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時は人類が宇宙開拓時代を迎えた未来の世界。『ストーリーの作り方』の著者が、未来に生きるSF作家の姿を借りて贈る、著者ならではのメイキング解説を練り込んだSFパロディー。いま、人類が宇宙進出に至った知られざる真実が明かされる。
調査隊
作者:野村カイリ
調査隊が船内で見たものは、たくさんのエイリアンの死体だった。
調査隊が船内で見たものは、たくさんのエイリアンの死体だった。
エイリアンの姿は調査隊員たちがよく見知っている姿そのものだった。手足がほっそりと長く、背の低いのっぺりとした姿。特徴的な吊り上がった大きな目。
やはり宇宙人は以前から地球に来ていたのだ。侵略の下調べだったことが残念ではあったが、UFO愛好会の調査隊員たちは、UFOと宇宙人の存在を信じてきた自分たちの正しさが証明されたことで胸が熱くなった。
だが、いまは感慨に耽っている場合ではない。まずは調査が優先だ。この状況で第一に解明すべきは、なぜ侵略者たちが「一同こぞって」突然に死んだのか、であった。
結論は検体を持ち帰って調べてからのことになる。だが、調査隊員たちには確信があった。誰かが呟いた。
「やっぱウェルズってすげー」
古典SFの大家、H.G.ウェルズはとうに作品の中で予言していたのだ。つまり、いまやお馴染みのネタ。エイリアンを死に追いやったのは地球の平凡な微生物たちだった。絶体絶命の中で誰もが予測し得なかった大逆転劇。地球上ではごくありふれたウイルスも、エイリアンたちにとっては未知の病原体であり、抵抗力を持ち得なかったのである。
他人事ではない。“エイタック”の十年ほど前には、鳥インフルエンザの感染爆発(パンデミック)によって世界中で数百万人の死者を出していた。免疫を獲得したいまでは並のインフルエンザと変わらない。だがそうなるまでには、エイリアンたち同様に人類もまた多大な犠牲を出していたのだった。
「クックルクー」
聞き慣れた鳴き声に曾祖父が振り向くと、床をついばみながら白い鳩が歩き回っていた。 どこから入り込んだのかは知らないが、この平和の象徴が、人類に僥倖をもたらしたのだろうか。