忍具といえば、皆さんはどのような物を想像しますか?
手裏剣、忍者刀、クナイ、撒菱……様々な秘密道具が思い浮かぶと思います。しかし、実際の忍者はどうやら貧乏だったようで、製造に手間暇のかかる平な手裏剣(車剣)や、鉄製の撒菱などの使い捨ての道具にお金を掛けているわけではなかったようです。
では、忍者は一体どのような忍具を使っていたのでしょうか。
今回は忍具について、『図解 忍者』(山北篤 著)を参考にしながらお話します。
目次
忍者愛用の忍具「手裏剣」は棒型だった!?
忍者が手裏剣を敵にシュッと投げつけて、次々と相手に命中させる姿はあちらこちらの創作物でよく見かけますね。そういった、私たちのよく知る平な手裏剣を車剣といいます。
車剣は投法にあまり技量を必要としない代わりに、携帯性に欠けることや、細工が必要なことから高価でした。さらに当たっても相手へのダメージが少ないため、私たちが想像するほどメジャーな忍具ではなかったようです。
では、どのような忍具が当時の忍者に人気だったのでしょうか。
実は、利用率が高かったのは棒型で片側の先端が尖っている「棒手裏剣」でした。
棒手裏剣がよく利用されていた理由のひとつに、安く手に入ることが挙げられます。最初にお話したように、忍者は地位が低く貧乏で、車剣のような細かい細工物をたくさん買う余裕はありませんでした。投げたら無くなってしまう消耗品にお金を掛けることは難しいのです。
そして、棒手裏剣が選ばれたもうひとつの理由は、任務の際に携帯しても邪魔になりにくいから。
車剣は形からしてかさばりやすく、トゲトゲしているので収納するのも一苦労です。
それに比べて、棒手裏剣は基本的に一本の棒なので、収納しやすいという利点がありました。左の前腕の外側に厚手の布を巻き、棒手裏剣を差し込んで収納します。鉄製の棒が巻かれた状態ならば、籠手の代わりにもなりますよね。籠手以外にも、手に持って対象を刺したり、楔代わりに打ち込んだりすることも出来るため便利でした。
また、車剣よりも棒手裏剣の方が、相手に命中したときの威力が大きいというのも理由でしょう。手裏剣の重みが一点に集中していることにより、刺されば深く傷をつけることができました。しかし、刃が一か所しかないため、命中させるためには技量が必要で、車剣よりも当てることが難しかったようです。 そんな手裏剣ですが、意外な工夫がこらしてあります。
焼き入れして熱い手裏剣に、絹布をかけて炭をこびり付かせることで作っている。『図解 忍者』p.70この工程を踏むことによって、黒くて目立たず、錆びに強い手裏剣が完成します。さらに、すべすべした鉄表面より加工を経てざらざらとした表面の方が空気抵抗も少なくなり、遠くまで飛ばせる手裏剣になることが科学的にも証明されています。
もちろん、当時の忍者はそんな科学的な分析はしていなかったと 思いますが、古くから続く経験や工夫によって生まれた技術なのではないでしょうか。
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忍者は貧乏! 忍具には鉄よりも木の実を使っていた?
撒菱とは、忍者がばら撒いて敵の足止めに使った忍具です。鬼菱や姫菱などのトゲトゲとした実や、木または鉄でそれらを模したものを使いました。こんなものを撒かれたところで足止めになるなんて、現代のように底の厚い靴を履く文化ではあまり考えられませんね。
司馬遼太郎の『国盗り物語』の作中にも、豊臣秀吉が織田信長の草履を胸元で温めたという逸話が出てきますが、信長のような偉い人ですら草鞋を履いていた時代です。繊維を編んだだけの草履は固い靴底と違い柔らかく、尖った物を踏めば足の裏に刺さって痛い思いをしたことでしょう。実際、画鋲をうっかり踏んだことのある人ならばわかるとおり、効果てきめんではないでしょうか。
しかし、「撒菱」とは言いますが、通常の菱の実を撒菱に使うことはありませんでした。というのも、菱の実は棘が二か所しかなく、撒いた時に必ずしも棘が上を向くとは限らなかったからです。鬼菱や姫菱には四か所もの棘があり、ほとんどの場合棘が上を向くような形になっていたため、この形状を参考にして撒菱がつくられました。その中には、硬い木を四面体に切った木菱や、四方にトゲと返しがいている鉄菱などもありましたが、お話したとおり忍者は貧乏なので、実際にはそのような細工をした撒菱はあまり使われなかったと考えられています。
爆弾も忍具のひとつだった!? 木砲と火器
忍具といえば、手裏剣や刀が使われていたと思うかもしれませんが、意外にも忍者は大砲も使っていました。といっても、何度も言うように忍者は貧乏です。敵に見つかって逃走を余儀なくされたとき、大砲を捨てて逃げるのはお財布にも精神的にも辛いですよね。
そこで、忍者は木製の大砲である木砲や皮製の皮砲、紙製の紙砲など、安価で数回しか使用できない大砲を使用しました。もちろん耐久性は無く、1~2回しか使えないのですが、捨てて逃げなくてはならない時や、大砲を敵に取られてしまった時も、すぐに壊れてしまうので問題ありません。
また、忍者はこの他の火器も使用します。火器とは、火を使う道具全般のことを言い、なにも銃のことだけを指すわけではありません。また、忍者の仕事のひとつ「不正規戦」の中では、食糧や野営中の天幕に火をつける「焼き討ち」もおこなっていましたので、火の扱いは非常に長けています。
火器の例として、鉄砲玉の代わりに、水につけて唐辛子の粉をまぶした綿を丸めて糸で巻いた「鉄砲生捕火」や、夜討の際に火矢として使って敵の天幕や食料などに放火する「矢討天文火」などがあります。
鉄砲玉の代わりに唐辛子を用いたことを見ても、あまりお金に余裕のなかった忍者ならではの工夫がうかがえますね。
本書で紹介している明日使える知識
- 忍び刀
- 旅弓
- 灯り
- 結梯
- etc...
ライターからひとこと
いかがでしたでしょうか。忍具には意外と実用的なものが多く、忍具を調べてみると忍者が火や土木の扱いにいかに長けていたかがわかると思います。そして、忍者がかなしいくらい貧乏だということもわかります。ハードな仕事とは裏腹に、報われないのが封建社会というところでしょうか。こちらの記事では、忍者を見張りや大名、足軽と戦わせるとどちらが勝つのか考察しています。