だけのために文字を使うようになり、ルーンの力は文字とともに忘れ去れてしまいました。
現在に残されている多くのルーン文字は、意味のない暗号となってしまったのです。
本書で紹介している明日使える知識
- ルーン魔術の実際
- 錬金術の理論
- 自然魔術
- 仙人になるための方法
- ホロスコープ占星術
- etc...
ライターからひとこと
ルーン文字が刻まれているアクセサリーなどは現在でも見かけますが、あれはルーンの使われ方として原始的な姿なのかもしれませんね。文字そのものは残っているのに、本来のパワーを発揮する方法が不明なのは本当に残念でなりません。なお本書には、オーディンが習得したルーンと秘法の詳細や、残されたルーン魔術の実践法などが記載されていますので、興味のある方はぜひ参考になさってください。