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時は人類が宇宙開拓時代を迎えた未来の世界。『ストーリーの作り方』の著者が、未来に生きるSF作家の姿を借りて贈る、著者ならではのメイキング解説を練り込んだSFパロディー。いま、人類が宇宙進出に至った知られざる真実が明かされる。
宇宙船墜落
作者:野村カイリ
地球上の全ての楽観主義者までもが絶望したとき、宇宙船の攻撃は突然に止まった。
そして、スローモーションのようにして地上へと落ちていった。折しも日本の首都圏上空を通過していたときのことだった。
東京湾の埋め立て地に墜落した宇宙船は、半径数十キロの市街地を押しつぶして静止した。日本ではそれが最初で最後の被害となった。宇宙人が攻撃したのは主要国の大都市だけだったからだ。かつてならば破壊されていたはずの日本の大都市は、ほかの小国同様に攻撃を免れていた。
当然のごとく墜落した宇宙船の調査が行われた。
墜落した宇宙船に最初に入ったのは日本の民間の調査隊であった。調査隊と言えば聞こえはよいが、日本政府は攻撃を恐れてとっくに首都を捨て疎開していた。だから機敏に対応することができなかった。健在であれば日本の調査隊を蹴散らしてでも真っ先に乗り込んだと思われる駐留同盟国軍は、太平洋艦隊との協調作戦のうちに壊滅していた。
最初に宇宙船に乗り込んだのはどこの政府とも関係のない、日本のとあるUFO愛好会の会員たちだった。愛好家(マニア)といっても侮ってはいけない。乗り込んだのは大学や宇宙産業に勤める研究者や技術者である。専門分野はさまざまだ。宇宙工学、生物学、物理学。TVプロデューサーがいれば、作家や霊媒師がいる、といった具合に学識、経験、合わせて山師根性にも不足のない面々が揃っていた。小説であればご都合主義の最強メンバー構成だ。
彼らは会員の一人である警察官が職場から持ち出してきた化学防護服で身を固めた。そして自衛隊員の会員がやはり職場から持ち出してきた自動小銃1丁だけを頼りに、宇宙船(彼らにとってのUFO)を、間近で見たし、触れたし、入りたしの一念で、なにが待ち受けているかも知れない宇宙船内へと侵入した。指揮を執ったのは彼らが所属するUFO愛好会の会長、すなわち、わたしの曾祖父である。