星座にまつわる神話があるのはご存じでしょうか。牡羊座から魚座までの12星座だけでなく、全天88星座にそれぞれの神話やエピソードがあるのです。
『星空の神々』(長島晶裕 著)は、全天88星座すべてにまつわるギリシア神話や伝承、星座のあらましなどを、イラストと文章で丁寧に解説しています。 今回はその中から双子座と蟹座を取り上げ、星座についての簡単な解説と、ギリシア神話の物語をご紹介します。
目次
双子座にまつわる物語①双子座の2つの明るい星
双子座は冬から春にかけて牡牛座の東に見られる星座である。 『星空の神々』p.57双子座は黄道12星座の第3座にあたる星座です。1等星のポルックスと2等星のカストルという2つの明るい星が並んでいます。この2つの星を兄弟に見立てた話はギリシアだけでなく、エジプトや日本など世界のあちこちに見られます。
双子座はプトレマイオスが選んだ48星座のひとつでもあり、古くから存在した星座なのです。また、地中海ではローマ時代から中世にかけて航海の守り神と考えられ、カストルとポルックスの姿を模した船首像が多くの船に設置されました。
双子座は流星群が見られる星座としても有名です。双子座流星群は毎年12月に出現し、しぶんぎ座流星群、ペルセウス座流星群とともに、3大流星群と呼ばれています。母天体はフェートンといわれており、これは彗星が活動を停止して小惑星になったものだとされていますが、まだ確定ではないようです。
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双子座にまつわる物語②兄弟愛にあふれたギリシア神話
神話でのカストルとポルックスは、スパルタ国の英雄である。彼らの神話は悲劇であると同時に友愛に満ちた、美しいものだ。 『星空の神々』p.57カストルとポルックスは、白鳥の姿をした大神ゼウスとスパルタの王妃レダとの間に4人兄弟として生まれました。レダはこの時、2つの卵を産み落とし、片方からは兄のカストルと姉のクリュタイムネストラが、もうひとつの卵からは弟のポルックスと妹ヘレネが生まれたのです。兄と姉は普通の人間でしたが、弟と妹はゼウスの血を引き不死身の身体をもっていました。
カストルとポルックスの兄弟はとても仲が良く、ともに武勇に優れていました。2人はそろってアルゴ号の遠征隊に参加するなど、多くの武勲を打ち立てます。
ある日2人は、叔父レウッキッポスの娘である姉妹をさらって妻にします。結婚式の席には従兄弟のイーダス、リュンケウスも呼びましたが、酒に酔って兄弟を侮辱したため、兄弟と従兄弟は争いをはじめました。口論はやがて戦いに発展し、カストルはイーダスの矢に当たって亡くなってしまいます。
ポルックスはなんとか従兄弟との戦いに勝利しましたが、兄の死を激しく嘆き悲しみます。兄は死んでしまったのに、自分は不死身なのでいくら傷ついても死ぬことはないのです。
大神ゼウスはわが子ポルックスの兄を想う気持ちに打たれ、2人がいつまでも一緒にいられるよう、カストルにポルックスの不死性を半分分け与えました。こうして兄弟は1日おきに天上界と人間界で暮らすことになり、やがて双子座となったのです。 双子座にまつわるギリシア神話としてはこの他に、兄弟と一緒に生まれた姉のクリュタイムネストラや妹ヘレネの物語も伝わっています。
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蟹座にまつわる物語①蟹座は暗くて探しにくい星座
蟹座は春先、双子座と獅子座にはさまれた位置に見られる星座である。 『星空の神々』p.57蟹座は黄道12星座の第4座にあたる星座です。黄道12星座の中ではもっとも暗い星座といわれています。
蟹座を探す時は、双子座と獅子座をまず探すとわかりやすいでしょう。双子座にはポルックスとカストルが、獅子座にはレグルスが明るく輝いており探しやすいのです。この2つの星座の間にあるのが蟹座で、蟹の甲羅にあたる部分にはプレーセペ星団がぼうっと瞬いています。肉眼では見えにくい暗いプレーセペ星団が実は星の集まりだと初めて観測したのは、ガリレオ・ガリレイだといわれています。
このように少々地味な蟹座ですが、双子座と同様、プトレマイオスが選んだ48星座のひとつでもあり、古くから知られた星座でした。
蟹座にまつわる物語②ギリシア神話・ヘラクレスの冒険
大神ゼウスとミュケーナイの王女アルクメネーとの間にヘラクレスという子が生まれました。ゼウスの妻ヘーラーは夫の浮気に怒り、ヘラクレスのことをたいそう憎みます。彼女は憎しみのあまり、策謀を使ってヘラクレスに彼自身の妻と子どもを殺させてしまいました。我に返ったヘラクレスは嘆き悲しみ、ゼウスの助言を受けて、ティーリュンスの王エウリュステウスのもとで12年間仕えることになりました。エウリュステウス王はヘラクレスに試練を与えます。レルネの化け蛇ヒドラを退治するよう命じたのです。ヒドラは9本の首を持ち、しかもこの首は何度切り落としても再生したため、ヘラクレスは苦しい戦いを強いられました。
ゼウスの妻ヘーラーは、ヘラクレスのヒドラ退治の邪魔をさせ、あわよくば彼を殺させようと、1匹の化け蟹を遣わします。ところが化け蟹はヘラクレスに踏みつぶされてあっけなく死に、ヒドラもヘラクレスの甥イオラオスの助太刀のもと倒されてしまいました。
こうしてヒドラは海蛇座に、化け蟹は蟹座となったのです。
また、ヘラクレスはヘラクレス座になりました。エウリュステウス王が彼に命じた12の冒険譚は、蟹座の他、獅子座や竜座、牛飼座などの神話としても伝えられています。
本書で紹介している明日使える知識
- 射手座
- 魚座
- 蛇遣座
- 牛飼座
- コップ座
- etc...
ライターからひとこと
ゼウスやヘラクレスといったギリシア神話の登場人物たちは、神様や英雄でありながら、失敗したり悪いことをしたりと人間味あふれる存在です。これこそがギリシア神話の人気の秘密なのかもしれません。本書ではこの他にも、全天88星座全てのエピソードを平易な言葉で丁寧に紹介しています。ヘラクレスのように、複数の神話にまたがって登場するキャラクターも多く、数々の冒険譚は読んでいて飽きません。夜空をながめていてふっと星座にまつわる神話を思い出せたら、素敵な夜が過ごせそうです。