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美少女が秘められし秘石!? ギリシア神話の伝承
バッカスは、あるとき嫌なことがあり、家来の虎を連れて散歩に出かけた。あんまり不愉快だったので、最初に出会った者を虎に食わせてしまおうと考えたのである。このとき、偶然にも一番最初にバッカスの前に現れたのが、月の女神ダイアナの神殿にお参りに行く途中の、アメシストと呼ばれる若く美しい乙女のニンフ(精霊)だった。 『パワーストーン』p.16バッカスはディオニソス とも呼ばれ、ギリシア神話の酒の神様として有名です。 そしてニンフは若くて美しい、魔力を持った妖精です。ギリシア語ではニュンペーと呼ばれています。
この話によるとアメシストは、もとはニンフの名前だということになります。若き乙女のアメシストは、バッカスの虫の居所が悪いという理由で、虎に食べられそうになってしまいました。しかし、新たな人物の登場によって物語は思わぬ方向へと向かいます。
この様子を見た女神ダイアナがアメシストを救うため、一瞬のうちに彼女を石に変えてしまったのだ。これを見たバッカスは大いに後悔し、その石にぶどう酒を注いで、美しい紫色の宝石に変えた。そして、「この宝石を身に付ける者は誰であれ、酒の酔いから守られるであろう」と宣言したのである。もちろん、このときからアメシストは酒酔いを防ぐ石になったというわけだ。 『パワーストーン』p.16こうして妖精だったアメシストは、虎には食べられなかったものの、石へと姿を変えられてしまいました。
創作物のなかで美少女として描かれることの多いニンフが、アメシストの輝きの奥深くには潜んでいるわけです。
バッカスが授けたお酒に酔わない力のほかにも、魔力で人を惑わせたり、牧畜を守護したり、病気の治癒に役立つといったニンフの力も、アメシストには秘められているかもしれませんね。
もうひとつ注目すべきは、アメシストの紫色の光です。この美しい紫色は、ぶどう酒の色と関連づけられてきました。
古代のギリシアやローマの酒宴ではぶどう酒が親しまれていたため、当時の人々が酒宴におもむく際には、お酒に酔いつぶれないようにアメシストの装飾品を身に着けたといいます。神秘的なアメシストの光が酒宴を彩るというのも、なかなか絵になると思いませんか。現代でも装飾品として利用されるアメシストですが、古来より伝わるギリシア神話と関わりがあるのは興味深いですね。
信仰の十字架!? 『狭き門』でのアメシスト
中世ヨーロッパのキリスト教徒はアメシストを愛、真実、情熱、受難、希望を表す宗教的献身のシンボルとみなしていた。また、カトリックの司教たちがこの石の指輪を身に付けたため、アメシストは“司教の石”とも呼ばれていた。 『パワーストーン』p.19時代が下がり中世期、ヨーロッパでは、 アメシストは第六感に作用するスピリチュアルなパワーストーンとして、神に仕える者が好んで身につけました。紫には帝王紫という種類があるように、ローマ皇帝のマントの色にも使われる高貴な色とされてきました 。
アメシストの紫色は、宗教家の高潔な精神をあらわすものとして珍重されたのでしょう。
フランスの作家アンドレ・ジットの小説『狭き門』のなかでは、主人公ジェロームの愛する従姉アリサが小さなアメシストの十字架を首にかけていた。これも、もしかしたら彼女の信仰心と関係があったのかもしれない。 『パワーストーン』p.19『狭き門』では、神の信仰心とジェロームに対する愛情の板挟みとなってしまったアリサが身につけたアイテムとして、アメシストの十字架が登場します。アリサはジェロームを愛していましたが、それは地上での幸福を求めず神に身を捧げるという、敬虔なキリスト教徒としての彼女の信仰に反するものでした。 結局、アリサはジェロームへの愛ではなく、神への信仰を選びます。
アメシストの紫の輝きには、情熱と冷静さという、相反する要素が同居しているとされています。 アメシストの十字架は、神の信仰心とジェロームに対する愛情がせめぎ合ったアリサの心情をよく象徴しているアイテムだったのです。
また、アメシストには誠実な恋人と出会えるという意味もあります。誠実な愛のシンボルとして、物語に登場させるのも素敵ではないでしょうか。 アメシストに秘められたさまざまな意味が、ヒロインを効果的に印象づけてくれるでしょう。
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ダイイング・メッセージとしてのアメシスト活用方法
神秘的な輝きを放つアメシストは、推理小説のアイテムとしても用いられました。本書ではエラリー・クイーンの『ガラスの丸天井付き時計の冒険』での一場面が紹介されています。この小説では、ダイイング・メッセージが重要な役割を果たしています。 そう、アメシストはダイイング・メッセージとして使われたのです。あるとき、オールという男が殺された。彼の左手には、彼が所有していた多数の宝石のなかから選ばれたらしい紫水晶(アメシスト)が握りしめられていた。もちろん、犯人を知らせるダイイング・メッセージとしてである。これを見たエラリー・クイーンの推理が冴える。 『パワーストーン』p.21数ある宝石の中で、なぜアメシストが選ばれたのか、読者の好奇心をかき立てます。
では、ダイイング・メッセージとしてのアメシストが意味するものはなんだったのか? 宝石好きの人なら、すぐに気がつくかもしれない。それは、アメシストが2月の誕生石だということだ。 『パワーストーン』p.22アメシストが2月の誕生石であることは皆さんご存じかもしれませんが、これまでご紹介してきたように、ほかにもさまざまな意味があります。お酒に酔ってしまうのを防ぐアイテムだったり、時には神への信仰心を示すアイテムだったりします。
『ガラスの丸天井付き時計の冒険』でも、単純に2月生まれの人物を犯人としてはいません。意外性を狙ったところに、作品としてのおもしろさが出てくるのでしょう。
本書で紹介している明日使える知識
- 空を飛ぶ神秘の能力を授ける石/マイカ
- 見えない世界を映し出す魔法使いの宝石/ロッククリスタル
- 神が親しんだ聖なる青い石/サファイア
- この世で最も貴重な東洋の魔石/ネフライト
- 無限の時間を生き続ける青い霊石/ターコイズ
- etc...
ライターからひとこと
紫色の輝きが存在感を誇るアメシストですが、これまで見てきたように多種多様な意味が秘められています。 創作物に登場させる場合にも、それらを活かしてさまざまなシチュエーションに対応させることができそうですね。 効果的に使えば、あなたのキャラクターを深く印象づけるアイテムにもなります。本書ではアメシストの他にも、有名なパワーストーンに秘められた意味を知ることができます。パワーストーンを創作物で活用したいと考えている方にとってもオススメの内容となっています。