1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 8話 9話 10話 11話 12話 13話 14話
時は人類が宇宙開拓時代を迎えた未来の世界。『ストーリーの作り方』の著者が、未来に生きるSF作家の姿を借りて贈る、著者ならではのメイキング解説を練り込んだSFパロディー。いま、人類が宇宙進出に至った知られざる真実が明かされる。
人類存亡の危機
宇宙船の大きさは映画のスクリーンからはみだすどころか、10キロ離れた場所から見ても視野からはみ出すほどだった。宇宙船の下は昼間でも暗黒となった。「超を幾つ重ねても言い表せない大きさ。圧倒的とはこのことだ……」と曾祖父は日記に書き遺している。超超超……超巨大宇宙船の容赦のない攻撃に対し、人類は通常兵器はもちろん、通常ではない兵器までも使用して対抗した。だが敵宇宙船には傷ひとつつけることすら出来なかった。宇宙人の侵略を描いた物語ではベタな展開である。
「人類は最早滅亡するしかないのか!?」
と誰もが、諦めかけたのも無理はない。
実際のところは、宇宙人の襲来以前から人類は未来を諦めかけていた。 とっくの昔に人類は存亡の危機に瀕していた。古くからSFのテーマとされてきた予測と警鐘の多くが、この頃には実際の災厄となって人類に降りかかっていた。
地球磁場の異常。太陽の異常活動。甚大な被害をもたらした小天体との衝突。人口爆発と一部地域での人口減少。深刻な土壌汚染と大気汚染。食糧資源と水資源の欠乏。鉱物資源の枯渇とエネルギー危機。遺伝子工学が招いた破滅的な結末と不幸。機械と管理ネットワークの暴走。反動としての独裁と圧政。人間性を奪う超管理社会。とにかく一気に来た。
SF作家の警鐘が現実になってしまっては、もはやそのテーマにSFとしての斬新さ、奇抜さはない。かといって、別のテーマを探そうにも、たいていの未来の不安事が実現している状態では、読者が目を見張る題材などおいそれとは見つからない。恐ろしいフィクションがノンフィクションになった世界、それは人類の受難の時代。と同時に、SF作家受難の時代でもあるのだ。